09.どうにもならない想いなら
「ブハーッ!!!!!!」
「きったねぇなオイ」
ある日のことだった。それはそいつの話題は突然俺を襲ってきた。そんなこと言いながらも手拭きで拭いてくれるアスマさんイケメン。
「って、なんて!?いまなんて!?」
「あ?中忍試験だよ中忍試験。もうそんな時期なんだよなぁー」
「時期なんてどーでもいいんだよ!!ネジは?ガイさんは推薦したのか!?」
「んー…ああ、今回はしてたぜ。俺も十班のシカマル達を推薦したし、紅も同じだ」
今年は激戦区になりそうだな。なんてアスマは笑ってあはは、なんて言っていたが。笑っている場合ではない。俺は片手に持っていた湯飲みをテーブルに叩きつける勢いで置いた。
「ネジぃぃぃいいいいいい何故俺に一言の相談もないんだあぁぁあああ」
「お前結構前から里の開拓任務だったろ。」
「うっせー!!!中忍試験だぞ?生温いもんじゃねーんだぞおおおお」
「信じてやれよ、ネジならきっとやってみせるって」
「し、……信じないとかじゃなくて…俺は、ただ…」
ただ…中忍になってしまえば、任務の危険範囲はグンと高まり、里外での任務も増えてくる。その中でも優秀な忍は隊長を任されることだってあるのだ。
「……忍なんてもの、なくなれば…皆平和に生きれるんじゃないかって…」
小さいときから思っていることだ。慰霊碑の前に毎日立つ人影を見かける。あの人影はきっと大切な仲間を亡くして、生き残った忍だ。仲間の死を背負い生きていく事が悪いことだとは言わない。だけどそれが果てしなく重く辛いものだったとしたら。いつかその重みに潰されてしまう。
「いつか、忍というものがなくなって、それがいらないくらい平和な世界になったとき」
たとえ俺自身がその場に立っていなくても。暗部も、上忍も中忍も下忍も関係なくなって自由に生きれる世がきたら。
「両の手を叩いて喜んでやる」
「………」
アスマさんはなにも言わずに、だけど穏やかな顔で灰色の煙を吹きだしながら空を仰いだ。
「?あれ」
アスマさんと別れて里を散歩がてらぶらぶらしていると第十班の面々を発見した。いやぁ今日はアスマさんといい、十班との遭遇率が高いなぁ。あの子たちはあのシカクさん、チョウザさん、いのいちさんの子ども達だ。アスマさんも育て甲斐あるだろうなぁ。
「こんちは。なにしてんの?」
「!!新さん」
「シカマル、知りあい?」
「あ、俺ね、日向新。ネジとヒナタの従兄弟に当たるんだ。よろしくな」
「あたし、山中いのです!」
「こっちは秋道チョウジ。…新さんなにやってんすか?」
「いや、暇だから散歩?シカマル達はなにやってんの?」
すっかり落ち着いた少年になったシカマルは俺に対しての礼儀も上々である。兄に似ずに、よくこんなに落ち着いた少年に成長したものだ。チョウザさんやいのいちさんとこの子達はよく見せてもらっていたのでこの子達の成長に素直に感動できる自分がいる、嗚呼、俺も歳とったなぁ。
「あ、あたし達っ中忍試験に推薦してもらったんです!!」
「そうか、それで集まっていたのか」
「それで、新さん、暗部の休みってわかりませんか?」
「いの!!」
余計なことを言うなと言わんばかりのシカマルの牽制だった。
「なによ!あたしだってロクに会えてないのよ!?ずっと帰ってないんでしょ!?」
「シカマル、素直に来て欲しいって言えばいいのに〜」
観にきてほしいじゃない!!!いのちゃんのまだ甲高い声がよく響く。ああ。シモクの話だな。チョウジ君も眉を下げてお菓子の袋に手を突っ込んだ。
「…暗部は、里外の任務が大半だからね。悪くなれば長期滞在はいつものことだし、例え帰還したとしても次の任務が入る」
「…そう、なんですか…」
いのちゃんの顔が一気に憂いを孕んだものになる。シカマルの顔は背を向けられてて分からないが落胆したようにも見える。悲しませたかったわけでもないが、事実である。暗殺を主に動く暗部達。
「でもね、一つだけ。暗部が表に出られる日があるんだよ」
「え?」
3人の顔が一斉に上がる。そうだ。そんな暗い顔ばかりするな。
「中忍試験当日、会場だ。様々な里から受験者が木ノ葉に試験を受けにやってくる。
暗部達はその者達を監視するんだ。中忍試験を妨害しようとする輩も排除する役目がある」
「じゃあその暗部にシモクが選ばれるかもしれないってこと?」
「その通りだチョウジ君。多分、きっとあいつなら直談判してでも観に来るよ」
そう言えば途端に明るくなる純粋無垢な笑顔。いのちゃんは喜びを体で表現しながらシカマルの背中を揺さぶった。悪態ついていたシカマルも、仏頂面下げながらもなんだかんだ嬉しそうである。シモクのやつ、昔は子どもが苦手とか言ってたクセしてちゃっかり懐かれてんじゃねーか。オープンで喜ぶチョウジ君といのちゃん。ツンデレが発動してしまっていたが、少し表情を緩めたのを知ってるんだぞシカマル。
「…………任務が入っていなければいいんだけどな」
先に任務で里を離れられたら元も子もない。確か鹿の面だったな。うん。当日は注意深く見渡そう。
「新さんも来て下さいね!!」
「え?うん。行くよ。俺はこれでも上忍だからね」
見守る義務がある。のはただの建前で、ただ単にネジを観戦しに行くのである。