124.枝分かれした道の先は暗雲の闇

護衛という名のベビーシッターの任を拝命してから暫く経った。袈裟の着方もだいぶ板についた。丸刈り拒否を許してくれた地陸殿には感謝しかない。

「子息。ここに汚れが残っていますが」
「シモクさんってお姑さんみたいだよね」
「お望みなら熱演してあげますよ。それはもう本物の姑に。」
「えげつなさそうだから、いいや」

今日も寺の掃除をだるそうにやる子息にも飽きが見えてきた。早く飽きて一言帰ると言ってくれ。そうすれば俺は木の葉へ戻ることができる。雑巾がぶち破れるくらい捻った。そのなんの変哲も無い。突然の事だ。

「…!!!!!なんだ!!!?」
「へ?」

瞬間、ざわりと肌が粟立った。周りの僧達もバタバタと慌ただしく動き出す。ただの人である子息には何も感じなかったらしい。

「何事だ?!」
「封印鉄壁を破った者がおる!侵入者だ!」
「地陸様に報告しろ!」

…っ今か…!!だからやめておけば良かったんだ、武者修行など…!こんなガキ一人でも大名なんだぞ!

「ご子息。問題が発生致しました。速やかにこの場から離れます。」

万が一…万が一に備えて火影様が用意してくれた暗部の仲間は寺の内部にはいないが、寺の外で待機してくれている。大名を乗せる籠を据えて。

「いいですか。今から俺は貴方の護衛として働きます。我儘も聞き入れません。死にたくなければ従って下さい」

顔を真っ青にしてコクコクと頷く子息を確認し、 八つ橋さんを口寄せした。

「八つ橋さん。寺の外に俺の仲間がいます。あなたが行くだけで伝令になります。必ず辿り着いて下さい」
「任せろ」

ふんふんと鼻を鳴らした八つ橋さんは瞬く間に寺の廊下を駆けていく。

「木の葉の為にも、貴方には無傷で帰還して頂きます」

奈良シモク、いつもながらに帰還してみせます。



「珍しいっすね。いきなり棒銀なんて」
「じっくりやろうぜ。時間もあんだし。敵陣突破の尖兵だ。たまにゃこういう指し方も出来ないとな」

奈良家の回廊には将棋盤を挟んだシカマルもアスマが互いの膝を向けて詰んでいた。次の仕事の打ち上げ代の賭けだ。彼らの班は何かにつけて打ち上げがあるらしく、その代金を誰が支払うのか…。普通の食事ならまだしもこちらには大食漢秋道チョウジがおり、しかもその食事場所はいつも焼肉屋である。負けたくは…ないだろう。そんな賭けをしながら、本当はアスマと一頭の忍となったシカマル二人の、師と弟子としての時間を過ごす。…だが今日ばかりは違っていた。白い煙を吹かす男の珍しい指し方にシカマルは違和感を感じざるを得ず、黒目の三白眼を向けた。

「そういう指し方嫌いじゃなかったっすか?俺と同じで…」
「上手相手に"玉"を守る為には、犠牲もやむなしってやつだ」

なんだ。滅多にねえこと喋りやがる。

「何かあったんすか?」
「別になにもないよ、ただ今頃になって玉の大切さが分かってきたのさ」
「そりゃ玉取られたら終わりっすからね…将棋は」
「木の葉の忍を駒に例えるならシカマル…さしずめお前は桂馬だな。」
「…何で?」
「力は弱いが駒を飛び越して進むことができる…このユニークな動きは型にはまらないお前の柔軟な思考に似てる」
「…じゃあ先生は?」
「俺はなんでもない、ただの」
「犠牲駒…ってか…」

ぱちん。ぱちん。

「お前の兄貴はそうさな。こいつだ。銀将」
「なんとなく分かるぜ。兄貴は攻めにも守りにもなる。」
「後方で動き回る様なんか特にな。ぼけっとしていたら、食われる」

ぱちん。

「なら…玉は誰だかわかるか?」
「……。火影だろ?」
「俺もこの前まではそう思ってた。けどそうじゃなかった…」
「じゃ誰なんすか?」

「お前も時がくりゃわかるさ」




「どうやらここには人柱力はいなかったみてーだな。祈りが終わり次第、次へ行こうぜ」
「いや…こいつの死体を換金所に持っていく。まずは金だ」

忍寺はその姿の面影もなくし、その崩壊しきった様から凄まじい戦闘が行われたと物語る。守護忍十二士……地陸の敗北だ。

「お?まだ残ってたじゃねーか。他の奴らと違って、ふっさふさだな。」
「…!」

瓦礫を押し退けて現れた男に暁の一人、飛段が起き上がった。

「今日はついているな。片目の修羅……木の葉の帰還屋か。思っていたより若いな」
「なんだそりゃ」
「木の葉の暗部にして成功帰還率100%の忍。二万五千両の賞金首だ」
「はあ?こんなガキが?その手配書間違ってんじゃねーの?」

角都の目が細まる。這い出た男は袈裟を煩わしそうに脱ぎ捨てた。

「左肩の炎の刺青がその証だ」
「木の葉の忍がなんで寺にいやがる?」
「事情は二の次だ。今はさらなる賞金首を仕留める事に集中しろ。」

片目の修羅の瞳孔が開いた。




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