26.心の裏側に伝う

「!!ん?」

なんだろう…いま嫌な予感がしたような気が…。新は完全に撤去した瓦礫の山を見据えてやっと終わったと一息ついた。だいぶあの一件から復興作業が進み、里も元に戻りかけていた頃だった。

「新!!!!」
「!?オクラ?」
「シモクと、カカシさんが…!!!!」
「なっ…!?」

オクラだ。いつもの爽やかだが妙に暑苦しい笑顔は何処へやら。額に汗を浮かべて大慌てで走り寄ってきたのだ。木ノ葉病院に収容されたというカカシに対面すべく全速力でオクラと病室の戸をぶっ壊す勢いで開放した。カカシは幻術を受け戦闘不能になった事を聞いた。まだ意識は混濁しているようで暫し休息が必要とのこと。次に…シモクだが。

「シモク…?入るぞ」

カカシと違い、意外と神経質なシモクの病室は静かに。

「なっ!なにをしているのだシモク!!」
「お前に関係ないだろオクラ!」
「関係ないだと!?お前、俺達はアカデミーからの付き合いではないか!!」
「待てオクラ!シモクもなに気立っているんだ」

腹に包帯を巻きがらも無理やり身体を起こし、暗部の服に袖を通そうとしていた。なにをしている、なんて聞くのは当然だ。

「ちくしょう!!!なんであいつ…ッ、追いかけなきゃなんねーんだよ!!離せオクラ!!」
「離すか!!事態を説明しろ!カカシさんといい…なにがあった!」
「………お前ら上忍の一部も知ってるよな、暁について」
「あ?…ああ、それが…?」

新は荒んだシモクの眼光を受け止めながらも静かに聞き返す。

「木ノ葉の里も警戒態勢は整えられていた…周りに張っている結界もだ。…だが今さっきその結界を優に超えて来た者達がいた、俺はそれを捕縛しようとしたが…出来なかった」
「まさか…その侵入者が、暁の者だと言いたいのか?」
「ああ…確信はある、あいつらは暁…S級犯罪者だと」
「信じられん!里の警備は万全なはず!!」

「俺もそう思ったんだ、だが結界は緩んでもいない。…つまりはその侵入者がとてつもなく凶悪で、尚且つ幻術を使うのに長けている…そんな奴等だったなら?」

「……正門から突破することも…出来ないこともない…」
「…そう、そして正体はわかったんだ。あいつ、どこで野垂れ死んでるかと思ったら…木ノ葉の抜け忍、うちはイタチだ。そしてもう一人あの刀…抜忍干柿鬼鮫といったところか、ビンゴブックで見た。」

シモクの口から紡ぎだされるとんでもない内容。やはりさっき感じた違和感は…。では、なにか?そんなS級犯罪者を今の今まで里内に入り込ませていたということか?…木ノ葉の失態だ。

「カカシ先輩はイタチの写輪眼の幻術…"月読"を受けたんだ」
「…シモク、お前やけに詳しくないか…そいつのこと」
「俺とイタチは暗部でツーマンセルを組んでいた仲だった」
「あのうちはイタチとか!」

オクラの驚愕の声が響く。驚きたいのはこっちだ。

「抜け忍は捕縛しなければならない…逃してしまった…」
「……シモク、こんなこと言いたくないが…"逃がした"…ではないんだよな?」
「新!!なにを言っているのだ!!」
「黙ってろオクラ、…どうなんだシモク」
「……俺はどんな理由があろうとも、里を裏切る真似はしない」

新の白眼を見返すその瞳に嘘は見受けられない。

「わかった、…悪いな勘ぐったりして」
「それも仕事の内なんだろ」
「はぁぁ…お前ら…昔から本当に俺に心労を与えるのがうまいよな」

オクラが緊張の糸が緩んだのを感じたのか、はぁ、と深いため息を吐いた。

「それは…もう上層部には?」
「知れ渡ってるだろうな…どうやら暁の事はかなりおお事だ。」
「おお事…?一体暁はなにが狙いなんだ」
「………恐らく、尾獣だ」
「知ってたのか」
「ああ。ちらっと聞いたことがあったんだが…やはりそうなのか…?」
「内容は新が考えている通りだ。あいつらの目的は各里の尾獣を狩ること」
「では、木ノ葉のうずまきナルトは…」
「勿論対象だ。今回あいつらはうずまきナルトの九尾を狙ってきたに違いない」

