24.てのひらに星屑を

忙しかった。それはとてつもなく忙しかったのだ。言いようのない現実離れした浮遊感と、得体の知れない何処からともなく湧いてくる歓喜。そう…とうとう新の願いが叶ったのだ。

「本当なのかネジ!!!?」
「ああ、そう言ってるだろう?」

ネジの表情も、どことなく長年の重荷から解放されたようで。宗家と分家が仲違いしたのは今からもう随分前のこと。恨み恨まれ、憎み憎まれ。それがいつしか日向一族派閥になっていたのだが。今回の木ノ葉崩しが起きた後、ネジから聞かされたのはとんでもない内容だった。

「日向家の宗家、分家が和解した」

和解……どれほど待ちわびた瞬間だったであろうか。思わずネジの両手をとり、幼子のように振り回して歓喜した。

「やった!!やったな!!良かった…良かったなネジ!!」
「ちょ…っ」
「俺、俺ようやくっ、ようやくこれでお前も…」

ネジも、重苦しいだけの復讐心に駆られることはない。話しを聞けばヒアシの方から謝罪してきたという。新はずっと里の復興に尽力し、寝食も同じ上忍達と過ごしていたので日向の話し合いに間に合わなかったのだろう。それでもいい。

「良かったな!!!ネジ!!」

眩しいほどの笑顔を向けられて。どこまでもネジを優先してしまうその性格。自分がどんなに冷たくあしらおうとも、突き離そうとも。いつでも優しくその大きな両腕を広げてくれているのだ。己が素直じゃないのは百も承知だ。自分が運命だと話したあのとき、本当はどこかでその言葉をこの男に否定して欲しかった。本選でうずまきナルトと戦ってわかった。分家だからじゃない、呪われているからじゃない。運命で一括りするんじゃない。ずっと昔から新が向けていてくれた言葉にずっと背を向けていたのは自分で。…ただ苦しくて。それも、あの瞬間で終わったのだ。新の言葉に背中を押され、ナルトの言葉で前を向けた。自分の運命は己で切り開くと。今なら、もうこの呪印なんて気にならない。俺はもう籠の中の鳥ではない。そんな運命、受け入れない。

「嗚呼…良かった」

素直にそう言えるのだ。少々恥ずかしいがこの手を離さないのも、そういうことだ。

「よっしゃ!!俺も久しぶりに家帰ろうかな!!結構一段落したんだ」
「そうか」
「そう!さーてなに作ろうかなぁ」

新の顔色はすこぶる良い。雑用と貫徹で疲れきって疲弊していたさっきとは全くの別人だ。それほど新の脳天に電撃が走ったということなのだろう。大股で歩くその歩幅にネジの足が追いついていないことに気付いてあげたほうがいい。それでも嬉しそうなその気分に水を差すのも引けたネジは呆れたように溜め息をつきながらも文句を言うことはなかった。木ノ葉崩しで怪我をしたのは新も同じ。まだ"守られる対象"のネジ達はなにも出来なかったのだ。

「…怪我は大丈夫なのか?」
「なに、たいしたことじゃないよ。…暗部達に比べれば…全くな」
「それでも戦ったんだろう?」
「まぁな。俺は上忍だし、戦わないでどうすんだよ」

へらりと笑った新の鼻には絆創膏が横に貼り付けてある。ベストで見えないがその服の下も同じようなことになっているのだろう。

「結局…大蛇丸を取り逃がしちまったし…三代目様も…」

介入できなかったのだ。あの大蛇丸と三代目の戦いに、参戦できなかった。できるようなレベルの戦いではなかったからだ。それにその刻、新は尾獣化した我愛羅をナルト達第7班と追っていたのだから現場の惨事は語れはしない。

「五代目火影を立てるのが先決だ。」
「ああ、里を束ねる火影がいなくては回るものも回らんからな」
「…ネジ、実はナルトの修行がてら自来也様がその火影候補を連れてくるらしい」
「ナルトが…?」
「伝説の三忍…知ってるか?三代目様要する大蛇丸と自来也様、…そして綱手様を」

木ノ葉の三忍は里内でも知らぬ者はいないほど有名な話しだ。

「その紅一点が綱手姫、…自来也様が火影に推したお人だ」
「女?」
「俺もそう思った、歴代火影で女は初めてだからな、でもあの自来也様が言うんだ。間違いはない。俺も何度か手ほどきは受けたがあの人は目的持って動く方だ、心配いらない」
「そうか…」
「なぁネジ?…昔も聞いたと思うんだけど…お前はやはり忍になるのか?」
「…ああ、当然だ」
「…そうか…」
「ただ日向の家柄を気にしているわけじゃない、俺は俺の目的があるんだ」
「ネジの目的?」
「…うずまきナルトと戦って宗家と分家が和解して…俺は、なんだかもっと違う志士を
持って生きれるような気がしたんだ」
「…」
「俺の白眼で、忍術で…誰かを救えることが出来るのならそうしたい」
「…うん、そうか」

新はネジの覚悟をはっきり見てしまった。これはもうなにをしようと言おうとネジは忍の道を諦めはしないのだろう。ニッと口角をつり上げて新はただ諦めたように清々しそうに笑った。




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