111.神成りの子

どこまで落ちぶれたものだと思った。ヒルゼンが新しく連れてきた暗部は若く、中忍試験すら受けていない子供。飛級の忍かと思いきやそうでもない。奈良家の長子のくせに隠遁も劣る。忍としての才能はないと評価は最悪だった。だがヒルゼンが死に、奴の上司も死んだ辺りからこんな噂を持ち帰る部下が増えた。"帰還率が他を上回る忍がいる"。それがあの時の落ちこぼれ、奈良シモクという男だった。他を寄せ付けぬ速さ。鬼神の如き殺傷能力。不動の帰還。この男を手懐ける事ができれば。奈良シモクの活用法は無限大だった。だが、欠点が存在した。それは忍として致命的な情。暗部の癖に心があり過ぎること。それをそぎ落とさない限り、里の為にならない。里を護る柱にならない。

「…貴様、やはり忍にはなれんな。」
「…なにが悪いというんです。全部思い出せました。だから貴方に面と向かって言えます。イタチは貴方よりずっとずっと里の為を思っている」

ダンゾウに背を向けたシモクはあのうちはイタチに酷似していて、写輪眼を埋め込んだ腕がずくりと疼いた。忌々しいその背中。…まるでうちはイタチの魂こそ身に宿しているみたいじゃないか。

「イタチに会わなきゃ。会って、謝らなきゃ…」



「どういうことだってばよ……!?」

イタチだと思っていたそれは分身でもなければ本人でもない。砂の上役、由良と呼ばれる男だった。なんらかの術でイタチに扮していたというわけか……砂の裏切り者が……!

「まさか…4年も上役を勤めたこやつがな…」
「変化の術でイタチに化けてたのか?」
「いや…そんなレベルじゃないよ。豪火球の術はうちは一族が編み出した術で好んでよく使う、そしてあの術は本物だった…」

チヨバアの読み通りだ。これらの歓迎は明らかに時間稼ぎ。

「恐らく奴ら、一尾の守鶴で新たな"人柱力"を作るつもりじゃ」
「時間がないですね…早く我愛羅くんを助けなければ…」
「ジンチュウリキ…?」

人知を超えた力を持つ尾獣を各国がこぞって軍事利用しようと考えた。人に封印することで。

「…そうすることで尾獣の強すぎる力を押さえ込み、その力を支配しようとした。」

そして尾獣を封印された者。つまり我愛羅のような者を、

「人柱力と呼んだのじゃ」

人柱力の末路は幸せなもんじゃない。その尾獣を使い何度も何度も忍達は戦争をしてきた。忍の歴史は戦いの歴史だ。

「……どうやったらその尾獣を取り出せるんですか……?」
「瞬間的にでも尾獣の力と釣り合うだけの効力を発揮する封印術と…かなりの時間を要する。だがそれをしてしまえば人柱力は…」

尾獣を抜かれた人柱力は死ぬ。

「……だから思うんですよ。忍なんてなくなっちまえって」

先を歩き出すナルトの背中から目を背けたカカシさんにそう言っても、なにも変わりはしないけれど。間違っていたなんて言うつもりもない。それこそが積み上げられた歴史の一つでもあるからだ。そして自分達は今も人柱力の恩恵にあやかり、ここに居るのだから。九尾を腹に封印する木の葉のうずまきナルトのおかげで。

「ナルト!待って!」
「おい!俺より前に出るな!先陣の意味がなくなる!」

ナルトめ、本当にわからず屋だ。カカシさんの言う通り、頑固一徹。あのスピードでナルトを止めるのは流石に疲れる。諦めてサクラの後ろまで速度を緩めた。

「…何故あの、ガキは他里の我愛羅をあそこまで助けようとする?」
「……あいつも人柱力です。それも九尾を封印された。確かにナルトにとって砂隠れ自体に大した思い入れはないでしょう。…しかし我愛羅くんはあいつと同じ人柱力です」

砂隠れにいるどんな者より、ナルトは彼の気持ちが分かってしまう。

「人柱力がどんな扱いを受けてきたか…それはどの里においても大差ありませんからね。だからこそ助けずにはいられないんですよ…木の葉だとか砂だとか。あいつにとってはそんなことはどうでもいいことなんでしょう」

カカシさんとチヨバアの会話が聞こえては、我愛羅に言われた言葉を思い出す。木の葉崩しが起こった中忍試験で、ナルトと我愛羅を保護した時。俺は普通の事をした。当然の事をしただけなんだ。なのに我愛羅はそれをずっと覚えていて、風影になった今でも俺に感謝の意を示してきた。

「ナルトにとって我愛羅くんは同じ痛みを知る仲間なんです……」

砂隠れの長が、ただの木の葉の忍の一人に。俺なんかに。

「ナルトの夢は火影になることなんですが…彼が風影になったと聞いて悔しがってました。」

ナルトと我愛羅。腹に尾獣を封印した人柱力。ナルトは俺の両親を殺した九尾を持つ。

「我愛羅に術を使って守鶴を憑依させたのはこのワシじゃ。里を守るためにしてきたことが、結果里を苦しめることになり…そして同盟を信じず避けてきた他里によって今助けられようとしておる…」

