29.すべらかな感傷とその見解

「おめでとうシカマル!!」

パァン!!クラッカーが派手な音を立てて中身のカラフルな紙を撒き散らす。いのやチョウジ、アスマがなんなのか近頃ニヤニヤしており。薄気み悪かったのだが、いつもの焼き肉屋に連れてこられ、あれよあれよという内に席に座らされ、何事かと思ったら…。

「な…んだよ?」
「やだなぁ、シカマル」
「は?」
「聞いたわよ!!あの試験で唯一受かったの!シカマル!!」

――中忍試験合格おめでとう!!

そうなのだ。あの時木ノ葉崩しで妨害されてしまったが、中忍試験は継続中であったのだ。シカマルの才を買われ、唯一中忍試験を合格したのだ。

「おめでとうシカマル!!」
「……、サンキュー」

散々いじられ、散々祝われ…シカマルが帰路についたのは日がとっぷり暮れた頃だった。いや、こういうのもたまにはいいかもしれない。自分のことのように喜んでくれた第十班のメンバーとアスマ。下忍と違い、中忍は危険な任務も増える。いま、自分が身につけているものはベスト…中忍から上の忍達が着用を許されるのだ。着慣れないものは肩が凝る気がして…。もうなんの溜め息かわからない。小さく、口角が上がる。その時だった。音一つ立てずに、まるで風に乗ってきたかのように。スタン、とシカマルの目の前に人影が降りた。一瞬で覚醒した脳ですぐに腰のホルダーに手を伸ばして―…

「シカマル。待て。俺シモクだ」
「!!!」

それこそ有り得ない。目を見開いたシカマルは今度こそクナイを構えた。

「…本当に兄貴か?」
「そう言うだろうと思って面をつけてこなくて正解だった」

月明かりに浮かび上がる顔は少し困ったように微笑むシモクだった。

「任務は…?」
「お休み」
「なら、俺になんの用なんだよ」

いつも姿を現さないくせに、のこのこと…。シカマルの態度にも些かトゲがあるようにも見える。まあ、これは自分が生んでしまった当然の態度なのだとシモクも気を悪くせず、ただ笑った。いつもの馬鹿笑いとは程遠い…儚い顔で。

「用…うん。お前にはいつも俺の我儘を聞いてもらうばかりで…ごめん」
「…は?」
「…俺が暗部にならなければ、お前が嫌な思いしなくて済んだものを…俺は最低な兄貴。アカデミーの卒業も満足に祝えなかったし、中忍試験も…表立って見てやれなかったけど」

でも。シモクは伏せていた目をそっとあげた。

「俺な、意外なところで実はシカマルの試験、見てたんだ」
「!!!!」

ただ、驚いた。まさか、いや…自分もあまり周りを見ていなかったが…まさか全ての会場にいた?チョウジの言っていた通り…

「だから。シカマルの火の意志が身を結んだんだと思ってね。今日はそれで会いに来た。…シカマル、中忍試験合格おめでとう。信じてたよお前が受かるのを。…よく頑張ったな」

一度だけでもいい。"頑張ったな"、……そう言って欲しかった
―シモクは、きっと何処かでシカマルのこと見てると思うよ。

嗚呼…そうか…俺は…これだけを兄に求めていたんだ。成長するにつれてあんなに鬱陶しく絡んでいた兄が暗部に入り、途端に会うことが減った。次には笑顔も減った。言葉も減って自分をその疲れきった瞳に入れなくなった。いや…違う。兄はただ恐れていただけだった。俺を映さなかったんじゃない。映せなかったんだ。そんな兄に腹を立て、遠ざけてしまったのは…俺の方だ。兄はいつでも見てくれていた。見えない場所で、密かに見守ってくれていた。暗部の多忙さは承知。なのに…こうしてシカマルの前に現れた。

「これからは、暗部と手を組みやっていく任務も増えるだろう。…同じ木ノ葉の仲間としても、よろしくな…シカマル中忍」
「…っ」

そこにある笑顔は、確かにシモクのもので。久し振りに見た、彼の素の顔であったことにシカマルはなにも言えない。こんなに弱い兄を。脆い兄を。見てみぬ振りで、完璧に悪者に仕立てあげていた。

「…兄貴、俺いまなら兄貴の気持ちわかるわ。…別に中忍になったからって訳じゃない。」
「……人の命は、尊いだろう。…俺もそれを再確認したんだ。今回の木ノ葉崩しで」
「知ってる。…小隊が全滅したって。…兄貴そこにいたって」
「…軽蔑するか?一人だけ無様に生き残ってしまったことを」
「あんたも、俺の言葉ちゃんと聞いてくれ。…俺は言った筈だぜ。…生きてさえいてくれたら…良いってな。」
「…そう言ってくれたの。お前が初めて」
「なぁ。兄貴。休みなら少し付き合えよ」
「なにに?」
「チョウジ達に散々肉食わされて、ちーと歩きてぇんだ」
「…わかった…ありがとうシカマル」

星空が、静かに瞬いた。




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