125.なぜ生きているのかという疑問

「そうか…あの地陸までも…」
「自分は丁度巡警に出ていて…帰ってきた時にはもう…」
「…木の葉から一名暗部を派遣していた筈だ。有事の際に備え、外に待機させた暗部と大名子息の帰還も確認出来ていない……」

「……奈良さんは………、」

逃げ延びた僧の口から紡がれた言葉に綱手は…ぎしりと唇を噛む。シズネも静かに顔を伏せる。

「………。火の国から逃すな。新編成した十二小隊にただちに連絡しろ」


…新編成した小隊メンバーに自分が加わっていることは分かっていた。この隊での任務はこれが初めてだが、筆頭に師であるアスマ。並びにコテツとイズモ。ここまで知れた顔ぶれが揃っていれば気負う必要もなかった。火影から伝えられた経緯はシカマルの心臓を悪くも早く打ち付けるものだった。

「話はここまでだ。何か質問のある者はいるか?」
「あそこには元守護忍十二士の地陸がいるはずです。彼はどうなったんです?」
「………地陸様はそやつらの手にかかり、死にました」

…それ以上、アスマが追及することはない。シカマルも聞きたいことが1つだけある。…だが、どうやっても手を挙げることはできない。柄にもなく、その先を知るのが恐ろしかった。綱手もそれを分かっておきながら話を進めようとしたが再度アスマの口が開く。

「……すみません、火影様。あともう一つだけよろしいですか」
「何だ…?」
「火ノ寺には大名子息護衛付きの暗部が数名いた筈です。彼らの安否は。」

代弁である。背後の気配を汲み取ったアスマの。弾かれたように顔を上げたシカマルはアスマ越しの綱手を見詰めた。

「…大名護衛付き暗部三名については以前行方が掴めていない。子息もだ。」
「…」
「弐班、参班は話したように消息不明の大名子息の捜索を主軸に行動してもらう。他は暁の拘束だ。奴らの目的も知りたいがかなりの手練れだ。身柄の拘束が不可能な場合は抹殺しろ。火の国から逃すな。必ず見つけ出せ。行け!散!!」

頭が、金縛りにあったようだ。このまま任務に当たると死ぬ。俺だけじゃない。周りさえ危険に晒してしまう。それは、どうあっても任務に集中しろとの無言の仰せである。俺がこのメンバーに組み込まれた理由を考えろ。余計なことを振り払え。

自分の兄を、信じろ俺…!



……火の国圏外。岩隠の里と滝隠れの里、国境の境目。

「…これはもう仏さんになっちまったなあ…」
「なんか金目のものもってないかな」
「こら!仏さん相手に失礼よ!」
「にしてもなまじ色っぽい男だ」
「この服、お坊さんだったのかなあ?」
「坊主なら丸刈りだろ」

日が昇る朝焼けの時刻。1人の男と2人の子どもが生き倒れた青年を囲っていた。ぱっくり割れた頭部からは乾ききっていない血が未だに滴り、白い着を濡らした。年齢は20代半ばといった所だろうか。朝日を浴びて茶色の髪が橙に見える。

「本当に坊さんなら罰当たりなことしちゃダメだよ」
「はーい」
「って…おいおい!!今動いたぞ!」
「えーっ!生きてるのー?」
「お兄ちゃーん!おーい!」

眉間に皺がよる。すうっと音もなく開いた片方の切れ長の目は3人の姿を確認するや否や刮目し、起き上がった。

「ッ!あ、ぐっ…!!!!」
「お前バカか!頭割れてんだぞ!」
「黙れ…!どこの者だ…!暁の仲間か…!!?」
「あかつき?」
「頭が仏さんになっちまったんだろうな。」

南無南無。男の合掌に合わせて子ども2人も両手を擦り合わせた。いや、違う。頭は正常だと青年はようやくどくどくと流れ落ちる血に気付いた。

「……、俺は…一体」
「仕方ねーな。フク。ウグ。その兄ちゃん連れて帰るぞ。放っといたらまじで死ぬ」
「待て……、俺は」
「うーーし。いくぞー」
「お兄ちゃん、手ェ貸して!」
「立てる?おんぶする?」

「いや…立てる。」

フラフラと立ち上がった青年は片目で辺りを見渡した。近くで滝の落ちる水跳ね音が聞こえる。

「あー、名前聞いてなかったな。俺はオコシ。そっちのチビはウグ。中くらいのがフクだ。」

「俺は……奈良。奈良シモクだ…」
「おう、シモクな。まぁちっせえ家だけどゆっくりしてけよ」

気前よく笑った八重歯は2人の子ども達とおんなじだ。滝……。もしかしたらここは滝隠れか…?まだぼんやりする意識で手を引かれながらそう感じた。火の国に滝はない。その周辺にもだ。このまま瞬身の術で逃げるのも手だが倒れた自分を隠すことのない気配で囲い、あまつさえ救いの手を差し伸べてきた。…恐らく、いや。確実に良心のある一般市民だろう。この傷ではさすがの自分でも木の葉まで持たないかもしれない。せっかくの救いの手だ。有り難く思おう。傷だらけの手を引いてあるく小さい方の子ども…ウグは視線に気づくと、にかっと笑った。




×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -