152.その力の代償はなんですか

「協力?お前が俺に?何でそこまで…そもそも俺が協力しないと言ったら言い損だろ。今の会話をサジやダンゾウ様に告げ口するとも限らない」

根にいる奴がここまで自分のセキュリティを緩めるなんて考えられない。俺でも考えられない。頭が弱いのか?それともなにか確信があっての言葉か?相手の状況は飲み込めたが信用に足らない。というのもシモクのこの潜入は命懸けなのだ。まさかの人物からのコンタクトでボロを出す訳にはいかない。見極めろ。こいつは使えるかどうか。

「…ダンゾウ様のカリキュラム。」
「?」
「素であそこまで"保った"のはあなたが初めてだと…先輩達が言っていた。サジも。心が強いあなたは本当に強い忍だ。誠実で愚直で…綺麗。あなたの"心"に嘘はない。俺には分かる。」
「………お前、まさか、心眼…?」

気づけなかった。面を外したのはそういうことか!心眼は、言うならば「心の内を見抜く眼」だ。瞳術の一種で戦闘に使うには力は弱いが尋問にはこれ程強い眼はない。木の葉発祥の眼ではない為、どこかの里から引き入れて来たに違いないだろう。だからニシは若くしてダンゾウの側仕えなのだ。心眼を持っていればその場で心の内を見抜く。シモクのように潜入してくる者を速やかに排除できるのだ。ダンゾウがシモクを野放しにさせる理由がよく理解できた。側にニシがいるからだ。ならば状況は一気に不利。この場で。それを持ち出されると不味い。ではこの3人と改めて会った時。アカイが面をひっ下げたのは最初からニシに顔を晒す為だったのか?その時既に、心の内を読まれていた。……ほぼ確実に。

「…カリキュラムの時に見てた。あなたの内側は…弟の事で一杯だった。似てるね。弟と。」
「あの、時から…」
「そして今。吃驚したよ。ダンゾウ様の"あれ"。知ってるんだね。そしてそれを…求めてやってきた」
「…っ、」
「大丈夫。僕は知った事をダンゾウ様にも、アカイ達にも話してないから」
「俺を脅す、良い眼を持ってるな」
「シモク。僕の話を聞いて。脅すような形になってごめん。だけど僕にも時間がないんだ」

これで立場は決まった。圧倒的にニシの勝ちだ。しかし問題はここからだ。立場が決まったとしてもその前に全てを終えれば良い。それだけの事………あれ?話の流れからこいつの心眼は「その時考えていた事」を見抜く。ならアカイに面を下された時。

「お前…俺の何処まで…見た?」
「…うちはイタチ。仲、良かったんだね。でも…雨の日にシモク達は…」

絶対に知られてはいけない事を、知られたと。


サジは今日とて通常通りの任務をこなしていた。きっちりと並んだ書庫は彼の性格を表すように規律正しい。いつも通りここでの雑務を終わらせた後シモクを連れて演習場に連れて行こうとしていた。しかし静か過ぎる此処でサジの身が捉えたのは殺気だ。自分に向けられているものでないがお互いに興味を持たない根の忍にしては珍しい状況だった。

「なんだ?どうした」
「なんでもないよサジ。」
「ニシと意見が合わなかった。心配無用だ」

駆けつければ2人がいた。またアカイがなにかをやったのかと思ったがシモクの怒りの矛先は意外にもニシだった。殺気を放った張本人は若干荒んだ表情を浮かべるもののこれ以上話す事はないといった様子。確かに根と火影派閥では考え方も違う事だろう…という体で誤魔化すことにした。2人にとって今サジに取り引きを知られるわけにはいかないのだ。サジもそれ以上追及することも無く業務に戻った。

「ごめん。」
「もういいよ。精神干渉はこれが初めてじゃない」
「サジに気付かれてなければいいけど」
「…お前の要求はわかった。記憶を盾にとられたら俺も従わない訳にはいかない。だけどそれを一人にでも曝露したら切るからな」
「…!うん、約束するよ」

お互い利になる関係を約束しよう。




「あっれ。オクラさん。ここにあったマルヒどこやったんですか?」
「焼却処分した。いつまでも置いていいものじゃなかったからな」
「またー。勝手に捨てたら五代目に大目玉ですよ。その前にシナガさんかも…」
「しっ!!滅多なこと言うな!どこに耳があるともしらん!」
「なら勝手に捨てないで下さいよ!棚の隙間が空いたのはいいっすけどね!!」

