20.さらば遠のくかけらたち

「なに沈んだ顔してんのヨ」
「カカシさん」

ネジとあれ以来ぎこちない新はふらふらと商店街を彷徨っていた所、いつものごとく愛読書を持って姿を現した。

「いやぁ…ちょっとネジとぎこちなくなっちゃって」
「へぇ?なんでまた」

新はぽつぽつとネジと言い合った経緯と内容を簡単に説明した。カカシは意外そうに相槌を打ちながらも最後まで話を聞いた。なんだかんだ人情に厚いカカシだ。こういうところも魅力の一つなんだと思う。

「…それはぶつかって仕方がない話しだったね」
「そう思いますか?」
「うん。だってお前ら立場も考えも違うでしょーよ」
「……俺が我慢すれば良かったんですかね」
「そんなことなーいよ」

カカシは俯く新の黒髪をわしゃわしゃっと撫でながらその唯一の範囲である片目を弓なりに細くした。

「新がネジに伝えたいことは勿論伝えたんだろう?」
「は…はい。一応は…」
「だったら、それもいいんじゃないの?なんでも新はネジを優先しすぎなんだよ」

それは一理ある。ネジを溺愛する新は未だにネジ離れ出来てはいないし。というよりも、過保護なのだ。それは、ネジが成長するための妨げになることだってあるかもしれないのだ。

「…わかってるんです。でも…俺はネジが大切なんです」
「皆知ってるよ、でもネジも子どものままじゃいられないだろうし。お前もね」
「…はい」
「…大事に思ってる気持ちは絶対ネジに伝わっていると思うから」

適度に距離を置くのも今の年頃のネジには必要。…だなんて言われて、新はカカシのその言葉に頷くしかなかった。

「ありがとうございます、カカシさん」
「んーん。じゃあ俺行くからね」
「はい。お疲れさまです」

気怠く白い腕を上げながらカカシは猫背で人並みに消えていった。

「…はぁ」

カカシの言葉は心に響く。人生経験も新より豊富なカカシはきっとその卓越した考えも経験あっての事なのだろうか。

「あ、」
「あ゛?…あんた、あんときの…」

顔をあげるとバチリと目が合ったその少年。あのとき、とは多分砂忍の受験生と衝突したときのことだろう。あれがサスケとのファーストコンタクトだったのだから。

「確か…うちはサスケ君。元気にしてるか?」
「別にどーでもいいだろ」

カカシの班である筈のサスケだがこの生意気さは如何なものか。あのエリート忍者のうちは一族の一人。確かうちは一族はサスケを除いて全滅したと…彼の兄が、全て根絶やしたと。なるほど、ならばこんなにひねくれもするか。

「あんた、その眼…日向の者だな」
「そうだ。君はうちはの人間だろ。改めて俺は日向新だ」
「ふーん」
「中忍試験はどうだ?チームワーク技術は磨けたか?」
「俺には関係のないことだ。最終試験は個人戦だろうが」
「…カカシさんに言われなかったのか。忍に必要なのは、個々の技術の前にチームワークだって。」

サスケはふん、と鼻で笑うだけだった。

「そんな甘ったれたことしてるほど俺は暇じゃねーんだ」
「なるほど。カカシさんも苦労が絶えないな」

もしやあの猫背はその重圧でどんどん曲がっていってしまったのではないか。

「まぁ、なに。立派な中忍になれるよう頑張れよサスケ君」
「気安く呼ぶんじゃねーよ!」
「ははは」
「笑ってんじゃねー!」

…なんだ。ただの生意気な小僧かと思ったらまだ可愛いところがあるじゃないか。サスケにクナイを投げられる前に早々に姿を消して人混みに紛れる。天才にはわからない。天賦の才には敵わない。それでも、俺が体を張って木ノ葉を守るのはただ掟だからではなくて。こうして、住民が大好きだからなんだと思う。

「新ちゃん、おはよう」
「おはようございます!」

小物屋のおばさんも。

「新!!」
「元気だなぁおい、今日はなんだプロレスごっこか?」

里の未来を担う子ども達も。全部、大切なものが詰まっているこの木ノ葉の里を、俺は守りたい。あわよくば、この世界に平和をもたらして欲しい。木の葉が風でひらひら舞う。

「そろそろ、本選の開始だな」




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