22.白の冷える夜
里の被害は甚大どころの話しではない。三代目様が、死んでしまったのだ。心に、里に、ぽっかり空いてしまったこの喪失感。兎に角、目まぐるしく忙しかったのだ。
「新…ナルトのこと、ありがとうな」
「いえ…俺、ただ見てることしか出来なかったし…」
カカシが礼を言うのは理由がある。そう、あの木ノ葉崩しの最中で砂忍、我愛羅が一尾の尾獣化してしまったのだ。ただでさえ笑えない状況の里では砂と木ノ葉がぶつかり合い。師弟であった三代目と大蛇丸の激闘が繰り広げられる中、こっちでも更に笑えない状態で。我愛羅の追跡が出来たのはナルト要する第7班と新のみ。とても生身で戦えるはずもなく、九尾の力を操ったナルトが場を抑え込んだのだ。
『オレ…わかるんだってばよ…お前の気持ち』
ナルトも、木ノ葉の人柱力だ。人柱力は中に尾獣を封印した人間だから、里の人達から疎まれる傾向にあるのだ。その、寂しさは同じ尾獣を封印する人柱力達にしかわからないだろう。
『ナルト!』
『…あれ、兄ちゃんどっかで会ったよな…』
『…忘れたなら、まぁいいけど…平気か?』
『大丈夫だってば…』
『我愛羅!お前も無事か?』
『…!!』
我愛羅の体もナルト同様起こしてやれば見開かれる隈どりの瞳。泣きそうな顔をなんとか必死に耐えている、そんな表情だった。
『砂の事は大体わかっている。…あの大蛇丸だ。砂をたぶらかしたに違いない。』
『おれ…は…』
『心配するなよ2人とも』
両腕で抱える2人の身体は予想より小さかった。あんな小さな身体に、尾獣が封印されているなんて、信じられなかった。その後すぐに砂の者が我愛羅を連れ帰ったようだが、多分…姉弟なのだろう。我愛羅を見る目はただ純粋に心配そうに歪まれていたのだから。
砂に戻ろうとテマリとカンクロウは我愛羅を背負い、里へ折り返していた。木ノ葉崩しは失敗。だが我愛羅の中では今までと違う感情が芽吹いていた。気持ちがわかると他者との繋がりを語った言った人柱力のうずまきナルト。この自分を恐れもせずに大きな腕で抱えてくれたあの日向新という男。あの男はなんの計算なしでただひたすら我愛羅を見てくれた。里の兵器としてではなく一人の人間として見てくれたような気がしたのだ。…他者との繋がり?夜叉丸が死んでからずっと自ら閉ざしてきた、封鎖してきた繋がりだ。もう、ただひたすらに怖かったのだ。誰かに恐れられ疎まれ、挙句に殺されるのは。一切の愛を自分自身に注ぎ、他者を捨てることで存在意義を成し。…でも、本当は虚しいだけだった。そんなもう一人の人柱力は、努力し他者から認められ今幸せだと笑う。同じ人柱力なのに、こうも違うのは…やはり、"認められる努力"をしなかった自分だろう。そう考えれば考えるほど、あんなに荒れ果てていた自分の心が穏やかに澄み渡るような気がして。
「テマリ…カンクロウ…すまない」
「えっ…?」
「べ、別にそんなん…いいじゃん?」
行き成りの謝罪にテマリとカンクロウは驚愕だ。しどろもどろに、だけど嬉しそうに。自分たちの弟は、なにかを変えたのだろと、少しばかり嬉しかったのだ。"我愛羅!お前も無事か?"ただ純粋に見つめられたのは、初めてのこと。我愛羅はその言葉と声を思い出すだけで、穏やかな気持ちになれることを知った。うずまきナルトが示した道に、自分も立ってみたい。努力し、他者から認められる存在になりたい。例えば、そう…砂隠れの、風影として……
「ナルトは元気なんですか?」
「うん。元気いっぱい」
そうですか…とほっとしたように表情を緩めた新にカカシも笑い返した。中忍試験は中断されてしまったが、受験生達は無事。ただ、最前線に赴いた暗部はどこの忍よりも被害を被ったらしい。それはカカシも懸念していた。やはり、砂忍達の数のほうが勝ったということだろう。優秀な火影直属の暗部小隊全て全滅とは…
「…小耳に挟みました…シモクだけが生き残ったって」
「…あいつは、今小隊27人分の犠牲を背負っている。だけどそれを耐え忍び、前を向いていくのが忍だよ。」
「誰もが…前を向けるわけでもありません…シモク…きっと限界がくる」
ただでさえ、あの馬鹿笑いを見せなくなった親友だ。
「…今最優先なのは、里の復興と新しい火影を立てることだ」
「はい…」
そう、新しい火影を立てなくてはならないのだ。里長がいなくて、誰が木ノ葉の里を統率するのか。
「三代目直属の暗部達の今後を考える前に火影が立たなければ意味がない…最悪の場合
火影直属の者達は離散するかもしれない」
「離散!?」
「まぁ、最悪の場合を想像したまでだ。さ、そっちの木材上げて」
「は、はい」
なにぶん、人手が足りない為にやることは沢山あるのだ。