28.籠の中からさようなら

仲の良い親子。あの厳格なる日向家で唯一お気楽家だった新は両親と3人家族で。ネジとは従兄弟に当たる関係だ。新がアカデミーに行っていたように、両親も現役の忍であった。あの運命の日までは、全てが満ち足りて幸せだったのに。九尾は突然現れた。アカデミーであった新も含め、若い世代は里内の問題だから手出し無用と。当時、三代目火影にストップをかけられた。…四代目火影はクシナ様と共に亡くなり、里にも甚大な被害が出た。新の…両親の遺体も発見された。現役の忍であったなら里内での問題を片付ける為、戦わざる得ない。逃げ出す者など、仲間を里を見捨てる忍など。この木ノ葉隠れに存在しないのだから。だから新の両親も増援部隊に組み込まれ、九尾に向かっていったのだろう。荒れ地と化した里を見下ろして幼い新は願った。

『…返して』

小さな拳を、きつく握って。

『返して!!』

天に向かって、あのときと変わらず輝き続ける月に叫んだ。

『返せよおおおおお!!!!』

そして――…新は日向内で近しい親戚派閥の養子となり、当時赤子であったネジの世話係を任されることになるのだ。

「…懐かしい、って思えるようになれたんだ」
「…」
「勿論九尾は憎いさ、でもうずまきナルトを嫌うのは筋違いだ」

彼も、両親を生まれてすぐ亡くしたんだ。望んでもいない九尾が腹に封印されて、それで里の住人から遠巻きにされて。孤独を歩いてきたんだ。

「ただ…暁がその尾獣を狙うっていうなら、俺はナルトを守る。あんな思いはごめんだ」
「…新、その気持ちは俺も同じだ。俺も九尾出現の際、妹を亡くした。…あの話しが本当ならば、俺も命捨てる覚悟で暁に挑むぞ。」
「…オクラ」
「弔いなんて思ってねーさ。だけど俺達の里を、あいつらが生きた里を俺は守りたい」

…昔から、人一倍正義感に暑く曲がったことは嫌いな性格。器がでかく、そのおおらかな笑顔で新達をいつでも迎え入れた。両親が亡くなり、荒んでいた傷も彼のおかげでだいぶ癒えた。口に出して言えないが、感謝しているんだ。新は真っ直ぐな目差しのオクラを見て目を伏せた。嗚呼、眩しい男だ。大切な家族を喪っても、その眩しさは変わらない。

「じゃ、オクラ。ここで」
「ん。」

新はオクラと別れた。目指すは墓地だ。大きな鳥居をくぐり抜け、目にまず入るのが夥しい数の墓石。平たい四角の岩には名前と木ノ葉のマークが刻まれている。新は迷うことなくそこに立った。用意していた花を生け、その場に片膝をつく。

「父さん、母さん…もう最近めっきりここに来ることがなくなったけど、別に忘れていたわけじゃないんだよ…俺ね、今上忍やってるんだ…難しいこといっぱいあるけど…」

今楽しいよ。

「こなくなったのはオクラ達と仲良くなれた時だったよね。俺人付き合い苦手だったから…心配かけていたと思うけど、大丈夫、今じゃ大好きさ」

新の声はどこまでも穏やかだった。

「でもね、いま尾獣を狙う犯罪集団の行動が目立つんだ。…俺は貴方達の命を奪った九尾…ううん。それを封印してくれた男の子を…守るよ」

それが、貴方達の残した火の意志ならば。

「じゃあ…もういくね…次逢う時は、少しでも立派になった俺で逢いたいな」

静かに立ち上がった新は木の葉が舞う風を感じて墓地を後にした。




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