未知なるものは見知らぬもの

日向新のすべては宗家の跡取りであるヒナタ様に捧げるべきである。そう言われたのはもう何回目になるのかはわからない。

「新にいさん」
「わあ、ネジ!こんちは!今日も修行?」

ネジが本当に小さい頃。まだ呪印もいれられていなくて、ヒザシ様が生きていた頃の話。ネジは俺のことを「にいさん」と呼んでいた。

「ネジに負ける日がくるかもしれないなぁ」
「すぐ抜けるように、頑張ります」
「っはは!なら俺も負けない!」

ネジの小さな体を持ち上げて遊んでいたらヒザシ様が縁側を通りかかった。すぐさまネジを降ろして廊下の脇に逸れたけど、ヒザシ様はさっきのまま、ネジと遊んでくれと仰った。

「宗家の方に、私と同じ子どもがいるとお聞きしました」
「ネジの一つ下の女の子だ。明日、3歳の誕生日を祝いに行く」
「どんな子だろう…」
「可愛い子だよ。」
「会ったことがあるんですか?」
「少し前に。挨拶した事がある程度だけど」

いいなあ、と呟いたネジの隣で少し複雑な思いに駆られた。俺は宗家の宝である跡取りヒナタ様を一番に思っていない。俺の一番はヒザシ様とネジだ。両親がいなくなってからは親代わりとして親戚の養子枠に入れられたが、ヒザシ様がよくネジを連れてきてくれたから、どんなに厳しく接されようと乗り越えることができた。俺たち分家の長であるヒザシ様と、その子息ネジの側で仕えることが俺にとっての幸せだ。

「あ!父上、にいさん!雪です!」
「初雪か…これは積もりそうだな」
「わあ……」
「すっげー。どうせ積もるんだ、一緒に雪だるま作らない?ネジ」

にこりと笑って応えたネジを連れて庭先に飛び出した。ヒザシ様は微笑ましそうに見守ってくださり、俺はこの2人の為だけに尽くそうと……改めて、心に刻んだのだ。

俺は分家の人間。宗家の跡取りを守護する役割を背負うことになる。12歳の折、宗家の別間に呼び出された。未熟な白眼を持つ不完全な俺を囲った大人達は高圧的に俺を見下した。

「ヒナタ様を、命に代えてもお守りしろ。それがお前の使命であり日向家に生まれ落ちた理由」

五月蝿い黙れ分かっている。

「取り柄がないお前とて盾にはなれよう」
「その為に我らがこれまで育ててきたのだ」
「完全なる目を持たぬお前に、ひとつ任務を与えよう。」

「その未熟な白眼を、どんな手を使ってでも育てろ。出来なければ日向の名は語らせぬ」

嗚呼、ええ。ええ。勿論でございますとも。

「謹んで拝命致します。その任務も遂行しましょう」
「手を抜くなよ。しくじれば誰がお前の代わりを務めるのか…分かるな?」
「分家には天才がいたな?…ネジだったか」
「精々気張られよ。日向の異端児よ」

「承知致しました」

ああ。ああ。お前らいつか絶対。絶対に。絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対。

殺してやる



「あら。随分小さな坊やだこと。わたしに何の用かしら?」
「三忍の…大蛇丸様。俺の目を見てください」
「日向家の子ね?厳かで、矜持高い一族である筈のあなたがわたしに助けを求めるだなんて世も末だこと。」
「あなたはとても研究熱心だと巷で聞いていました。俺は日向でいられれば、なんだっていい。なんだって。」
「そう。今わたし機嫌が良いのよ。いいわ…取引きしてあげる」
「取り引き…」
「あなたの白眼をわたしに頂戴。代わりに本物をあげるわ…他の白眼にはない研究成果をオプションに持つ白眼をね」
「研究成果…ですか?」

小狡い蛇は俺にそれを授けた。もう、何十年も前になる。だけど俺は確かに大蛇丸と取り引きをした。俺の人生がかかった取り引きだ。

「…なんでも、いい。俺が日向でいられるなら…俺がネジの"兄さん"でいられるなら。側で仕えれるのなら!」

俺は、カブトに移植手術を受けた。男の子なら我慢できるよね?と眼球ごと抉られた。この借りはいずれ倍にして返してやると誓いながら、俺はその眼を手に入れた。

「その眼が誰のものか分かるかしら?」
「…さあ…誰、でしょう…」
「時がきたら。貴方の奥深い場所で目覚めるかもしれないわね。」

大蛇丸は嗤った。さも滑稽だと言うように。俺は奴の言う"時がきたら"の意味をまるで理解しておらず。日向家でなにが行われたのかすら分かっていなかった。

「貴方は耐えられるかしら。日向の業に」


俺が眼を授かった日の話。




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