122.まだ言ってないことがあるんだ

「大名の御子息が、私達のような者に興味を抱くのはどうかと。私達は忍であり、火の国の守護に当たる日陰の身。それに、私なんかは…」
「他の忍とはまた違う立場から里と国を守護する特別暗殺部隊、通称暗部ですよね」
「…仰る通り」

おい、大名の息子にこんな情報渡してるのどこのどいつだ。大名家だぞ。忍の薄暗い背後を知っていい存在でもない。それに……俺は、守護されるのが当然だと宣う大名家をよく思ってもいない。木の葉隠れは火の国圏内での活動を認められ公に雇ってもらっている、いわば国が俺達のパトロンなのだ。各里はそれぞれの大名が忍達の活動を買って自国の防衛から繁栄にあてている。お上が呑気に茶を飲んでいる間。俺達は死にもの狂いで戦い、死んでいるのに。

「だからこそ、貴殿のような御方には認知程度でいい事です。忍は忍。大名家は大名家」
「忍に興味を持つことはいけないことでしょうか?」
「いえ。ですが忍には掟が存在致します。例え大名家であろうと、その情報を公式に開示する命を受けない限り、私的に口は割りません。つまり私が貴殿にもたらすものは何もない…ということを、覚えていて下さるようお願い申し上げます」

暫くの間があいて、子息はゆるゆると頷いた。さて……扱いに困る。

「私は忍寺の地陸殿に挨拶を済ませておりませんので、暫しこちらの僧に護衛をお任せします。」
「おまかせください」
「常に気を張ってますので、なにか異変があればすぐに駆けつけます。今回は武者修行とのことなので、お邪魔しないよう注意します。」

大名警護は得意だ。ただ余計な口は効かず、控えて守ればそれでよい。大名に媚びへつらう気もさらさらない。俺が求めるものは銭ではない。

「地陸殿。」
「アスマから聞いているぞ。お前の才能を」
「買い被ってるんです。」
「我らの時代であれば、守護忍に数えられていただろう」
「褒めてくださっても、なにも差し出せませんよ」
「なにか取ろうと思っている訳じゃないさ」

地陸殿はアスマさんの友人で元守護忍。実力は確かな人で、大名の子息を任せるだけの力量はあるのだが、念には念をということで俺が選ばれた。

「暁の情報はどれほど聞いておられますか」
「全てだ。」
「全て……とは。」
「知れている暁のメンバーの中に木の葉の抜け忍がいると。あのうちはの一族と聞く。」
「誤解です、あいつは………、すいません。なんでもございません」

誰が、そんな言葉を聞く?戦友の新にでさえ否定されたんだ。どんなに仏に仕える身であっても、そこまでの慈悲はないだろう。口を噤んだ。今は任務中だ。暁の味方だと誤解されると非常に面倒。ここは木の葉じゃない。忍寺なのだ。お互いよく知りもしない相手。僧とて忍ならばそれなりの警戒も十分だろう。

「暫しの間、お世話になります。」

俺がイタチの味方であることに変わりないのは事実なのだから。



「さあさあ聞かせてくれ。あのエセ面カブトのホラ吹き野郎の息根を止めることはできたのか?」
「新の兄ちゃん、近いってばよ…」
「おっとすまない。見えないもので」
「それに関しては僕も聞きたいことがあるよ。日向新」
「その声テンゾウさんだ。なんでしょう」

はい、息の根止まってますとは言えない。天地橋の任務はなんとも言えぬ結果を残したのだ。そして…サソリのスパイが薬師カブトであったという事実。新は天地橋任務に行きたがっていた。因縁である薬師カブトを仕留めるためだと。同じように大蛇丸に実験体として扱われたテンゾウにとって、新もその犠牲だと感じていた。白眼は木の葉の宝だから。

「その眼のことについてだよ。君はその手術を薬師カブトから受けたと言っていたね」
「まあ。俺も必死だったんで。形振りかまってられなかったんですよ」
「そして、今ガタがきていると」
「おっしゃる通り。やっぱり野郎はガサツだ。とんだ不良品をかまされた」
「大蛇丸との接触はあったのかい?」
「いえ、別に。カブト本人のみの興味だったんでしょう。大蛇丸が一度でも俺の前に現れたことはありません」
「薬師カブトが単独で君に近寄るとは思えない。奴は大蛇丸の考えに"共感"したと言っていたからね。実験体が不足しているとも。木の葉の宝である白眼を持つ君を放っておくとは思えないんだよ」
「サイコ野郎の考えなど、それこそ理解できない。仮に今テンゾウさんに嘘をついているとして俺になんの利益が?」
「簡単さ」

テンゾウの言葉が一度途切れる。調べ済みであるのだ。自分が関わった者は、仲間でも徹底的に調べ上げる。それは暗部の職業病とも言えるものなのかもしれない。それを駆使して導き出したテンゾウの答えは、新の反応を促した。

「日向ネジを護るため」

ナルトの顔がよく分からないとばかりに歪んだ。

「かはっ!いやいや、そりゃ当然!ネジを護る事は俺の命よりも重い大事な任務だ。だからと言って…」
「日向新。ここに君の一族は誰1人としていない。僕達は君を嘲笑わない。」
「……本当だよ。大蛇丸と話した事はない。」

それ以上は、いくらカマをかけても引き出せるものではないと判断したテンゾウは漸く簡易椅子から重い腰を上げたのだった。




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