なんてことだ。九尾なんてそんなもの…また世に放ってみろ。あの悪夢が再来してしまう。当時はなにもできなかった、逃げることしかできなかったあの時の悔しさを今でもはっきり覚えている。だから強い忍になろうと思ったし、それは今でも変わらずそこにあるのだ。

「…尾獣の恐ろしさは二人も知っての通り、凶悪だ。だからこそ絶対に木ノ葉の九尾は、守らなくてはならない」
「つまり…ナルトだな?」
「そこは心配いらないそうだ。…自来也様がナルトに修行をつける話しになったんだ。あの四代目の師である自来也様だ、信用できるだろう?」
「自来也様が?」

シモクは新の言葉に目を見開いた。

「火影候補を迎えに連れて行くらしい。…ナルトにも、今後九尾のことで色んなリスクが今以上に付き纏うだろう、だからこそナルトには強くなってもらわないといけないんだ」
「…うずまきナルト、可哀想にあんなに小さいのに」

オクラも腕を組みながらしみじみ言った。人柱力の境遇は知っているからだ。オクラはナルトと面識はないが特に偏見はなく。むしろ普通の子どもの一人と数えるオクラも面識が持てればナルトにとっての良い大人となれるだろう。

「わかった、よしオクラ。そいつ取り押さえろ」
「あ!?へ、ちょ!!?」
「馬鹿かお前、怪我人が何処行こうとしてんのかな?ん?」

オクラにがっちり体を押さえられたシモクは新に恨みがましい視線を送った。

「チャクラもないんだろ?…今日は休めよ、な?」

観念したように両手をあげたシモクに新はよし、と満足したように頷くとカカシに病室へ戻った。

「カカシさん」
「よ、新」

予想通り、やはりカカシの目は覚めたようだった。

「シモクから聞きました。」
「…そう?なんか格好悪いじゃないの俺」
「今更気にしないでくださいよ」
「貶された?俺貶された?」

冗談なやり取りは細々続いたが笑っていられない状況なのは双方わかっている。

「……カカシさん」
「わかってるよ、…俺達もナルト同様、少しでも…」

少しでも、これから起こるであろう事態に備えなければならないんだ。


新とオクラに無理やりベッドに縫いつけられてどうも毒気が抜かれてしまったシモクは大人しく横になっていた。

「…イタチの…」

イタチは、あの面を割ったクナイでの攻撃以外なにもしてこなかった。それはカカシやアスマに紅が駆けつけてきても変わらなかった。…自分も、イタチに手を出せなかった。任務に私情を挟んではならない。ナグラに耳に凧ができるくらいにうるさく言われたことだ。イタチは暗部にいた頃もズバ抜けて強かったが更に強くなって目の前に現れた。俺を、殺そうと思えば殺せただろうに…なのにしなかった。

『シモク、お前は――』

……イタチはなにを言いかけた?そのとき気配を感じてがばっと起き上がればいつの間にかベッドの隣にはテンゾウが腕を組んでそこにいた。

「テ…テンゾウさん」
「あ、いいよ起きなくて。」

なんとなくこの人は怖い、だからなんだか従わなくてはならない衝動に駆られ…今では上司と部下という完璧な主従関係ははっきり誕生しているのだ。

「すいません……取り逃がして…しまいました」
「いや、僕が悪かった。あのカカシ先輩でも敵わなかったんだ。納得がいく」
「……そうじゃ、ないんです」
「ん?」
「俺は…俺はイタチに…手が出せなかった…!!」

"……シモク、こんなこと言いたくないが…"逃がした"…ではないんだよな?"

「暗部なのに…面をつけてなくても…俺はあのとき暗部の奈良シモクだったのに!」

手が、出せなかったのは…まだイタチを友人だと思っているからだ。捨てきれないから。イタチが好きで木ノ葉に牙を向いているのではないと。わかっているからこそ、辛いのだ。イタチはまた暁と木ノ葉に板挟みにされる、あのときと同じ。俺はなにもできないまま。いつもいつも、イタチは…!!!

「意図して逃がしたわけじゃありません…それは、誓って、言えます…でも、でも俺!」
「……わかった、もういいよ」
「…っ、すいません…で…、したッ…!!!!」




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