そこまできて俺は白眼で、あるチャクラを捉えた。迫り上がる歓喜に自然と足が動き、いつの間にかナルトに並んでいた。「うおっ!?」なんて声も聞こえたが無視だ無視。

「あっ、ちょっと新さん?!」
「待つってばよ!急にどうしたんだよ!」

「…カカシよ、若いとは…なんという可能性を秘めているものか…羨ましいのぉ」
「いえいえまだこれからですよ。十分お若いですしね」
「ギャハギャハギャハ」

この先、もっと先。会いたいと何度も思った。愛しい愛しい同じ系列のチャクラ。

「そうじゃな…老いぼれのワシにもまだ出来ることがあるかもしれんのぉ…」

ナルトを抜き去った新は驚異的な速さで森を爆走していた。ある地点に降りた時、地面にクレーターが出来るほど地面を踏み締めて跳躍したまま森を抜けて透明な水面に突っ込んだ。

「ネェーーーージィイイイイイ」
「うわ」
「うわ、ってなにそれネジいつもながらハイパーキューティーマイエンジェル」
「新さんって時々よく分からないこと言うわよねー」

ネジのチャクラを感知した途端これだ。前衛の役目を忘れたかの如く猛スピードで駆け抜け、木々を抜けた瞬間ネジにダイブもどきのタックル…いや、本人は至極真面目に走ってきただけなのだが、顔の絵面が酷い。怖い。

「やっぱり俺たち運命だわ」
「気色の悪いこと言うな」
「久々に会えたのに」
「たった3日だろうが」
「万年反抗期なんだから!でも可愛いから許す!」

ネジのキューティクルを散々撫で回した後、新とガイは到着したカカシ達を迎えた。火影にカカシ班の補助要員として送り込まれたガイ班と目的地間近で合流できたのだ。

「遅かったな。カカシ」
「ちょっとめんどくさいのに捕まっちゃってね」
「オッス!!」
「それはワシの事ではあるまいな?」
「皆さん一足早かったんですね!」
「そっちのおバアさんは?」
「砂の相談役の方です!」

「さて!やるかカカシ!」
「ああ!」

まずは…この岩の結界を解く方法だ。この先に暁と我愛羅がいる。結界があっては白眼で先を見ることはできない。五封結界と言い"禁"の書かれた札を五ヶ所に貼り付けて作る。その全てを外さなければ結界は外れない。面倒くさい方法を取りやがるが、俺とネジなら余裕だ。

「ネジ君」
「分かってますよ」
「新は白眼を使い過ぎてる。少し休め」
「余裕ですよ。ネジ。感知範囲を広げる時は言え」
「ふん…無用だな。見付けた」
「っああ!ネジさすがネジ!俺のネジ!」

北東の方角約500メートル岩の上。南南東350メートル川岸に生えている木の幹。北西約650メートルの岩壁。南西約800メートル弱の林の中。

「よし!その距離なら無線が使えるな。ネジの指示を受けながら相互連絡を取って、札の場所を見つけるぞ」
「無線セッティングOK!」
「スピードならオレの隊の方が早い。周波数は174だ。連絡を待て!」
「ガイさん。よろしく頼みますよ」
「ガイ班!青春フルパワーでいくぞ!散!」

…遅かった。封印札を剥がし、サクラの怪力パンチによって突入したそのアジトの中で。ふいに感知してしまう、死の気配。

「さて…どいつが人柱力かな…?うん」
「てめーら!ぶっ潰す!!」
「…あいつか」
「どうやらそうみたいだな…うん」
「…我愛羅…そんなところで何呑気に寝てんだってばよ!立てよ!!」

カカシさんの目が向く。白眼で見ても…完全に止まっているチャクラの流れ…そして、鼓動。確認したくないものを確認し、首を横に振った。形の良い髪と揃いの銀色の眉がくっ、と寄った。

「分かってんだろ。とっくに死んでるってな。うん?」

我愛羅の上に、それこそ愚弄するかのように腰掛けているのは元岩隠れの抜け忍、デイダラだ。紅い雲の黒い外套が、じわじわと憎悪を増幅させる。ナルトのチャクラが粟立ったのが分かった。走り出し、突っ込んで行こうとする彼を律したのはやはりカカシさんだった。…S級犯罪者が2人だ。考え無しでの戦闘は死のリスクを上げるだけ。分かってる、お前の気持ちは俺もカカシさんも分かってるんだナルト…!

「あの人柱力はオイラがやる、うん」
「ノルマは1人一匹だろーが…図に乗るなよデイダラ」

仲間割れ染みた、相違点が芸術に対しての俺にはてんで理解できない内容。サクラも戸惑うように見ている。憤慨したナルトの投げた手裏剣を見もせずに払い落としたのは傀儡の尾だ。…カンクロウ君以上か、傀儡の扱いは。確かこいつが彼をあそこまで追いやった…赤砂のサソリ。デイダラの白い鳥が我愛羅をぱくりと加えて大きな羽をはためかせる。ナルトが釣れると踏んでいたかのような行動。ナルトが釣られればカカシさんが付いていかない訳にもいかず。

「ナルトと俺は外のやつをやる、サクラとチヨバア様は中のこいつを…ただしガイ班が戻ってくるまで、くれぐれも無茶はしないように」
「俺はどうするべきですか」
「新はサクラとチヨバア様とこいつを。自来也様から万が一の為に封印札を持たされているから、任せて」

ナルトのことはカカシさんが見る。ならば俺はこの天才傀儡師、赤砂のサソリが相手って訳だ。俺1人なら無理かもしれないが、女とて忍。

「負ける訳にはいかないな」

特に、くノ一と一緒に戦うんだ。野郎相手に負けたくはない。




×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -