愛すべき異端者

「待ってください!!!」

なんだってよかった。彼等大人達が考え直してくださるのならば、俺はなんだってできた。分家からも、末弟であるネジのアカデミー入学が正式に決まったのだ。チャクラを有する忍の子ども達は忍者学校であるアカデミーに通うのは当然の習わし。だけど、俺はどうにかネジが忍の道を歩まない道を模索していたのである。

「ネジはアカデミーはまだっ……!」
「むしろ遅いくらいだ。日向家の天才、ネジならばすぐに生え抜きの忍になろう。」
「っ、ですが!」

「アカデミー入る前のネジに負けた、新。お前が意見できる立場にないと思え」

……日向の天才であるネジは、幼いながら俺を負かした。俺が落ちこぼれであることを差し引いても、やはりネジはひと味違う。無理だったんだ、それを覆して忍にならないなんて道、はなっから用意されていない。なんたって、日向家だ。宗家であるヒナタ様やハナビ様とてあの歳で柔拳を扱う。……大事な大事な弟分。大事な俺の従兄弟。両親を亡くした俺の、たったひとつの。

「……はい」

自分の無力さと、諦めが惨めだった。ネジは忍になる。里を守る忍となって、いつか両親のように……そんなの、そんなの、そんなの。

「俺は早くアカデミーに入りたい」
「……なんで。なんでお前そんな事言うの」

忍者になったって、良いことねーぞ。毎日体が悲鳴を上げる任務ばかり。……俺にとっての最大のメリットは、有事の際に戦えるという事だけだった。俺が戦えれば、もうあの時みたいに逃げるしかない状況になんてならない。なってたまるか。

「俺は反対する。」
「なぜ認めてくれないんだ」
「…なんでもだ。お前に忍なんてもんになって欲しくない」

忍を否定する言い方だが、これが本心だ。忍になるな。

「……俺は新を超えて日向家の立派な忍になりたい。」
「俺を超える……?俺はお前に敗北している。お前の柔拳は誰にも追随を許さないよ。」
「俺は死なない。お前以上の忍になってみせる」

頑なな瞳には迷いなど微塵としてなくて、俺の言葉を跳ね返せる自信だけが煌々と灯っていた。ネジの頑固なところは、ヒザシ様に似たのだと思う。俺の願いはいつだって叶わない。そんなの知ってるし慣れている。大切な人一人守ることもできないのだから。

「俺は……お前に、死んで欲しくない……絶対…忍になることを許した俺自身許せない」

ネジがいなくなる。それはどれ程の衝撃?もう両親の比じゃない事は自覚していた。俺はネジを家族同然に愛しているし、ネジの為なら冗談抜きで己の命すら差し出せる。本当の意味で、ネジ以外失うものがないのだ。

「お願いします。アカデミーの件……考え直して頂けませんか」
「新、決定事項は変えられん。ヒザシもきっとネジを期待して立派な忍になる事を望むはずだ」

呆れた白眼が見下ろした。なんてかったるいのだろう。なんてお堅いのだろう。忍なんてそんなものの為に、大事な従兄弟を差し出せってのか。下げた頭を上げて、庭に園芸で置いてある石を叩き割った。憎らしい。日向家のここが嫌いだ。宗家だの分家だの序列だの。俺は日向家で異端過ぎた。生まれた時からこの世界で生きている癖に、順応するどころか異議を見出すのだから。赤く腫れる手からは痛みなど毛ほども感じられなかった。忍の世界は何故始まってしまったのだろう。もしその頃に戻れるのなら根源から絶ってやるのに。池の鯉がばしゃりと尾で水面を蹴った。



ネジは順調に忍の道を歩いた。ネジの意思は変わらなかったし、宗家と分家の和解……様々重なった所で俺もとうとうネジを認めた。

そんな折、自分の変なところを多々発見した。朝起きると別の場所で寝ている時がある。この間はネジの部屋にいた。その前は足の裏が土だらけだった事がある。ネジは酔っ払って庭に出ていたと言ったが、そうでないことは自分でもわかってた。だって俺、酔ってなかったのだから。その現象ははっきりしているわけでもなくランダム的で益々気味が悪かったが、

「大丈夫だ。酔っていただけだ」
「そっか、ネジが言うなら大丈夫だな」

ネジが大丈夫と言うんだ。ならいい。ネジの肯定は俺の肯定だ。自分でもかなり世界の焦点はネジになってきたなと思うけど、ネジに縋らなけば俺は参る。

「俺の心臓はネジのもの。」
「いらん。」
「ははっ!言うと思った!」

でも、その言葉割と本気。俺のすべてはネジが握る。

「少しは自分の為に生きてみろ」
「自分の事、好きと思った事があまりないからね。お断りだ」

だから、頼むよ、ネジ。

「お前は、死なせない。」

いつかその日が来ようものなら、俺が運命を曲げてやる。歪んでる?依存してる?違うな、これは俺の使命にして運命なんだ。俺の全部はネジの為にあるのだ。




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