117.最後は不安の海に投げ出されるのさ
「生き返……らせる!?そんなこと…本当にできんのか…?」
「この術はチヨバア様だけの術…」
そんな都合のいいものはない。俺はあの時気を失っていたから一部始終は見れてないが、あのサクラの顔……それなりのリスクを覚悟した術であることは明白。
「くそ…!チャクラが足らぬ…!」
「俺のチャクラ使ってくれってばよ…!それってできるか…?バアちゃん…」
「……ワシの手の上にお前の手を重ねろ」
我愛羅の中にチャクラを入れているのか……そんな事が……。
「くだらぬ年寄りどもが作ったこの忍世界に、お前のような奴が現れてくれて嬉しい…かつてワシのしてきたことは間違いばかりじゃった…しかし最後になって正しい事がやっと出来そうじゃ。…砂と、木の葉…これからの未来は、ワシらの時とは違ったものになろう……」
ふと、ネジの目がこちらを向いた。怪訝な顔をしているのは見えなくてもわかる。視力が落ちていた。何故だかわからない。でも確実に、俺の目は異常をきたしていた。
「カカシの言っていた通り…お前の不思議な力…その力が未来を大きく変えるじゃろう…今までにない火影になってな…」
視界が……閉じていく。
「ナルトよ…ババアからのお願いじゃ…我愛羅を助けてやってくれ」
「……新?どうした」
我愛羅が息を吹き返し、チヨバアに敬意を表して祈りを捧げた後。ネジは瞼を徐々に落とす新に気が付いた。砂の忍達が我愛羅の周りを取り囲み、歓喜の声をあげる中で。一人、目に片手を当てて沈黙している。最初は歓喜あまって涙でも流しているのかと思ったが違う。
「新……!?」
「どうしたネジ!」
ネジの呼びかけにも応じる事がない。前のめりに地面に倒れ込んだ体はスローモーションに見えた。ガイが駆けつけ、サクラも駆けつけた。硬直が溶けきっていない我愛羅も歩み寄る。
「ネジ、ネジのお兄さんはどうしたんですか!?」
「わからん、……戦闘で深手を負ったのか」
「もしかしてサソリの奴……!!!」
サクラはあの時のサソリの行動を疑った。それしか考えられない。あれは解毒薬じゃない、違う薬だったんじゃ……!!!
「私の知識じゃ限界です!木の葉に戻りましょう!綱手様なら…!!」
うちは地区を訪れて数日。イタチの事を思い出せて良かった。忘れられる訳がないんだ。どんなことがあっても、三代目がいなくなった今。俺だけは忘れちゃいけない。
「五代目様。」
「体調はどうだ」
「お陰様で。鈍るくらいです」
ふん、と笑った五代目は両肘を机につけた。
「ありがとうございます。色々。」
「お前の我が儘も板についてきたからな」
「はは…面目ないです」
「今度はなんの我が儘だ?」
「いえ、なにも。ただうちはの歴史について学ぼうかと思っていて」
「うちはの…?」
「はい。」
「また、どういう風の吹き回しだ?」
「うちはの地下には石碑があるそうですね。あれ、気になるんです。」
うちはの石碑。イタチからうちはのことを聞いた時、その話もしていた。地下にあるうちはの全てが綴られたもの。
「イタチの話と石碑が……」
「綱手様!!!!!」
「シズネ!なんだ騒々しい!」
どたん!大きな音が背後からした。息を切らしたシズネさんが顔を強ばらせて入室した。その腕にいつもの豚はいない。
「風影奪還は成功です!カカシ班並びにガイ班が帰還します!っですが、日向新の容態が……!」
「新……?新がどうしたんです!?」
「白眼の状態が悪いらしく、一時昏睡状態に……」
「な……っ!新の目は日向家の白眼だ!白眼の状態が悪いなんてそんなこと……!」
「確か…日向新は白眼を自分で弄っていたな」
「それは……」
「それも医療知識もないガキの頃にやったと」
そうだ。未熟児の新は白眼が完成する前に生まれた。だからこそ日向の白眼をうまく受け継げなかったのだ。だからこそあいつは自分で……
「サクラもついている。道中、多少なにが起こっても対処はできる!」
「五代目の弟子なのは知ってます。でもサクラでも新の白眼は診れない」
あれは、新が自分で高めたものだ。
「他人にわかるはずがない」
理解できるのはただ一人。同じ環境で育ち、同じ目を持つ……
「わかるのは、ネジだけです。」