178.貴方に贈る貴方への殺人予告

戦争をして、一体誰が得をすると思う。忍五大国。隠れ里。五大国が五大国と呼ばれるのは、そこに絶対的な権力が存在したからだ。大きくなった力はそれこそ最大の防御ではあるが、なにより誇示されてきた最もの力が尾獣だった。そして、各里が利用してきたのは尾獣だけじゃない。大国が落ち着いている今、軍拡から軍縮に移行している。大名がこの平和ボケした世界で金食いの忍里は目障りな存在となる。里長は里を守るのが勤めだ。その手を汚く染めながらも里を守らなければならないのだ。だからこそ、力技に出る里長だって存在する。そんな考えを持ち合わせる里長が集う集会、それが。

「五影会談をはじめよう」

「始まったか。」

各里長が集まったのは、いわば必然なのだ。どいつもこいつも手のひらで踊らされているに過ぎない。画面の奥の写輪眼が細められる。

「子守りってたいへーん」

足元からぬっと現れたゼツの半分はニコニコと愉快そうにしている。"昔"からそうだ。ゼツは子どもを育てたりお立てるのが好きだった。いや、退屈凌ぎができて嬉しそうといったところか。己の半身が潰れた時もゼツは喜んで世話をしていたとも。

「でも安心して。順調に育ってるよ」

あやしたら笑うんだから!ここに連れて来れなかったのが残念だ!…と。身体が完成していない状態で、ましてや精神と剥離している今、この歴史的な瞬間に立ち合わせてやれないのは確かに残念だ。なにせ奴は自分と同じ核を持っている存在だから。きっと共感する。計画を肯定する。アレには時代の語り部になって貰わなければなるまい。完璧な世界がいかに正しいのか。何人も望んだ世界だ。長きに渡る忍世界の終焉の宣言。それが為されたのならば。

「……もう一度」

"君"のいる世界をつくってみせる。それが「月の眼計画」なのだ。

全てがひとつとなる。全てが統一となる。複数体の9つの尾獣の集合体「十尾」。その力の分散は六道仙人により為され、世界を救った仙人は人々から神のように崇め奉られた。しかし十尾の強大なるチャクラは仙人の没後、封印が解け表に出てしまう。六道仙人は十尾のチャクラを9つに分散し地上各地へバラまいた。本体は、空へと飛ばされ月となった。暁の尾獣集めはここから始まった。各地に散らばったチャクラを管理するため、六道仙人はある忍術を開発した。それが人柱力の封印システムに繋がる。十尾復活のため、大回りしなければ達成できないこの所業。それも、計画のためならば差し障りないことだ。忍里を司る五影など名ばかり。この世界に希望などない。そんなことは、五影こそ分かっているはずだ。今更こんな世界で一体なにができようと言うのか。誰かがやらなければならない。だからこそ、地上に存在する全ての人間に幻術をかけ、コントロールする。戦争などない。完璧で一つの世界。

あと、もう少しだ。

「第四次忍界大戦…ここに宣戦を布告する」



数刻前__

五影会談開始後、各里長達の空気はビリビリと懐疑的だ。そもそも各里の同盟状況は上辺だけのものが多い。話し合いの場ということは前提だが、どうにも里の色が滲む。

「木の葉!岩!砂!霧!お前らの里の抜け忍で構成されとるのが暁だ!それだけではないぞ!前任者の影も含めたお前らの中には暁を利用してきた者がおることも調べがついとる!!」
「ワシはお前らを信用しておらん!話し合いすらする気もしなかった!だがワシがここへきて五影を招集したのはいい加減お前らの信義を問うためだ!」

暁の脅威は各里、各大国共通の問題点だ。しかしながら里には里の体裁と維持が必要不可欠。五影の中で最年少であり任期が浅い我愛羅以外は、静かに雷影の言葉を耳に通した。

「利用してきたとはどう言う事だ!?」
「風影のくせに何も知らされてないのか!自里のジジイ共に聞いてみろ!お前らはかつて戦争に暁を利用してきた!」
「今や大国は一様に安定してきた…軍拡から軍縮へと移行しとる。各国間の緊張緩和で戦争の脅威が小さくなれば、国にとって軍事力である里は金食い虫の邪魔な存在じゃ…」

