147.さよらなではなく、またね。

「シカマル…!あんた1人で暁やっちゃったの!?」
「この人案外すごいんですね」
「まぁ今回は何が何でも…だったからな」

シカマルが暁の一人、飛段を下した。サイはそういえばと言うように。さらっと口に出した。

「あなたに似た人を知ってますよ。同じ影を使うけれど、どちらかといえば肉弾戦を得意とする。その人、あのダンゾウ様のご指導を直接受けたのにずっと笑ってました。」

シカマルはあぁ、と言葉を濁した。それは実の兄。サイは特に深く関与していないにせよダンゾウ派閥にいたという事は語られないカリキュラムの概要を知っていて当然。…ダンゾウに逆らう事など鼻っから頭にない根の連中に、情を求めてもどうしようもないのはわかっている。わかっているが…どうにもこのサイという男。そういう「空気」も「気遣い」も、まだまだ勉強中である。

「あれ以来見かけていないんですが、お知り合いですか?」
「同じ一族なのは確かだな」
「成る程」
「元気にしてっから、気にすんな」
「そうだと思ってました。あの人、そう簡単に死にそうにありません。」

…元暗部、根の忍に言われた言葉は皮肉にもシカマルの中で一つの安堵に繋がっていく。正規部隊より後ろ暗い危険な任務を負っていたサイ。シモクと同じ土俵に立つ同業者の言葉は、深く関わっていない第三者だからこそ、ストンと素直に落ちてきた。シモクとシカマルを知る者達であれば、どことなくオブラートに。腫れ物を避けるような事ばかりだ。良くも悪くも思った事をすぐ口にするサイに、シカマルもまた「案外」いい奴だなと肩を竦めた。もの言いたそうな顔をしているがサイと違い、「空気」が読めるサクラは結局なにを言うわけでもなく、カカシ達の元へ走り出した。



「本日付で、火影直轄暗部亥班から根へ異動になりました。コードネームは、」

ダンゾウに促され頭を下げる。火影派、ダンゾウ派の暗部は殆ど装備が変わらないがこちらの面の方が、なんというか不気味だ。そういうシモクに与えられた面は鷹を模した、鷲鼻が特徴的な面である。自分には、似合わないと思う。この鳥の面は嫌でも恩師を思い出す。

「カリキュラム以来だな。俺はサジ。今後は同僚として頼む」
「ニシ。」
「今更挨拶なんて不要だよな。なんの心境の変化だよ?火影の犬」

以前のカリキュラム時に面識がある暗部である。成る程、監視の目はこの3名という訳か。特にアカイには悪い思い出しかない。意識を飛ばしていたとは言え屈辱的な扱いを受けた。

「なにしに来たよ奈良シモク。」

面を正面から捕まれ目元まで降ろされる。アカイの目は相変わらず狂気的だ。だがそれすら弾き返す程にシモクの目にもあの時死んでいた筈の輝きが戻り、強い意志を持って見返していた。

「俺の為に来た」

暫くの睨み合いで手を離したのはアカイの方だ。シモクも何事もなかったかのように元の位置に面を戻す。この3人であればそれぞれの性格はおおよそ把握している。アカイは面の下で乾いた笑いを零しながらダンゾウを振り返った。

「本当にこいつをお側に置くつもりですかぁ?ダンゾウ様」
「奈良シモクの特性はお前も重々承知の筈だ。カリキュラムの見直しも兼ねて目の届く範囲にいさせた方がワシにも都合が良い」
「サイの代わりになるとは思えないんですけどね。身体が丈夫ってだけでしょ」
「ダンゾウ様の決定だ。そろそろ口を慎めアカイ」
「へーい」

シモクはダンゾウの側仕えを任命された。それはいくつか予想していた事である。火影派閥からぱっと移動してきたのだ。貴方を許さないとはっきり宣った男がだ。警戒しない訳がない。しかしカリキュラムを受けさせるほどシモクに価値を見出すダンゾウだ。上手くコントロールできたら本当にダンゾウの良き手駒になり得るしシモクはシモクで何か目的があってここに来た。…どちらに転んでも互いに賭け。丁か、半だ。

「確かに信用は無い。だからこそ根の長、ダンゾウ様が俺を直々に監視なさるんだろう。」
「俺らも側仕えなのを、忘れるなよ奈良ァ」
「近い。」
「あぁ!?」
「煩い。」
「てめ、またサンドバッグになりてぇのか?」
「失礼だがあの時程腑抜けではない」
「あー腹立つ。」

舌打ちついてそっぽ向いたアカイに変わって一度「仲間として」やっていく為の説明を受ける。この施設についてだ。根の構成員は公式な人数が不明で殆どが先の戦争で天涯孤独者が殆どな事。舌禍根絶の印は漏れなく皆施されている。サジは一人シモクを連れて別室に招いた。この様子から見てサジは余程ダンゾウにも仲間にも信頼されているらしい。

