119.取り越し苦労の愛情

「楽しいものか。」
「じゃあ!」
「でも、俺とナルト君とじゃ決定的な違いがある。俺は大人。そして君は子どもだ」

簡単に、そんなこと口に出来るような。そんな立場でも歳でもない。俺は大人だから。子どものように、思った事や感じたことを何も考えずに素直に言えることは無い。ナルトはふっと顔を上げた。

「そんなものの前に、俺はあんたと同じ忍だ」

ふと……遠い昔に。俺は誰かにその言葉をぶつけたことを思い出した。誰にだったか、忘れてしまったけれど。間違いなく自分が吐いた台詞とナルトの吐いた台詞は、俺と誰かが言った言葉だ。

「いいんだってばよ。友達の前に大人も子どもも関係ねーって!なっ!」
「…さすが、カカシ先輩の教え子なだけはある…」

この強引さ。俺の事を全然知らないっていうのに。なんでこんなに喜々としていられるんだろう。額から手を離して、こちらをじっと見詰めるナルトに口を開く。

「…自己紹介が遅れたね。俺は奈良シモク。シカマルの兄だ。宜しく」
「へへっ!俺ってばうずまきナルト。夢は火影になる事だ!」
「火影に。なるほど。では火影になったらでいい。俺の頼みを……聞いてくれないか」
「頼み?いいぜ!なんだってばよ」

「二度と、里の業を一人ぼっちで背負う忍を出さないでほしい」


…シカマルの兄ちゃんだというこの人は確かにシカマルにちょっと似てた。あいつ兄弟がいるなんて一言も言ったことなかったから吃驚したんだってばよ。新の兄ちゃんに託された約束を果たそうとしただけだけど、その為だけに「友達」なんて言葉を使ったんじゃねぇ。この人の目が。昔の俺と同じだったから。一人でアカデミーの前のブランコに揺られた時と。

「俺には里の全部を背負わされていなくなってしまった親友がいてね。今でも探してる。木の葉に連れ戻せたら…なんて。」

サスケと俺みてーに。この人も誰かの背中を追ってる。

「無理だとわかっていても…手を伸ばさずにはいられない」
「……いいんじゃねーのかな。俺も、周りから何言われたって、諦めようなんざ思ってねーからよ」

なんでかな。この人。

「…そうだね」

苦しいくらい、俺と一緒なんだってばよ。



「白眼の過度な使用による眼精疲労といったところか……」
「眼精疲労…?白眼にそんなことが?」
「新は白眼を弄っていると聞いたぞ。それも医療知識も素人のやつがな。成功したのは奇跡中の奇跡だ。」

新はぽりぽりと頬をかいた。じとりとネジの視線を感じたからだ。木の葉病院に担ぎ込まれ、綱手直々の診断結果に文句のつけようがない。確かに今より昔、基本的医療知識を持たぬままありとあらゆる手段で己の目を改良した事に弁解はできない。

「いやぁ、あはは…とんでもなく面目ない」
「カカシと同じく一週間休めば視力は回復するだろう。」

溜息をついた綱手に再度頭を下げた。任務ご苦労と言って退出した彼女の気配が消えたところで隣に立っているであろうネジを見上げた。

「済まなかったな。ネジ。」
「……本当に視力は戻るんだろうな」
「五代目がああ言ったんだ。きっと大丈夫さ。むしろその通りになって貰わないと困る」
「昔弄ったと聞いたが、どうやったんだ?」
「言ったろ。ありとあらゆる手段を使ったと」
「詳しく聞いているんだ。」

はぐらかして欲しくない。ネジの言葉の気配がそう言っている。すべてを話してほしいと。だけど、これを言ったら軽蔑されそうで。なんだか少しだけ怖い。

「……誰にも喋ったことないし、墓まで持ってく気だった。俺は未熟児で、白眼が完成する前にこの世に生まれた。日向の癖に白眼を持たないなんて…俺には耐えられなかったんだ。」

今になって思えば、知らなかったんだ。俺は若かった。

「医療知識を持つと言ったある人物に、目の改良を提案された。騙されたよ。すっかり木の葉の人間だと思ってたんだ」
「ある人物とは…誰なんだ」
「お前も見たことがある筈。中忍試験で。……薬師カブト。あの道化師に唆されたのさ」

まさか、里を転々とするスパイであると同時に大蛇丸の部下とは思わなかった本気で。それ程偽ることに関してはプロだと言ってもいい。

「ネジ。俺はサソリが言った天地橋の任務に同伴するつもりでいる。」
「できるはずがない。お前の眼は使い物にならない」
「サスケがいれば大蛇丸、そして必ず薬師カブトがいる。そもそも野郎の言う事を聞いた俺が悪いんだけど、あの時の俺はそんな事も言ってられないくらい切羽詰まってたんだ」
「だからと言って、許可できん」
「ください!」
「断る!」

…断固拒否するネジに打ち明けたが、ネジはかなり普通だった。俺のカミングアウト。

「薬師カブトをぶん殴りたいんだ。欠陥品作りやがったこのツケ払わせねーと、気が済まない」
「今度という今度は俺の言う事を聞いてもらう。その体では足で纏だ。」

どうやっても、今回の件。ネジは断固許可をくれやしないと悟った。



「やはり、写輪眼がなければ解読は不可能か」

うちはの石碑の話は少しだけイタチから聞いていた。今にして思えば、イタチはこれの事を話す程に……俺のことを信用してくれていたんだと。今になって知るんだ。お互い決別した後、滑稽なことに。

「……写輪眼の開眼は確か3パターン」

写輪眼、万華鏡写輪眼、そして輪廻眼。なぜこの順番なのか、そしてそれ以上に写輪眼の開眼には進化があるということ。うちは一族でも、写輪眼を持つわけでもない俺にとっては石碑の謎は見ただけでは解けそうになかった。写輪眼の保存は行われていない……ただ一つの可能性を除いて。…ダンゾウだ。カリキュラムを受けることになったあの日。俺は確かに奴の腕に埋め込まれた眼を見た。そもそもあれほどのレベルの幻術を使えるのは写輪眼以外有り得ない。ダンゾウは秘密裏に写輪眼の回収と保存に奔走していたと見て間違いない。

「ダンゾウとの繋がりがあったのはイタチと、瞬身のうちはシスイ。」

幻術・別天神と呼ばれる万華鏡写輪眼の眼術を持つ最強の忍だった。会ったことはなかったが、その働きと噂はかねがね聞いていた。確か、シスイの遺体は見つからなかったと聞いている。万華鏡写輪眼の幻術レベルがどれ程なのか分からないが、ダンゾウとの繋がりを持っていたシスイなら、その眼はもしかしたらダンゾウに奪われているのかもしれない。当時、万華鏡写輪眼を有していたのはうちはシスイただ1人。…その眼の価値は高くつく。

「他に……写輪眼を手に入れる方法は。」

俺はうちはではないがカカシ先輩のように移植出来れば、石碑の謎を解けるかもしれない。カカシさんを連れてきたとしても片目の写輪眼での解読は不可能。つまり両眼の写輪眼が必要だ。火影が写輪眼の回収をしているとは思えない。クーデター事件後、うちは一族の亡骸は丁重に埋葬したのだ。誰もその目を奪わぬように。

「……はぁ……」

今現在写輪眼を所有する者は、うちはイタチ。うちはサスケ。はたけカカシ。志村ダンゾウ。この4人だ。カカシさんからは奪えない。あの眼は親友の形見であるし、カカシさんが持つからこそ威力があるのだから。イタチとサスケは既に抜け忍。…………残るは。

「……二つくらい寄越して下さいね。ダンゾウ様」

片腕に無数の写輪眼を宿す、ダンゾウしかいない。




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