12.受胎告知の残像

「忘れ物は」
「ない」
「クナイの本数数えたか?」
「昨日の内に」
「体調は問題ないか?」
「いつもの通りだ」

早朝、日向ネジと新。新とて試験に立ち会う上忍として早くから準備に行かなければならない。受験生のネジもそれは同じで、途中までの道のりを沿い歩いていたのだ。良かった、緊張してもいないようだ。ネジとの会話の中から読み取れるものはいつもと同じく、ひどく落ち着いていることのみ。ネジらしいといえばらしいのだが、…心臓に毛でも生えているのだろうか。

「じゃあ、俺こっちだから」
「ああ」
「ネジ、お前にこの言葉は不要かもしれないが…落ち着いてな」
「確かに不要な言葉だな」
「頑張れよーネジぃぃいい」
「煩い、わかっている」

小さくフッと笑ったネジに新もニカッと笑みを返して。これじゃあどっちが年上やら。ネジは呆れたように溜息を漏らしたが気の抜けたように肩の力も抜いた。そんなネジの背中を見送って新は上忍待機所へと歩く。そこに。

「あー、もー、なにやってんだお前ら!」

イザコザと遭遇した。いや、なに。丁度通らなければいけないところで対立しているのだから見過ごすわけにもいくまい。なんたって確かあの子供達はカカシのところの班だ。いま問題を起こして受験する権利を剥奪されれば、カカシの顔が立たない。

「だってこいつが…っ」
「おう、威勢がいいな。こいつらは中忍試験できた客だ」

金髪の少年にタックルもどきを受けて、それを受け止めながらも新は笑ってみせる。

「すまないな、うちの里の者が。」
「いや…別にいいじゃん」

隈取りの化粧なのか、全身黒い衣に身を包み背には傀儡を背負った少年が毒気を抜かれたように頬を掻いた。

「全くだ…里の面汚しが」
「!!!お前は…」

その時だったのだ。第3者の声が聞こえたのは。サスケは寄りかかっていた木の枝から身を乗り出した。すぐ隣にはいつからいたのだろう、赤髪の少年がチャクラを足に貯めて逆さになってその状況を見つめていたのだ。新はひと目ですぐにわかった。

「砂漠の…我愛羅だな」

そう新が呟いた言葉に反応したのか、無機質な隈に縁どられた目が新へと向けられる。タンッ、と最低限の小気味良い音を立てて黒衣の少年と扇子の少女の中心に降り立つ。

「こちらが失礼した、木ノ葉の諸君」
「やはり、砂隠れの忍だな。」

無言の肯定が交わされる。ナルトは頭にクエスチョンを浮かべている。

「毎年、中忍試験の会場は木ノ葉の里で行うことになってるんだ。額当てから見て
砂隠れの忍だ。彼らもナルトと同じ、試験を受けに来たんだ」

そう説明してやればナルトはへぇと頷いた。

「試験会場がわからないのなら、案内するぞ」
「結構だ」

我愛羅は背負った瓢箪を翻しながら去ろうとする。

「おい待てよ、そこの瓢箪」

サスケがそれに待ったをかける。真っ黒の瞳を鋭くさせながら、我愛羅を睨み付けている。それは我愛羅も同じこと。

「…やめろ。うちはサスケ。いずれ第2次試験で会うことになる」

そうこうしている内に砂の3人は消えてしまっていた。ジトリとした視線をサスケから受けたが新はさらりと受け流した。

「あいつらは里の客だ、いくら気に食わなくてもだ。じゃあ早く会場に行けよ?カカシさん待ってるだろうし」
「…ところで、アンタ誰」
「今更そこくるかよ。俺は日向新。上忍だよろしくな」
「あ。じゃあ貴方ヒナタの家の…」
「まぁ、あながち間違っちゃいねーけど…俺は分家の方」

そう言えばやはり小首を傾げたのはナルトだった。


「ちょっとー、どこほっつき歩いてたのよ」
「…色々あったんですよ」

もう始まるよ?なんてカカシは眠た気な目で新を見た。あんたのとこの生徒がな、とは言わなかったが。

「一次試験はまだ穏便ですね」
「まぁね、でもあのイビキだからねぇ顔怖いよねぇ」
「直接本人のまえで言ってみりゃあどうですか」
「怖くて怖くて」

試験会場の外で待機の担当上忍達は中の様子が気になって仕方ないようだ。アスマもタバコを一本短くするのが早い。紅も落ち着きなさそうにあっちいったりこっちいったり。

「……暗部はいないんですか?」
「数人、会場の中に居るよ。こんな待機所にいるわけないでしょ」

それもそうだ。守るのは里の受験者達、見張るのは里外の受験者達だ。こんなところにいたら確実にその暗部は任務放棄だ。その者の首が危ない。

「大丈夫でしょうかね…」
「なーにが」
「今年も、無事終わりますかね」
「んー、だーいじょうぶでしょうよ」

カカシの目が細くなる。気の抜けたこの笑顔、出会い頭最悪だったあの男からは想像できないほどの穏やかさだ。やはり裏に居続けた者は自然と感情が抑圧されてしまうのだろうか。そうだろう。暗部はもし拷問を受けても決して口を割らない術を叩きこまれている。

「そうっすか…」

少し明るい声色に戻った新に再度カカシは目を細めた。




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