「火影派にいたお前には悪いが、我々は同胞しか信用していない。更に言えば己しか信用できない。此処には確固たる命令を遂行する事が出来る奴らしかいない。」
「噂は聞いている。火影派ですら出来ないSSランクの任務を遂行しているのは皆が承知だ。」
「お前は類稀なる帰還率を誇る忍だ。殉職が多い此処では正直逸材ではあるがSSランクは…きついぞ」
「そうだろうな。」
「先程も言ったが、此処は天涯孤独が殆どだ。お前は、外に血の繋がりがある。奈良一族は木の葉でも優秀な一族だ。…奈良シモク。そんなお前が何故、根に来た」

…サジはどちらだ。完全なるタカ派ではないのか。何故そんな事を俺にわざわざ問うのか。…判断が出来かねる。出来かねるが、これも賭けだ。

「俺の為だよ。これは火影の暗部としてではなく、俺個人の為に来たんだ。まずは、あんたに俺の事を話すよ。」



「本当ですって。僕先輩の事全然知らないんですよ。」

しれっと両手を上げたイヅルは心底困ったな、という顔を浮かべてみせた。イヅルの元に瞬身で現れたのは僅かなミスさえ許されない、暗部仕込みの得意な演技(しらばっくれ)すら見抜かれる危険性の高い人物…

「お前だけに聞いているわけじゃないんだけど、なんだか匂うんだよね」

はたけカカシ。本当に人間じゃねぇ。こんな人が本当にいるのか。歴代暗部でも1、2を争う程に有能過ぎると言うか、エリート中のエリートでお馴染み。目を引く容姿にしたってコードネームなんか意味ないくらいに、目立っている。暗部は随分と前に退いているが現役の噂はこちらにまで回ってくる。

面識がかなり薄いイヅルとカカシではあるが、カカシにとってはあの尋問の発端となった中心人物であり、シモクの直の後輩という小さくはない存在だった。アスマの弔い合戦。暁との激戦を終えて帰還。毎度お馴染みのチャクラ切れやらなにやらを起こしつつ搬送されたのだが……妙な胸騒ぎがしたのだ。この胸騒ぎは、いつもそう。決まって大事な何かを失う時。

「あの人、本当に目を離すとすぐどっか行きますよねぇ。周りなんて御構い無しで。」
「もう一回聞くよ。シモク、知らない?」

_イヅル。俺はさ

「何度でも言いますよ。カカシさん。」

_やっぱりイタチを助けたい

「僕は"何も知りません"」

_俺もあいつも、ちゃんと生きて

「知りませんよ、あんな馬鹿」

_戻ってくるから

「知るわけないじゃないですか」

現れたのは影分身で。何を質問しても、何度止めても。あの人は突き進む道を選んだ。一度決めたら、テコでも動かない。本当に頑固で自分勝手でわがままだ。

「でも、僕は信じてますよ。」

あの背中が、倒れる事はないと。ずっといつまでも。だって、兄の死を背負って最後まで生きてもらわなきゃ。そうじゃなきゃ、兄だって浮かばれないじゃないか。

「先輩はすぐに戻ってきます。貴方も先輩を知ってるなら、ご存知でしょう。あの人はなんて呼ばれてるんですか。」

本当のところ、あの人が何故ダンゾウ派にわざわざ出向いたのかは分からない。知る事も叶わない。それをあの人は望んでいない。あの人が代わりに望んだのは、

「いつも通りにしていれば、帰ってきます」

…後輩、イヅルは面の下でにっこりと笑ってみせた。俺にも言えない事情。シモクは、いつもそうだ。カカシは塞ぎ切っていない傷口に片手を当てながらひょこひょこと戻る事しか出来なかった。里の誉れと言われても、ガス欠すればこれだ。ほんの一握りの大切なものを失い続けたカカシにとって、信じるという行為は、もう純粋にできるものではなくなってしまった。ナルトと違い、シモクは一般の忍だ。ナルトを差別をしているわけじゃない。しかし四代目火影波風ミナト、そして特殊なチャクラを有するクシナの子息である事。その2人が残した力に応える程に強い心を持つナルトはやはり火影を目指すと高らかに宣言するくらい。尾獣を力に変えるくらい。強い。だからこそ自然と期待してしまうし、信じてしまえる。しかし…シモクは。

「…お前は、イタチの後を追っているよ」

足を止めて見上げた火影の顔岩。己の師である四代目火影。…先生。俺は何をしてやれるんでしょう。
あいつは本当に、自分の首を絞めるような奴で。気づいたら、サスケみたいに遠くに行ってしまいそうなんです。先生がいたら、シモクになんて言葉を掛けたのだろうか。俺は。




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