記憶は消えない、思いだせないだけ

「ハゴラ先生に会いにいかないか?」
「アカデミーの時の?」
「世話になったろ俺ら」

アカデミーを卒業して少し経った頃か。オクラがそんな話を持ちかけてきた。確かにアカデミーでハゴラ先生には世話になった身である。三人揃って。中年太りが改善に向かっているかオクラはそれが見たいだけのようにも見えた。

「じゃあ今日!これから!任務もないし!」
「猫の捜索とかな」
「そろそろランク上げて欲しいよな」

男三人、この班にくの一は唯一いなくて血気盛んなオクラ、新、シモクの編成で構造されていた。アカデミーの建物が見えてくると正面から堂々と突破しようとしてやめた。もはや自分達はここを卒業した身。忍であればそれこそ忍べ。塀の上をひょいと越えて生徒達に見つからないように進む。「懐かしいなぁ」新が呟いた。

「今年の一年は……生意気なんだよ!」

喧嘩?シモクの足が止まった。既に通り過ぎた廊下からだった。なんとなく気になって足が逆再生のように戻っていく。新とオクラは先に行ったみたいだ。

「うおおおっ!?」

どしーん。一人の少年が、明らかに大きいなん学年か上の生徒を背負い投げしていた。あの体の体格差で。すごい。こんなやつもアカデミーにいるんだ。

「す…すごいね!イタチくん!」
「上級生を倒しちゃうなんて!」
「どけどけえ!イタチ様のお通りだあ!」

周りに賛美されながら、というか先をドスドス歩いてはその少年を祭り上げるように三人の少年が大声で。まるでガキ大将だ。

「どけってば!イタチ様が通るんだから!」
「え?あぁ、ごめんね」

通行の邪魔になったらしい。シモクも思わず端にずれた。少しして顔を俯かせた少年が過ぎ去る。

「……すいません」

ぺこりと頭を下げて。真っ黒な髪と揃いの黒曜石のような瞳とかち合う。至極申し訳なさそうにする少年に自然と言葉が出てきた。

「ううん。気にしない。じゃあね!」

ひらりと手を振って、彼らと反対の道を走った。一件落着、良かった良かった。そんなシモクの背中を一瞥しながら…うちはイタチもまた背を向けた。



「ハゴラ先生、痩せたどころか三重アゴになってなかったか?」
「幸せ太りだよ、娘さんできたらしいから」

アカデミーを後にした三人は久々の校舎に思いを馳せつつ、世話になった元担任と思い出話に話を咲かせた。お前らは手のかからないようでかかるタチの悪い生徒だったとか。シナガ先生と上手くやれてるかとか。あの頃よりさらに激太りしていたが、中身は何も変わらない。おおらかな中年であった。

「あ」
「?なんだよシモク」
「ちょっと用事できた。」
「そっか、じゃあまた明日な!」
「寝坊すんなよ!明日は天地橋の視察任務なんだからな」
「わかってるよ」

二人に手を振ると、シモクは踵を返して歩き始めた。今しがたさっきの影がここを通ったのだ。ここから先は確か忍の碑があった。

「さっき会ったよね。」
「…あの、あれは…」
「言ったろ。気にしないって。すごいなお前。俺アカデミー通ってた時、上級生が怖くてたまらなかったのに」

やっぱり、あの時の少年だ。大きく聳え立つ忍碑は首が痛くなるほど見上げなければその頂きは見えない。

「忍ってなんだと思う」
「え?」
「俺の班の奴がね、いつも言うんだ。忍なんてなくなっちゃえって。そうすれば誰も傷つかないって」
「……誰も、傷つかない…」
「忍が悪いって言ってるわけじゃないと思うけど、あいつは臆病だから」

この目の前の少年は、その答えを探しているような気がした。俺なんかよりももっともっと深く考えている。

「でも俺達は忍だ」

少年はこちらを見上げた。真っ黒な目。

「……あなたが思う忍って?」
「それを探してるんだ。」

俺はまだ忍の端くれだから。

「いつか本当に自分の忍道を探し当てた時、俺達が互いに確固たる忍を心に持ってたら、」

また会えたらそのときは、

「教えてくれ、お前の思う忍を。俺も教える」
「…うん」

俺達は同じ疑問を抱いてここにいる。忍ってなんだと。それはきっと、いつか。いつの日か。俺達がお互いに、




「初めまして。火影直轄暗部の奈良シモクだ。どうぞよろしく」
「同じく火影直轄暗部、うちはイタチだ」

お互いに、忘れていなければ。




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