15.跳んでった君、夏は灰色

第二次試験が終わった。合格したも者の判断はつかないが今年は多かったらしい。シモクは先程カカシ達の元に報告に行った後すぐに会場の外に移動した。大蛇丸だと…?何故いまになって…。中忍試験を狙ってきたのなら尾獣が目的?将又、他になにか目的が?かつて三忍と呼ばれた内の一人、大蛇丸。今では里を抜けた抜け忍であり。悪しき研究を今だ続けているのではないかと黒い噂は留まりを知らない。無論、その情報はシモクが暗部に移行した時も存在し。聞けばダンゾウと手を組んで研究していたという事実もある。はなっからからダンゾウを信用してもいないシモクにはその噂を鵜呑みにするより他なく。イタチの件も相まって、更に憎悪の矛先である。

「……抜け忍って言えば…イタチ、どうしてっかな…」

彼も里を抜けた身。本意での里抜けではないことはシモクも十分わかっている。あの日、あの雨の日。イタチは降りしきる雨に紛れ、シモクに話した。

『独り言だから、聞き流してくれてかまわない』

そう言いながら、本当に独り言のようにいままでの事を話し始めたイタチをシモクはただ、雨が彼の声を掻き消してしまわぬように耳を傾けていた。

『……風邪、引くよ』

一通り話終えたイタチに自分が羽織っていた暗部支給品のマントをあげた。イタチは恐ろしく強いが繊細だ。里のことを、家族のことを。弟のことを大事に、大事に守っているのは承知だったからこそ。自分と被る面が存在するからこそ、どう言うべきか解らなかったのだ。彼自身、なにか言ってほしくて自ら曝露したわけではないようだし、ただ。イタチは木ノ葉の二重スパイとしてかなり板挟みにされた状況で暗部に居た。破裂する寸前だったのだろう。

『俺は…この先お前がなにしようと、イタチはイタチだと思ってる。だってさ、…同僚とか同期とかの前に…俺達、友達だろ』

ともだち。それはお互い口に出すものではないのかもしれない。でも。今言わないと一生後悔すると思い、そう彼に伝えたのだ。その言葉が、どんな効果を発揮したのかも全く分かりはしない。現にやはりイタチは里を。結果的には裏切り、抜けてしまったのだから。それでもシモクはその面の下の顔を引き締めて、イタチを思う。とても不器用で真っ直ぐな、そんな友を。誰よりも優しすぎたイタチを。

『シモク、お前は優しすぎる。いつか身を滅ぼすことになるぞ』
『…それはそれで本望だ。何人もの犠牲の上に今だ生き続けてる俺の命なんか』

神様はまだいらないようだから。

『…お前は、優しい』
『優しくなんか、ないかもしれないよ』
『それでも俺がそう感じるんだ。お前は、暗部なのに…優しすぎるんだ』

イタチは秀美な顔をそっと和らげて微笑んだ。嗚呼、まだ暗部でもこんな顔できる人間がいたなんて。カカシでさえもこんなに穏やかな顔はしなかった。いや。出来なかっただけかもしれない。優しい?俺が?イタチは人の調子を狂わせるのが上手い。彼とツーマンセルを組んでからは顔に似合わずよくイタズラを仕掛けられた。いつもなら、それはシモクの専売特許だったのだが。

『俺は"うちはイタチ"を、誇りに思うよ』

最後の日、彼が血塗れでシモクの前に最後姿を見せた時、そう言った。聞いてるのか聞いてないのかはわからなかったけれど。

『…………俺はお前の友でいる資格はない』
『お前がどう思おうと、俺はお前の友でいたい』
『だから言ったんだ。お前は優しすぎるのだと』
『俺も言ったはずだ。……それで身を滅ぼすのなら本望だと』

面がない二人の目線はかち合っていた。…あの後、イタチは音も無く消え去った。火影様から、イタチが里を抜けたと知らされるのにそう時間はかからなかった。俺が止めれたら止められたのか。無理矢理にでも、例え刺し違えてでも止めることが出来たなら。イタチは、考え直してくれたか?俺のミジンコ程の力でお前を止められるなんて思ってはいないけれど。それでも、少しは考え直してくれたか?

「………」

己に問うたって答えはイタチでは無い限り、わかりはしない。わかるはずなんて、ないのだ。

「シモク」

先輩の暗部がいつの間にそこに居たのか。

「伝令だ。俺達小隊は大蛇丸を追う。お前は当初の予定通り会場に移動しろ」
「何故です。追撃なら俺も…」
「火影様直々のご命令だ。従え」
「…はい」

そうだ、今はそんなこと考えている余裕はないのだ。シモクはハッとして頷いた。

「シモク」
「はい」
「お前が暗部に配属されてから暫くの間見てきたが、…随分逞しく成長したもんだな」
「………ナグラさん」

暗部の先輩、ナグラ。勿論本名ではない。シモクは前に進みかけていた体を後ろに向ける。そのときには、もう暗部達の姿はなく。ナグラは気難しい男で、長身な上に声も威圧的だ。そんなナグラがシモクを褒めるようなことを言うのだ。少し照れる…。彼の小隊に配属されてから随分と経つ。シモクは面を被り直して、第三次試験予選の会場に向かった。




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