かと言って、戦力を大幅に削れば戦争勃発時に負ける。その場でかき集めた実践経験のない忍では国、里すら守ることは困難。

「そのリスクを回避する一つの方法が戦闘傭兵集団暁だったということか…」
「自里で優秀な忍を育成するには手間と金がかかるが、戦争を生業としている暁は常に現役のプロ集団。しかも安い金で戦争を請け負う。その上最高の結果をもたらしてくれたからのう」
「開き直るな土影!!」

そこに、忍達の情は一切無い。どんな形であれ実績と結果を。どんなに気持ちが傷つけられようが里への勝利と維持を。その為だけに、巻き添いで駆り出された忍達の被害すら振るいに掛けられた優秀な忍の育成のために消費される。望んでいようがいまいが、関係ないのだ。里長にとって里の存続は優先事項である。後に続く犠牲は有り難い消耗品である。その先に続く未来のための。

「砂は暁を利用し木の葉崩しに利用した、大蛇丸だ!その時暁を抜けていたかどうかは定かではないが!それで風影と火影の前任者が死んだ。…これが誰かの画策である可能性も捨てがたいがな」

また、

「そして現在!この情勢の中、木の葉からは里の情報を保持したまま里抜けをした忍がおる!ただの忍ではない。暗部だ!」

この情報がどこからもたらされたものなのか。雷影の後ろに控えたシーが、コキっと小首を鳴らし、口を開いた。

「木の葉にとって、彼は非常に優秀な暗部構成員。素性を調べずとも木の葉の古い一族にあたる三家、奈良一族の長子であることが分かりました。彼の活躍は各々認知されているかと思われますが何故このタイミングで里抜け?ビンゴブックも刷っていない」
「里抜けはビンゴブックに載せるのが定石!!しないともなれば里抜けを肯定した理由があるのか?火影!」

ビンゴブックの刷り上げが行われていないこと以外は…"問題ない"。こちらから仕向けずとも向こうから突いてくるとは手間が省ける。ダンゾウは至極冷静に答える。

「ビンゴブックの刷り上げは木の葉内部の業務遅延によるものだ。ワシが火影となり、前任者の暗部変更を行っている。よって今頃更新が完了しているものとする。」
「この情勢のなか里内より裏切り者が出たこと。木の葉としても痛手である。奈良一族ならびに猪鹿蝶である秋道一族、山中一族は該当の忍、奈良シモクの里抜けを認めている。里として然るべき対処を行うつもりだ」

飼い慣らして側に置くつもりだったが、叶わぬのならば仕様がない。あの男は己の"秘密"を全身全霊で奪いに来た男だ。ダミーを掴ませ、舌に印を刻んでいるとしても木の葉から逃亡されれば邪魔でしかない。なぜ木の葉が暁の被害にあった今、決行したのかはダンゾウにも理解及ばぬことであるがタイミングとしては上々だ。

「して…各里も承知のことと思うが暁の一人は木の葉から排出された。うちはイタチだ。イタチと奈良シモクは結託し内通していたとの疑惑も浮上している。同じ元暗部だ。」

空気の流れが変わる。手に取るようにわかる。一番の脅威は武力だけではない。空気だ。特に各里の頭が集う、話し合いを前提とするこの場では。だから再三言ったのだ。暗部に感情などいらないと。そんな体たらくだからこそ、この期に及んで利用されるのだ。

イタチとシモクの友情は、望まずとも利用される。これだけ都合のいい理由が存在するか。2人とも里を守る忍だ。そして、里の重みすら跳ね除ける程…特別な存在の為に行動する。心優しく使い勝手のいい忍なのであると。

"_俺は耐える…耐えてやるさ。貴方の言うとおりになんて…なるものか…!"

いつだったか、顔をがちがちに強張らせて奴は言った。お前がなにを思おうが、この空気は確実に思惑通りに流れた。里は己の利益を安全を一番に考える。そこに確固たる証拠がなかったとしても。疑わしきは罰する。この世界の常識だ。一忍が声を上げたとて変わることはない。そうであればとっくにこの世は変わっていた筈だ。変わらないではないか。だからいつでも先手を打て。自身の手中にある駒がいくら倒れたとて気にする必要はない。だって、それを至極と謳うのが暗部なる者達なのだから。




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