ここ貰いますよ!!足元に積まれた資料をぐわっと掻き集めた彼の後輩はマルヒの山を細かく分け始めた。せっせと手を動かす姿を横目にオクラは最後に見送った戦友の脆くとも強い背中を思い出していた。何度鍛えても筋肉の付き辛い線の細い男。なのにそんな見た目に反し頑固で譲らない。小さな合図を捉え窓を開け、指をすいっと外に差し出せば小鳥が止まった。

「…戻ってこないか。」

口寄せの契約がなされた鳥の脚には土中の家紋が括られている。根の周りを何度も飛ばせているがあれ以来戦友が地上に出た事はない。最早木の葉の動物の目はオクラの目だ。渡した情報が情報。それを知れば彼がどんな行動に出るかなど考えもつかない。もしかしたらとんでもない事をしてしまったのかもしれない。だが、オクラは後悔していなかった。忍にとって、判断は大切だ。目まぐるしく回る今を瞬時に的確に射抜かなければ、それこそ大事に至る。ほんの少しの間さえ油断できない状況は迷う時間すら奪っていく。

「あれ?オクラさん」
「なんだ」
「あのー」
「なんだよ変な顔して」
「あれ」
「ん??」
「あれって、カカシさんじゃないです?」


「よっ」
「カカシさん。例の任務から帰ってたんすね」
「ちょっと前にね。いつもながらの、あれよ」
「チャクラ切れ」

呑気に片手を上げて諜報機関に足を踏み入れたのはカカシだった。カカシのチャクラ切れは上忍誰もが承知の事。生まれつきチャクラ量が少ないわけじゃない。その大半のエネルギーを犠牲にしてしまうのは今は隠れて見えない左目の所為だろう。

「それの消費エネルギーは馬鹿にならないって聞きますよ」
「はは、まぁね。術の精度が高いから諸々持ってかれる。これを使いこなすうちは一族はやっぱり特別だな」
「…カカシさん。もしもの話なんですけど」
「なによ改まって。」
「元からチャクラが少ない忍が写輪眼を埋め込んだら…どうなると思います?」

「死ぬだろうね。」

間髪入れずに答えた。オクラはその回答の早さに目を見開いた。目の前のカカシとて写輪眼で命を削る身。その上純粋な宿主ではない為に写輪眼の扱いに長けている。しかし何故そうも言い切るのか。

「写輪眼を持って生まれるのはうちは一族の家系のみ。うちはでチャクラに問題がある人間は1人だっていなかった。その完璧なまでに整った環境でこそ写輪眼は力を発揮するんだよ。」

使い過ぎたら諸刃の剣なんだけれど。

「それを元からチャクラ量のない者が扱うとなれば…その力の大きさに呼応する事がまず不可能だと思うし無理にやれば、心身ともに崩壊する。確実に」

チャクラ量の少ない、写輪眼を欲する人間を思い浮かべた。力に固執するような男ではない。

「力の代償は、高くつくよ」

その行動全ては、"友人"一人の為。それを知っていて、オクラは情報を渡した。写輪眼を欲しがる、あの背中に。

「…俺、うちは一族あんまし好きじゃないんですよ」
「里の者達も大半だ。おまけにお前は土中家。千手派閥だしな。そう思っても仕方ない」
「どうやったって一族間の事は覆せないもんがある。それは時が経ってもそうです。 」
「否定はしないな。忍の歴史を否定しない」
「俺も否定はしない。一族同士の枠組みを超えていけるような奴らも」
「ん?ナルトとサスケのこと?」
「間違いではないっすね」

オクラは合理的だ。一族間の事もずっと重んじている。元より彼は戦闘に特化した一族のひとつとしてアカデミーに通う傍ら。戦地に赴く事もしばしばあった。第三次忍界大戦の消えぬ火種があちこちに転がっていることも。里内の不信が高まりつつある状況も。幼いながら、じっと見つめていた。一族の主権争い。クーデター。戦争。

「もっと先の未来で、そういう枠組みがなくなるといいですよね」




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