16.君の心はきずつけない

「今年は多いな」
「オクラ、なんでお前がここにいんだよ」
「友にそんな口を聞くな。寂しい奴め」
「お前のその嫌に暑苦しく、尚且つ微妙に明るいその思考が腹立つな」
「俺のアイデンティティだ。」

隣りの同じ上忍ベストを着込んだオクラは当然の如く新と肩を並べている。若いとはいえ、成人を過ぎた男2人が並んでいる。しかも暑苦しいことで有名なオクラと。嗚呼、駄目だ。同類に見られたくない。新はそっとため息を吐いた。そういえばガイとその弟子、リーとオクラが3人で青春を語り合っているのを不本意でこの前偶然目撃してしまった。そんな奴等といたら自分も"そっち系"なのだと周りに勘違いされても困るわけで。さらっと一緒にいても全くセーフラインのカカシは何故かいないという悲劇。いつも肝心なところで役に立たない人だ。しかし、居たら居たで男3人が仲良く肩を並べているのも、妙にむさ苦しい。絶妙なこの心境をどうしてくれよう?

「お。対戦カードが発表されるらしいな」

近代的な液晶の中には対戦相手同士の名前と顔が表示される仕組みだ。オクラはため息を吐きつつ、新と少しだけ似た容姿の少年を見下ろした。

「ネジは?ネジはどうなんだ」
「お前のそれも相変わらずだな新」
「日向ネジは…、!?日向ヒナタ!!?まさか両家同士の対戦というのか!」
「!!?」

これには緩んだ顔を引き締めるより他なかった。宗家と分家の…その子ども達が、対戦?
負けを認めるか、相手が最悪死ぬまで戦うルールだが…これはあまりにも残酷だ。ネジは見たこともないくらいの憎悪を宿した瞳。ヒナタは顔面蒼白だ。知っているから、ネジが日向始まって以来の天才だと。自分に自信のないヒナタはビクビクとその小さい肩を震わせていた。…この勝負、勝敗は決している。
いくらヒナタをぼちぼち新が修行に付き合い、鍛えたと言っても。相手が最悪なのだ。
同じ柔拳の使い手同士、相性がすこぶる悪い。柔拳での勝負なら、やはり上をいくのはネジだ。"籠の中の鳥"。昔からそう言った意味で分家には当主を始め、その派閥一門には全員呪印が額に刻まれている。それは新も同じで。ネジくらいの時には彼と同じように宗家を妬み怨んだが。…ネジが生まれてきてくれたから。彼が生まれてきてくれたから、自分は道を逸れずに済んだのだ。自分が赤子のネジを抱いた瞬間、今まで抱えていた真っ黒いものたちが浄化されていくのがわかった。それは、ただの無垢な赤子に影響されただけかもしれない。それでもやはり、ネジの世話を任される度。自分は、宗家を恨むことさえもどうでもよくなってしまったのだ。ヒザンさんの件がどうでもよくなった訳ではない。ないけれど。ヒザンさんが残したこのネジという少年には己の全てを捧げてでも立派な大人にしてあげるのが彼にとって、一番の花向けであると。なのに。今の自分はとても無力だということを知る。ネジの瞳を見れば明らかだ。恨みを忘れない。日向の話しになるとその瞳はやはり新へも向けられた。だいぶ昔のことで、今では滅多にそんな視線は寄越さないが。

「…俺は、ネジにとって安定剤になれるように努力したつもりだったんだが」
「安定剤?ネジは情緒不安定だったのか?」
「…そういうわけでは…。いや、どうだろう…宗家への恨みを、少しでも和らげて
やれたらと、そう思っていたんだ。」

恨む方も、心底疲れることをよく知っている。本当は派閥が別れることがなくなれば一番良いのだ。話し合い、和解できればこれほどに喜ばしいことは、日向にとってはないこと。それが簡単に出来ないのが事実だ。

「新、日向家のことは俺も多少なりとも知ってるつもりだ。そう簡単に癒せる間柄ではないということもな。だがきっと必ずその溝は埋まるはずだ」

オクラが茶色のまん丸な目を弓なりに細めて言った。

「ぷっ、なんだよその自信。どっから湧いてくんだよ」
「笑うなこら。俺は真剣にだなっ」
「やめろやめろ。腹筋が痛くなる。これ以上割れたらどうしてくれんだよ」
「…お前、嫌味か?」

やはり、さすがは自分たちが昔チームを組んでいたそのリーダー。クセが強い新とシモクに根気強く接し、やっと打ち解けた頃はもう半年が経過していた。シモクも嫌に暑苦しいオクラを最初は煙たがっていたが、そのしつこさに呆れを通り越して感動を覚えたと言っていた。

「…本選は一ヶ月後。その中から中忍の見込みがある者のみ合格だ」
「ああ。中忍試験はそう甘くはないからな」

……自分たちもどれだけ苦労したことか…。想像しただけで、げんなりしてしまうのでここでのコメントは差し控えよう。

「毎年思うけど、やっぱし忍の試験は厳しいな。」
「当たり前だ。俺達はそうそう長く生きていけない身。その上での中忍は危険な任務も
入る。…簡単に合格させて、すぐに死なれてしまっては目覚めも悪いしな」
「…オクラ、お前クールなのホットなの。どっちなの」

間を取ってドライ?

「なんの話かさっぱりわからん!!」
「聞いた俺が馬鹿だったよ」

勝者:うちはサスケ、油女シノ、カンクロウ、テマリ、奈良シカマル、うずまきナルト、日向ネジ、我愛羅、ドス・キヌタ。予選通過者は上の10名である。

「…すまない。新。リーが心配だ。行ってくる」
「ああ…」

オクラは予選が終わると同時に出て行った。我愛羅との対戦で…ロック・リーは深手以上の痛手を負った。いや。その力故の代償と言っていいのかもしれない。だがあの不動の砂の忍、我愛羅をあそこまでボロボロにできたんだ。…むしろ自分を褒めてやっていい。そう思っている新も、予選の途中で現れたカカシの手で若干支えられている。ネジとヒナタの対戦が、覚悟していたより悲惨であったからだ。ネジの容赦のない攻撃を受けてもなお食らいつこうとするその姿。恥ずかしがり屋で勇気が踏み出せないヒナタが、初めて意思表示をした。そしてネジに対してとてつもない脱力と悲哀が溢れてくる。予選を突破したのだ。おめでとう、と。良かったな、と。言ってあげるべきなのに。「…なんでか。悲しくなりました」そう溢したら、カカシはなにも言わなかった。




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