120.流れ落ちてしまう絵の具のよう

ダンゾウの腕の写輪眼を奪うのは簡単な事ではない。ダンゾウは木の葉の中枢にくい込んでいるだけでなく暗部「根」を統轄する人間。いくら失脚しているとはいえ、反旗を翻すことに変わりはない。……自分でも無謀な計画を立ててるのは分かってる。だがこうでもしなければうちはの跡は辿れない。あの眼が必要だ。

「兄貴」
「!…あ、なに?」

思考にのめり込んでいたのか、目の前で片手を振るシカマルに気付かなかった。しまった。少し瞬きして咄嗟に返事を返したが、シカマルは怪訝な顔だ。

「珍しく考え事か?」
「あぁ、砂から帰ってきた新とカカシさんの事。無茶したんだなって」
「常日頃無茶する常習犯がよく言うぜ。」
「元岩隠れデイダラ。元砂隠れのサソリ。暁の2人の内1人を仕留めたんだ。さすがだ」

ここはうまく切り替えせ。シカマルに余計な頭の回転をさせるな。悟られるな。

「そろそろ中忍試験だね。」
「まぁな。めんどくせーけど、やる事は山積みだ」
「信用されてる証拠だよ。」
「へーへー」
「それとシカマル。俺はもう大丈夫だ。だから自分の事に集中して欲しい」

怪我と戦意喪失の繰り返しでシカマルには心配と迷惑をかけた。俺はもう十分に回復したし、やらなきゃならない事もできた。だから俺に構っていないで、その時間をシカマル自身に当ててほしいのだ。俺の言葉を信じていないのか、何言ってんだ的な目で一睨みされた。

「目離したら何するかわかんねーからな。めんどくせーことになる前の予防線だ。」
「中忍試験の係員にそんな暇はないだろ?」
「ココうまく使えりゃできねぇことはねぇよ」

とんとん、と人差し指で自分の頭を突いた。さすが、策士と名高い中忍だ。スケジュールも既に把握済みで時間配分も済みなんだろう。そして現在任務を停止させられている俺だ。木の葉を動き回ればその行動はすぐに筒抜けになる。シカマルに感知能力はないが人の行動パターンからなにまでを高確率で予測できる頭脳がある。

「ああなるのは……もう御免なんだわ」

呟かれた言葉にどれほどの心配を弟にかけていたか、再確認させられる。下手に動けば弟の負担。

「……シカマル、うちはサスケ知ってる?」
「あ?まぁな。同期だしよ」
「やっぱり強いのかな」
「アカデミーの成績良かったぜ。あん頃の一番強いヤツっつったらサスケだ」
「なるほど」

うちはサスケ。うちは一族だ。彼から目を奪えるとは思えない。イタチの大事な弟だ。除外だな。となるとやはりダンゾウ様しかいないか。

「なんでそんなこと聞くんだ?」
「いや、ちょっと好奇心。ナルト君と友達になってから少し興味持ったんだ」
「ナルトと友達ぃ?」
「あ、ほら!シカマル時間だ。中忍試験の説明会があるんだろ?」

頬をぽりぽりと掻いたシカマルは納得いかないというように首を傾げて歩き出した。

「……いつまでもシカマルに甘えてる訳にもいかないしな」

ダンゾウの目を奪うということ。それは死ぬかもしれないってこと。自分の命を懸けても、俺はうちはの歴史を辿らなければならない。何故かそれだけが使命のように心の中に鎮座した。なにがなんでも目を手に入れろと。

「五代目様……?」

俺の頭上をクルクル旋回する鳥は、暗部の任務を知らせるものだ。



「ふざけんなー!!!!ネジネジネジネジネジネジ不足半端ねー!!!!!ああああ!!禁断症状!うほおおおおおおおお!」
「うるさいよ新」
「カカシさんがそんなんだから俺にも鬱が移るんですよ!!」
「逆ギレ!?」

ダスダスダスダス。こんな貧乏揺すり見たことない。なぜそんなこと言う割に自分の病室に入り浸っているのか。それだけが疑問である。ただ単に、新は愚痴の捌け口が欲しかっただけである。知り合いが四つ隣の病室であると聞いた瞬間これである。新の愚痴聞きはいつもアスマの役目なのだが。

「目の調子はどーなのよ」
「よくねーわ。よくねーからイライラしてんだよ!!!!」
「俺の鬱とか関係ないよねそれ。というか俺別に鬱じゃないから。」
「俺の目の価値ね!!?ネジの為にあの手この手その手!!使えるもんならなんでも使ってきた!それが何故今こうもポンコツなのか!!!」
「はぁ……」

こちとら神威で重度のチャクラ切れを起こして療養が必要だというのに、この目の前で騒ぎ立てる若者はなんなのか。両目に包帯を巻き、わなわなと震える。

「てことで、天地橋の任務に連れてってくれるよう、カカシさんから口添えして頂けませんか」
「散々こき下ろしておいて頼み事しに来てたの?」

肩がずるりと下がった。あの前振りはなに。あの無駄に煩かった前振りはなんだったの?カカシは気を取り直して新に顔を向けた。

「それはいくらなんでも無理でしょ。最大の武器が使えないんだし」
「薬師カブトには個人的に用があります。あの野郎を一発キメなきゃ腹の虫が収まらないんで」
「お前ねぇ…」
「お願いします」
「んー、お断りします」
「なんで!!?」
「なんでもです」

薬師カブトということは大蛇丸に繋がる。大蛇丸ということはうちはサスケに繋がる。自分がチャクラ切れなどしていなかったら、第7班としてナルト達と任務についたものを。断固拒否を受けた新は「ちくしょう」と言い残し去っていった。途中で柱などにぶつからないことを祈る。新と薬師カブトに因縁があったとは初耳だが、あの状態で簡単に任務に出せるはずがない。新とて、木の葉の大切な戦力に他ならないのだから。




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