18.ただひとつの境界線

ネジを連れて俺の奢りで飯を食いに行くことになったんだが。店に入ろうとして手が止まった。

「シモクと…シカマルじゃねーか」

かなり見慣れていた光景だったが、今はあの兄弟が2人一緒に歩いてるのは懐かしいほど。そうか。なんだかチョウジやいのちゃんからは仲違いしていると聞いていたから心配だったのだがどうやら、その心配もなく。仲直りの類でもしたのだろう。シモクの顔は珍しく馬鹿笑顔ではなくて、どこか穏やかな…そんな、言い表せない幸せだと。そう言いたげな顔でいて。シカマルはそんな兄をチラチラ凝視している。

「どうした新」
「ん?んーん。なんでもないよ。さ、なんか食お!」

随分背丈が伸びたネジの背を押して俺達は食堂に入った。昼時少し過ぎてそこそこいる客達の中には多少見知った人もいたのだが、ネジも一緒だと知ると俺に手だけ上げて会釈するだけだった。やつらも俺と同じ上忍で、あの…前回のハンコを延々と押す作業をしていた内の一人だ。まだ本選が始まってないから気は抜けないが、一ヶ月の有余と大半の作業が終わった事もあり、俺達もやっと一息つけることが出来たのだ。適当に席に腰掛けて俺はがっつりメニューを頼んだがネジは俺とは対象的に細々としたもの注文した。

「修行の調子はどう?」
「どうもしない。俺は本選を勝ち抜くだけだからな」
「…そっか、あの、ネジ…予選の時は…」

ネジは俺の言葉で思い出したのか、その表情を歪めた。

「…確かにルールは相手が負けを認めるか倒れるか、…最悪死ぬか…だけど。ネジ…
お前、最初からヒナタ様を本気で…」
「新、お前も俺と同じ分家の人間ならばわかる筈だ。…あいつさえいなければ…」
「…」
「それにお前だって…」
「ネジ…俺は分家に生まれた事を後悔していないんだ。…この呪印も。最初は忌々しか
ったさ。けど…今では、全然…」
「理解できん。…何故お前は、あいつを庇うような事ばかりする」
「庇っているわけじゃないよ。…でも、元は俺達日向は一つの一族だったんだぜ?なのに
互いにいがみ合うなんて可笑しいんだ。俺はそういう事したくないんだ」

ネジの白眼と俺の白眼がぶつかり合う。

「…いつか。そのわだかまりがなくなったらいいと心から思う。…俺は、ただ嫌なんだ。
人と人とがいがみ合うその事が。我儘と言われたって構わない」

構わないんだ。俺は、お前やヒナタ様。アスマやカカシさんやシモク…そんな奴らが心から幸せになれる。そんな世界が見たいんだ。忍というものがなくなって、全員が命を危険に晒す事なく。身を投じる事がなくなった、そんな世界を望んでるんだよ。

「…浅はかだろ?たった一人、お前を変えられない俺が。両家を変えることなんて出来ないのかもしれない」

ただ、いつかのその時を信じて待っている俺は…人任せだ。

「お待たせいたしましたー」

丁度話の区切りがついたところで良い笑顔を浮かべた店員が料理を運んできた。早々にがっつき始める俺を見てネジはなにがなんだか解らない溜め息をつく。

「俺が分家に生まれたのは運命だ。人はその運命で道が決められているんだ。如何なる事を成し遂げるのは最初からそういう運命であるからだ」
「…ちげぇだろ」
「…」
「じゃあなんだよ。お前が努力し、積み重ねてきたその力も運命の一言で片付けるのか?」
「俺がなんて呼ばれているか知っているだろう」
「知ってるさ、そりゃあ確かにネジは天賦の才を継いだ。だけどな!努力しなければそれはただの宝の持ち腐れになってたんだぞ。それに…磨かなけりゃ、お前が忍を志さない、そんな運命もあったかもしれないんだぞ…ネジが運命だって言うんなら、…この世に忍なんて存在しない」

そんな未来をくれよ!!お前たちが命を危機に晒すことのない未来を、運命をくれよ!!

「…新…」
「……お前がなんて呼ばれているか知ってる通り、じゃあお前も俺がなんて呼ばれているか知ってるな?」

"日向の落ちこぼれ"

「…ネジは、俺のそれも…運命だと言うのか?日向の一員でありながら微々たる力にしか恵まれなかった俺を、運命だったと……そう言うのか?」
「それは…」
「…お前の言う運命が人間の全てを構築しているのなら、俺はこの世で絶対に幸せになんてなっていなかっただろう。…でも、俺は幸せだよ」

俺の周りには、たくさんの人間が、仲間が、友達が、家族がいる。

「人は運命によって定められるものなんかじゃない、自分で切り開くものなんだよ」
「……。」

ネジはそれきり、なにも言わなかった。俺もそこで口を閉じて、ただ湯気立つ料理をひたすら口に含んだ。




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