110.僕があなたを守ればよかった
「そろそろ一緒に来てもらう…ナルト君」
「まずは俺だ!!」
イタチの手がナルトを指さした。カカシが駆けだすのと同時に新はその脇を見詰めてナルトの前を走りだす。イタチがカカシの拳を受けた瞬間影分身が駆けた。新の白眼は、イタチのチャクラを感知したのだ。
「っ…!?しまった!」
瞬間…やはりあいつは只者ではないと再度思い知らされる。…幻術に嵌ったか。影分身をやった時かけられたのか。感知しても周りはイタチのチャクラを感じる。つまり術中。
「さすが…S級犯罪者。お前には聞きたいことが沢山あるんだ。幻術に嵌めてもなにもしてこないなら、話を聞け」
…勝手に喋るからな。無視したからには勝手に喋るからな!
「シモクのことだ聞いて欲しい。あいつはお前に拘り、忍としての本質も見ようとしやがらない。なんであいつお前に拘る?」
「拘る?」
カラスが劈くような声を上げて形を成した。イタチの写輪眼が二つ浮かぶ。
「ずっとそうだ。一族壊滅を引き起こした後も、それこそ尾獣を集めてなにか企てようとしているお前をずっと」
シモクはいつもそうだ。見えない背中を追いかける。手が届かないと本心では知りながらも手を伸ばすことをあきらめない。
「ずっと…待ってやがる。今お前が俺を殺そうと、ナルトやカカシさんは生きるぞ。彼らは死ぬ玉じゃないんでね」
「…俺も貴方に問いたい。何故…」
イタチの言いたいことが伝わってきた。言葉にしなくても、俺だってお前の立場なら聞いてみたいさ。でもさ、ちょっと考えればすぐにわかることじゃないか?だってお前ら。
「んなの…友達だからじゃないの?」
「うちはの墓参りとは滑稽な事だ」
「!!…ダン…ゾウ様」
記憶を取り戻す為、療養期間を使い里を歩き回っていたシモクはうちは地区を行き来していた。ここにいればなにか。なにかを思い出せる気がして。
「根には、わしの呪印が施されておる。」
「それは…貴方の体について、ですか。」
ダンゾウの目は…写輪眼だ。その包帯の下だけじゃない。右腕にも複数の写輪眼が埋め込まれているのだ。それを火影に報告したくても出来ない。この舌の呪印のせいだ。
「うちは一族のクーデターについては知っているのか」
「…クーデター…?俺はイタチの一族殺ししか知らない」
「うちはのクーデターは里を揺るがす事態だった。」
初代火影千手柱間とうちはマダラ。互いに手を組み木の葉隠れの里を創設した後、火影という里の主権が千手に渡った頃からうちはと千手の蟠りは再度生まれた。マダラが一族の扱いに不満を抱き始めたのだ。長きに渡る闘いに疲弊した一族の者は平和を望み、マダラに付いてくる者は誰一人いなかった。一人里を抜けたマダラは九尾を連れて帰還し、柱間と激戦を繰り広げた。
「二代目火影はうちは一族の危うさを危惧し、マダラのような思想者を生み出さぬ為に木の葉警務部隊を創立した。木の葉の中枢から追い出す形でな。うちは一族は危険だった。」
以前の九尾襲撃事件は、うちは一族の写輪眼で九尾を操り実行されたものと見られていた。現に里を乗っ取る為にうちは一族はクーデターを企てた。うちはイタチは自らそれを殲滅。
「……うちはイタチは、違う。俺の中で素直に落ちない。自分から一族を殺す?家族を誰よりも一番大事に、大事にしていたイタチは…そんな事しない」
周りから聞く極悪犯罪人なんかじゃない。俺は知っているはずだ。だって、俺は、俺は。
「ダンゾウ様…貴方が…貴方のせいで…うちはイタチは…、いいや、イタチは、」
俺は、イタチの背中を。その傷付いた笑顔を
「イタチは傷付いたんだ!!!」
最後に俺はお前を送り出した。あの雨の日。俺は一族の血を浴びながら里を去るイタチから全てを聞いたじゃないか。
『聞き流してくれて構わない』
選びたくない選択だったが、うちは一族が内戦を引き起こせばどうなる?木の葉隠れだけではなく火の国…第四次忍界大戦の引き金にもなり兼ねない。平和が、一瞬でなくなる。だから…俺は一族を終わらせたんだ。本当は……辛かったんだ。何度も何度も何度も考えた。なにか方法があるんじゃないかって。だが、…この結果しか浮かばなかった。ダンゾウは一族の全滅か弟の命かの選択を迫ったが、既に三代目とも話はつけている。弟の事は、大丈夫だ。
『お前は…それでいいのか。お前一人だけが、…!』
『これは任務だ』
『っ、』
『それに、お前が里にいるなら安心だ。』
『なに…それ。俺は真面目に言ってるんだ!イタチが背負うことないだろ!?なんで?なんでお前なんだ…!』
『…俺にしか出来ない、任務なんだ。』
『………本気…か…』
『覚悟は変わらんな。』
『っ…、俺は、うちはイタチを誇りに思う』
『ありがとう』
「イタチは沢山考えて…迷って、怖くて…助けてやれなかった。俺の言葉はイタチを責めただけだ!!俺は俺を許さないし貴方を許さない。イタチに苦しい選択をさせた、貴方だけは…!」
「記憶喪失と聞いたが、よく喋る」
「…え。貴方が封じたんじゃ…」
…ダンゾウ様じゃ…ない?
「お前は本当に扱い辛い。故に愛おしいがな。その才能、里の為になるものを。こうも無粋に踏み躙るなど」
「イタチを思い出した俺にとっては、貴方の言う"忍"なんて糞食らえだ」
なんの意味もない。貴方の言う忍の世界は、虚しいだけだ。