108.涙の雨が今日も降り続ける

「なるほど…ここに奴らのアジトが」
「さすがカカシさんの忍犬だ」

朝方。カカシの忍犬のパックンが戻ってきた。アジトを突きとめた彼はカカシと新と共に地図を広げた。

「我愛羅の匂いもしとった。」
「…この距離なら」
「やめときなさいよ。チャクラを持ってかれる」
「ですよね…すいません。ネジが来る前に倒れるわけにはいきませんからね」
「すぐに出発するぞ」
「はい」



「どういうことだ!!」
「風影不在が公になればいつぞや他国が攻め入るかもしれぬという理由だ」
「木の葉の者たちは、我愛羅の為に集まってくれたんだ!我愛羅は私たちの風影だぞ!!砂の忍が行かなくてどうする!!」

我愛羅の姉、砂のテマリさんが激怒するのもわかる。俺だって里の長が攫われればなにがなんでも奪還しようとする。それに彼らは兄弟だ。それにしても砂の上層部は俺たち木の葉に風影の件を任せる程信用していたのか?同盟国といっても砂は警戒心が強い。我愛羅が風影になったことで少しは変わってきていた。だが、その我愛羅がいなくなったこの今…なぜ俺たちに託そうとする?お前たちの里の、風影だろ?

「わしが行こう。砂の忍はわし一人で十分じゃ」
「チヨ婆様!!」
「ですがっ」
「元々隠居の身。なにをどうしようがわしの勝手じゃ」
「あまり無理をなさらない方がっ」
「わしを年寄り扱いするんでないわ!」

この隠居ババア…アクティブ過ぎんだろ。背中にがっしりと掴まってきたのはナルトだ。わかる。…俺もこんな老体にそんなアクティブな動きができるとは思わなかったもん。

「かわいい孫を久しぶりにかわいがってあげたいんだよ」

この隠居ババァ…砂の相談役だったな。確か、カカシさんの父親であるサクモさんに息子を殺されただとか。仕方がない事…といえばそれまでなんだ。その時代は戦争真っ只中。ここまで他里が落ち着くまでにどれだけの犠牲があったか。白い牙は自害されたと…そう聞いている。カカシさんに直接聞いたわけではない。聞けるはずない。だけどその話を訂正しないところを見る限り…そうなんだろう。他里と連携をとることは難しい。所々に残るわだかまりと憎しみは簡単に拭えはしない。シモクにしても、俺にしても。…かつて。ヒザシさんが犠牲になることで納められた雲隠れとの争い。白眼を巡る…なんて愚かなことだったんだろう。ヒザシさんが行くことはなかった。俺が行けばよかった。そう思っていたとしても。過ぎた時間は溢した水と同じで元には戻らない。どんなに願っても。声は届かないということを俺は知ってる。

「だからこそ…」

今度こそは…助けたいんだ。我愛羅は風影。発言力のある影の一人。もしかしたら。各国を繋げてくれる変化になってくれるかもしれない。それに、短い期間だったけど。傍にいた友人だ。二十歳を過ぎた俺が友情だのなんだの言うにはくさすぎるかもしれないが。でも。俺は変わらないんだ。いつだって、俺だって。仲間と肩を並べる日を夢見ているんだ。

「知らせがあったんだけど言うのを忘れていた」
「?なんでしょう」

カカシさんは隣を走りながら堅い目をしていた。

「シモクが住民を傷つける暴挙に出たそうだ。」
「え…」
「暗部…いや、忍として問われるべき問題。これ以上続くようなら適切な処分ものだ。」
「…ッ!」

なんで、なんでそんなことになる。勢い任せにナルトよりも前に踏み出して走った。なんでなんでなんで。いつも苦しむのはお前で。なにもしてやれないのは俺なんだ。仲間だなんだと言いながら。俺はあいつが本当に辛い時、傍にいてやれた試しがないじゃないか。助けてやれたことは…一度だって。今だってそうだ。大切な任務なのはわかってる。俺が加えてくれと言ったんだ。でも…それはシモクを選ばなかったってことだろ?いつもそうやってシモクとなにかを天秤にかけたとき。傾くのはいつも同じ方だった。

「俺の馬鹿…死んじまえ」

もし…俺がいたところで。お前の変化に気づいてやれていたかな。人を傷つけることを嫌がるお前が、なんで人を傷つけた。これが火影の、里が望んだ人材か。悔しい。なにもできない自分が。なにもしようとしなかった自分が。シモクは関わるなと言った。俺たちを拒絶したのだ。…当然だろうが。本当にやばいときも、辛い時も。俺たちは…。

「小僧。なぁーに顔をくしゃくしゃにしておるんじゃ」
「…失礼。元からこんな顔でして」
「後悔しとるのか?」
「…え?」

このババァ…なんて。

「わしもまだまだ現役。お前の考えなんぞすぐわかるんじゃよ」
「…はぁ。さすがは隠居されても忍。その洞察眼と予想には敬服いたします」
「ふん。」

だが…こんな隠居ババァに俺たちのなにがわかる。俺の後悔が。罪が。あんたなんかに…っ!!!

「わしの孫は里を抜けた。傀儡に関しては天才的な奴じゃったわ。奴の両親は、白い牙に殺された。傀儡に縋るほど…愛が欲しかったんじゃろうて」

後悔。しているのは。

「わしも長く生きている分、後悔なんぞ。それこそ死ぬほどしてきた」

あの時ああしておけばよかった。そうすれば、なんて。

「お前はまだまだ青臭い。」
「…っ、うっさいな、隠居ババァ…」

ふん、と鼻で笑った隠居ババァは速度を落として後ろ手へ戻っていった。なに。これ言うためだけにわざわざ前衛に来たの。…お節介な婆さんだ。本当に。駆けだしてしまった新の背中を見詰めてカカシは行き場のない焦燥感に頭を悩ませた。知らせの鳥を寄越したのはオクラだ。いつも無駄な手紙しか寄越さないオクラが記した巻物には新が危惧しているシモクの状態が簡潔にまとめられていた。…事態は、深刻化したということがダイレクトに伝わってきた。優先順位をつけて行動するのは忍の常識。同盟国、風の国の風影我愛羅が暁に攫われたことは重大な任務に他ならない。でも、…もし俺になにもなかったら。この焦燥感に従ってシモクの元へ戻り、償いをするべきだ。俺が暗部を勧めたせいで、こうなったのだから。わかるのだ。自分の何気ない一言に、すべてが繋がっていることを。シモクが家族を思うのと同時に暗部を居場所…拠り所としていること。それは俺がまだ暗部にいたころに何気なく言った一言。

"暗部を居場所にしてしまえばいい"

本当に居場所を求めていたあいつに。俺は無責任にもそう言った。傷ついてボロボロなあいつに、そう言った。…だから、新。お前だけのせいじゃない。ナルトを追い抜かして走る背中は思いを振り切るように風を切っていた。きつく握られた拳は、自分に対しての怒気と呆れだった。




×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -