116.それは救済という名の、

「…日向の童よ」
「なんですか?」
「お前がもっと早く生まれ…サソリに出会っていたら……変わったかのう」
「……いいや、変わらなかったですよ。きっと。」

カカシさんとナルトを追い掛けて暫くしてババアが小さく呟いた。サソリとの戦闘で気力を費やしたのか自力で走ることもままならない。サクラに支えられてやっとという感じだ。

「俺は芸術に明るくないっすから」

俺がサソリの傍にいたとしても。俺は結局何も出来なかっただろう。今だってそう。シモクを助けられないまま。本当に困った時さえも手を差し伸べてやれない。そんな奴が火影を三度も手にかけ、犯罪組織に加担したサソリを変えることなどできるはずがない。そもそもサソリはそういう事を言ったわけではないんだろう。サソリが俺に感じたのは親近感だ。他人としてではなく己の一部を見ているような。そんなもの。

「あんたの孫には少し感謝してるよ。」
「ギャハギャハギャハ」
「へっ、やっぱ似てるよ、あんたとサソリ」

サクラ達を先導して走った。白眼の範囲を広げてカカシさんとナルトのチャクラを探す。1キロ……2キロ。そこまで広げて見知ったチャクラに広角が上がった。見つけた!

「このまま真っ直ぐ2キロ地点!カカシさんとナルト発見」
「あれって!我愛羅君を連れ去った敵の鳥!」

…サソリと共にいた、あの髷のガキか。あれの中にも我愛羅のチャクラは感じない。……つまりは…………。

「!ナルト!カカシ先生!ようやく会えた……」
「よくここが分かったな…」
「俺の目に、見えないチャクラなんてありませんよ…カカシさん」
「随分やられたな」
「はは…情けない限りです」
「サクラちゃん達…やったんだな…」
「ああ…それより我愛羅はどうした?」

体は取り戻したか。それにしてもナルトの疲弊具合が少々可笑しいことになっている。カカシさんにコンタクトをとると、こくりと頷いた。九尾をコントロール出来ずにまた暴走寸前だったんだろう。こんな時までも、忌々しい奴だ。九尾。

「ご苦労だった。ネジ」
「!!」
「ガイ班か!」

……俺が、ネジの気配を見逃した?馬鹿な。そんな筈。思わず片膝をついた。白眼は常に開けていた。ガイ班が対峙しているのは髷のガキだ。岩隠れのデイダラ。…そいつの気配も見抜けなかっただと…?

「皆気をつけろ!そいつは爆弾で攻撃する遠距離タイプだ!!」

どうした……俺の白眼。俺の目は長距離感知が取り柄なんだぞ。それさえなくなったら……俺は…!

「俺の究極芸術を見せてやろう…芸術は爆発だ」
「みんな急いでここから離れろ!!」

爆発……!!何故……デイダラの中のチャクラが見えなかった……!!!

「なぜ……」

爆発はまるで時空に吸い込まれるように、しゅるしゅると音を立てて消え去った。皆の動きが驚きで止まる。何が起きた……?爆発がまるで消えた。

「カカシさんか!あんた……!」
「大丈夫か!カカシ先生!」
「一体…なにをしたの…?」
「爆発ごと…時空間へ飛ばした…それより、皆無事か…?」

ナルトの分身が我愛羅を連れて降りてきた。……今の俺の目には見えないが、あの時見た我愛羅のチャクラは。



「…サクラちゃん」

やはり。我愛羅は……。サクラが手を止めたのはつまりそういうことで。

「…何で…我愛羅が、我愛羅ばっかりが…こんなんで死んだんじゃ…!風影だぞ…風影になったばっかじゃねーか…」
「少し落ち着け…うずまきナルト」

「うるせェーー!!!お前ら砂の忍が!我愛羅の中にバケモンなんか入れなきゃ、こんな事にはならなかったんだ!!お前ら我愛羅がなにを思ってたか、少しは聞いたことあんのか!…何が人柱力だ!偉そーにそんな言葉作って呼んでんじゃねェ!!」

……人柱力にしか分からない。その共感。俺には分からないさ。俺は人柱力じゃない。だがナルトや我愛羅の中に入れたのは里の合意。つまりは里の皆の合意だ。俺達にも、人柱力が生まれた片棒を背負う義務がある。だからこそ、ナルトの言葉は重いんだ。ナルトが生まれたあの日。九尾を封印してくれたからこそ…今の木の葉がある。それは何者にも覆されない、事実だ。

「…サスケも助けらんねぇ、我愛羅も助けらんねぇ……三年も…必死に修業して、三年前と何も変わっちゃいねーじゃねーか…」

誰も……助けられない……。俺も、似たようなもの。シモクをいつも助けられない。どうすれば良かったのかすら分からない。分からないから、仕方がなかったのだと見過ごして。俺は……どうすりゃ良かったんだ?

「チヨバア様……その術は!!」
「…なにを、しようってんだ?……なにしてんだってばよ!」

「我愛羅君を……生き返らせる!!」




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