23.夏は真下に落ちていった

心ここにあらず。そんな空っぽな瞳で空を仰いでいたのはシモクだ。いつもの面は片腕に引っ掛けて、ある場所にしゃがみこんでいる。火影直属暗部達の墓園だ。任務内容構成などは口外されない暗部でも墓はあり。名前は記されないが代わりにその暗部達が生前身につけていた面を置く。鳥の、青い模様が刻まれたその墓こそがナグラの墓だ。

「ナグラさん…」

自分を死地から追い出して、自分だけそこに戻っていくなんて。他にもだ。真新しい墓には面がびっしりと横二列均等に間合いをとって並んでいる。27人の、墓だ。

「俺はどうすればいいんですかね…貴方に救われた命は…やはり里に尽くすべきですか」

それとも、別のことに尽くすべきですか。

「先輩達も人が悪い…後輩の俺だけ残して仲良く逝ってしまうんですから」

どうしようもないではないか。定かではないが27名もいたのだ、…何人か位生き残ってくれていいのでは?何故いつも自分が生き残ってしまうのか。とてつもなく強運だと、以前ナグラに言われたことがあるが。こんな思いをし続けるのであればこれは運ではなく呪いだ。両手で目を覆った。あれから数日は流れた、遥かに忙しかったことを差し引いても泣ける場面はいくらでも存在したというのに。

「…ッ、墓なんてあったら…、嫌でも死んだってことがわかって…どうしようもないじゃないですか!!!」

その見慣れた面が。ぼろっと溢れた涙に、もう止める術はなくて。俺がなにをした。

「なんで…ッ、なんで俺が…ッ!!!」

"伝令だ。俺達小隊は大蛇丸を追う。お前は当初の予定通り会場に移動しろ"
"火影様直々のご命令だ。従え"
"お前が暗部に配属されてから暫くの間見てきたが、…随分逞しく成長したもんだな"

ナグラの言葉が、声が次々蘇ってくる。どれも、事務的なものであったけれど自分を認めてくれていた。

「くそっ…!!!なにが暗部だ!なにがッ…なにが木ノ葉崩しだ!」

なにを今更どうしたところで、元には戻らないことを知らない子どもではない。いっそ子どもに戻れたなら戻りたい。残酷な未来など知らなかった、あの頃に。27人の失った命を背負うその若い背中は可哀想な程大きく折れ曲がっていた。


暗部の墓場は一般の墓場から離れた場所にある。気配を消すのに長けてきたシモクでも、このときばかりは気配なんて消しもしないでただ泣き喚いていた。それだけ、シモクが悲しみに暮れているということだ。ましてや近くに人がいるなんて気づきもしないのだから。ただ黙って腕を組みながらその背中を見つめる猫の面。その面の奥には、少しの同情が窺えた。

「木遁」

猫面の男が印を組む。男の手から木がメキメキとシモクの近くまで伸びた。当然のことながら吃驚して飛び上がったシモクは仰け反りながら体制を整えた。

「ッ!!?……花?」

その伸びた木からは花が咲き誇っている。再度驚き、木が伸びている方へ視線を向ける。暗部だ。自分と同じ服装に面、間違いなく同業者だ。慌てて目元を擦って腕に引っ掛けていた面をつける。

「警戒しなくていいよ。その花、手向けてあげるといい」
「…貴方は、どちら側の暗部ですか」

どちら側、とは勿論火影派閥かダンゾウ派閥のことである。

「どちら…といっても君達火影直属はもう烏合の衆のようだ」
「……ダンゾウ様の使いの者か」
「いいや、今は違う。まぁ僕は昔から根にいたんだけれど」

やはり、ダンゾウの派閥。シモクはクナイを構える。

「警戒しなくていいって言わなかった?…僕はナグラさんに頼まれて来た者だ」
「!!?」
「自分がいなくなった後、もし強運の君が残っていたのなら拾ってやってくれ、とね」
「……ふざけるな!!!俺は、俺はナグラさんの小隊だ!!」
「いい加減目を醒ませ。ナグラ率いる小隊は全滅。君も子どもじゃないんだ」
「黙れ!なにも知らないお前が!!ダンゾウの使いが!!!」
「黙るのは君の方だ。奈良シモク」
「っ!!」

いつの間にか間近に迫っていた男の手がシモクの首元を掴み、持ち上げた。

「もう何年も前から暗部の君ならわかるはずだね?君は本日付けで僕の小隊へ編入に
なった。ナグラさんの小隊が全滅した、それは覆らない事実だ」

グッ、と強く絞まる首にもがき、必死にその手を払おうとしてもびくともしない。

「納得してくれたかな?…いい目をしているからナグラさんも育て甲斐あっただろうな」

ドサッと落とされて咳き込むシモクを余所に花を手向けた男は猫の面を外した。

「僕の名前はテンゾウ、木遁忍術を有している」
「木遁を…?」

濃い茶色の短い髪にヘッドギア、猫の面と同じようにぱっちりとした目は二重で猫のよう。

「歳は僕と案外近いらしいね。君のことは調べさせてもらってるよ」
「……」
「大丈夫、ちゃんと筋は通してる」
「……俺は……奈良シモクだ」




×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -