144.もう言葉だけではダメなのです

「俺が独自で調べていた物も含めて全部やる。」

ソファまで侵略した山積みの書類の山から禁止封印された冊子を寄越すオクラに目を白黒させた。確かにオクラにうちは一族の件について相談した事はあった。土中一族は千手一族と遠い親類関係だ。千手と言えば木の葉創立者の千手柱間。うちはと言えばうちはマダラ。両者の対立により一族の対立が根深く残った。千手側の一族であった土中の歴史に、もしかしたらうちはが記録されていると思ったのだ。

「お前…いつの間にそんな…前は期待すんなって…」
「あぁ。上からお前に対しての情報開示はストップしていたからな。迂闊な事は言えなかった。特にうちはの記憶を失っていたお前には。」
「…イタチに会ったんだ、あいつは上役に記憶を操作されたと言ったんだ。確かに可笑しいだろ。イタチの事だけ忘れた」
「…それは違ぇんじゃねぇかな。」
「え?」
「上手く言えねぇが…人間の頭って大事なものから忘れるんだってよ。思いの強さ。強く思うからこそ、忘れたんだよ。」

最後の冊子を渡したオクラは未だに唖然として立ち竦む背中を大きな手でぶっ叩いた。

「全部やる。これが、本当に俺が知る全てだ。質問・異論は総無視するからな。」
「お前…情報を渡した事がバレたら…」
「これは木の葉諜報機関と暗部間でのやり取りじゃない。友人としてのやり取りだ。」

それに俺は誰の情報かなんて一言も言ってない。上から、箝口令が敷かれているのに。オクラはそう言うと用事が終わったとばかりにしっしと手で退出を促した。

「感謝する、オクラ」

大量の情報に埋もれながら片手を上げる戦友は白い歯を見せて笑っていた。



「…こんなに膨大な量を…」

事細かに調べ上げられた文書は何行にも渡る。非公式で一人で調べたとしたら、かなりの口寄せ動物を使いチャクラを消費したに違いない。それに暗部のシモクに諜報部のオクラが情報漏洩したとあれば信用にも関わる。家柄も小さくない。全てを覚悟で寄越したこれらを絶対に無駄にしてはいけない。もしかしたら、俺の知らない事が記されているかもしれない。うちはクーデターの一件は何重もの思惑が重なり合った事件だ。恐らく全貌を把握しているのは今は亡き三代目火影と木の葉上層部。そしてダンゾウくらいだろう。シモクが知り得るのはイタチから語られたもののみだ。

「…瞬身のうちはシスイ。…遺体は見つかっていたのか。」

遺体発見場所はうちは地区程近い川瀬。身体に残った戦闘痕から対戦があったものと推測。両の眼球は抜き取られていた…。うちは一族の中でも最高ランクの瞳術「別天照」。うちはシスイは当時から有名だった。木の葉の正規部隊に属さない生粋のうちはとして活躍するも「うちは」と「木の葉」を分けて考える事をしなかった男だと…。

「…うちはフガク。うちはマコト」

イタチの父と母。遺体は本人らの自宅で発見された。争った形跡はなく背中を刃物でひと突き。不可思議な程に無防備。…これは、相手がイタチだったからだ。うちはの頭を名乗る程に強いフガクさんが外敵に応戦しない訳がない。争った形跡がないのは…そう言う事だ。シモク自身も筆頭一族の家系である。自分が同じ条件を提示されたら…どうしただろう。

「…うちはサスケ」

イタチの…砦。イタチはなによりもサスケを案じていた。火影に嘆願して上役達を黙らせて。真実をひた隠す事に遁走した。イタチは無駄な事はしない男だ。俺に真実を話してしまったのは、本当に本当に心が折れかけていたからだろうか。たまたま近くに時間を共有した俺が居てしまったからだろうか。イタチすら、分からなかったのか。何故俺に封印すべき真実を託したのか。三代目火影を除く木の葉の老いぼれ達の抑止になれと言うなら、初めからそう言っている。

「…3年前に抜け忍になって消息不明だが大蛇丸に同行している可能性を推測。」

…イタチが思い描くような未来が近づいている。望んだ通りに弟はお前を追いかけた。でも…それじゃあ、本当の事を知る俺はどうすりゃいい?うちは兄弟の問題は2人で片をつければいい。しかし平和に解決する事をイタチ自身が望んでいない。なんとしても弟に、この世界を生きていける術を託そうとする。自分の死を持って。
暁の動きが活発になり、弟のサスケは3年前に里を抜けた。あの兄弟がかち合う日はそう遠くない。その時は…きっと。別れが突然訪れるのは、忍の自分が痛いほど知っている。知っているから、最悪を避ける方法を、死に物狂いで考えて、見て、探す。

「…誰にも明かしてはならない」

イタチの生き様を、覚悟を、第三者でしかない俺が軽く語ってはならない。それに俺が喋れば本末転倒。イタチの全てが無に帰すのだ。サスケに接触する事はタブーであると。その存在を知りながら俺は彼が里を抜けるまでの長い間、イタチの真実を告げなかった。チャンスは幾らでもあった。しかしそうしなかったのはイタチの気持ちの方を汲んでしまったからだ。もし俺がサスケに本当の事を話していたら。信じるかどうかは別として、少しでも抑止になったのではないか。まるでそうなると決まっている物語が、動き出さなかったんじゃないか。止める術は、幾らでもあったんだ。それこそ、一番最初に。

「……。」

うちは一族。呪われた一族。何代にも渡って受け継がれてきた…憎しみ。自分達奈良一族も血生臭い歴史が無いわけじゃない。木の葉の中でも猪鹿蝶は猿飛一族と同じように古参中の古参。奈良一族頭の長子として教えられた歴史はいつでも戦争の大義だ。15代目…父、奈良シカクは里内でも穏健派で通り、他二つの秋道・山中もそれに同調。一族ひとつでも拗れれば堪らないというのにそれが大昔から三代一族横繋がりで今も固い結束とは、自分もその内とは言え恐れ入る。
全てに目を通したシモクはその場で資料を燃やした。自分の頭に入った今、紙媒体を保管するのは危険でしかない。わざわざ紙で寄越したオクラに感謝しつつ、頭が上がらないと思った。昔から自分達を小煩い兄のように宥め戒めてくれる。年齢が1つ上で、尚且つ責任感のある男だからだろうか。復帰戦の時にはかなりお互い大人気ない事をしたがああいう風に喧嘩が出来るのは貴重だったと今となって思うのだから、時間と共に自分の中の棘が余程丸くなったんだろう。

「悩んでる時間なんか、ないもんな」

オクラの言う通りだ。悩む時間ばかりがあり過ぎるとドツボに嵌る。考える暇なんてない程に、俺にはやる事がある。時間を無駄にしていられない。大丈夫…俺は、大丈夫だ。

「…行こう。」

策なんて何も無いんだけど。やっぱり、やっぱりさ。俺、お前を助けたい。だけど俺の力だけじゃ…うちはのお前をどうすることもできない。最初は理解する為にと思った。だけど、ただ思っているだけじゃ変えられない。遅過ぎるかもしれない。だけど、こんな風に何度も後悔して傍観していたくない。
俺はお前にまだまだ、生きてて欲しい。




「………」

見知ったチャクラが門を通った。病院で白眼の療養とネジからの閉じ込めを受けた新は大人しく忠実に生活していた。しかしいくら自分が病人と言われても納得出来ない節も無いわけじゃない。だけれど自分がここにいることをネジが望むならそうする他ない。普通の白眼より広範囲を探知する事ができる新は忍の癖で居ても立っても居られず白眼を発動していた。元からじっとしているのは性に合わないのだ。範囲は木の葉全体とその周辺2キロ。ナルトとサクラ、そしてシモクの現上司。あと一人は知らない。フォーマンセルでの任務なのは分かったが、この編成。少し前にカカシとシカマル、いのにチョウジも木の葉を出ている。…相当のメンツじゃないだろうか。木の葉周辺2キロを越えてしまえば追えない。範囲外となる。行き先がいまいちよく分からないが、なにか大きな任務で相違ない。

「……お?」

ナルト達が探知範囲から外れるとすぐにまた別の場所で動くチャクラを捉える。知っている者のチャクラはとても捉えやすい。オクラとシモクだ。珍しく一緒にいるのかと興味深い。あの二人はお互い異種の情報を取り扱う為、微妙な線引きがある。それは二人も分かっている。なら何故飲み屋に行く訳でもなく真っ直ぐに諜報機関に向かっているのか。
シモクが諜報機関に居たのは10分にも満たない。オクラはそのまま機関に残り、シモクはそのまま移動した。なんだこの奇妙な動き。

「…そっちは…火影直属の暗部棟じゃない…」

ルートを脱した。シモクは迷う事なく走り、ある建物のぽっかりと開いた地下に真っ逆さまに落ちて行く。

「馬鹿おい…そこは…」

里の中枢から離れた場所…地下に位置するそこは上忍クラスになると殆どの者が知っている。

暗部"根"の忍教育機関。ダンゾウがいる場所だ。




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