107.今もこの世界のどこかで君は哭いている

「……うちは地区…俺は…ここを知ってる」

うちはの文様がかけられた区域は木の葉創設時代からある、うちは地区だ。木の葉の創設者である森の千手一族とうちは一族。初代火影の没後…二代目火影以降うちははこの地区へと追いやれたらしい。それは、写輪眼の力が脅威だったからだ。二代目は初代とうちはマダラの戦いを見ていたのだろう。だから写輪眼の…うちはを里の脅威対象として定めたのだ。それから今現在。イタチが一族を皆殺しにするという事件が起こった。…凄惨で、悲しくて。悲劇の一夜だった。…俺にその記憶はない。わざとらしい程に、ないのだ。

"俺があの日。"全て"をお前に話さなければ" 
"上役もお前の記憶を操作したりはしなかっただろう"
"俺が重荷になる日は、少なからず来ると思っていた"
"お前が…そこにいてくれたお陰で、俺は俺を見失わずに済んだ"

…俺とお前は、なんだったんだ?誰も教えてくれないんだ。こうしてうちはの地へ赴いてさえ、俺は脳をなにかで縛られているかのように痛むんだ。でも、ここで帰ったら。俺はまた最初に戻る。頭を片手で押さえながら一歩一歩、その門を潜った。里の中に里があるような…ここで、うちはの人々は生活していたのだろう。頭が痛い。

「…ここは…」

どこよりも上等な家屋。…俺はここを知ってる。知ってるはずなんだ…なのに。思い出せない。悔しさに似た感情。ダンゾウのカリキュラムの影響かと思ってた。以前に…俺はうちはイタチの名すら忘れていたんだ。人為的に操作されたなら…それはさっき火影が言った通りだ。俺なんかを失うのが惜しいと。稀な悪運を備えていると。

「…俺はそんなに強い忍なんかじゃない」

たまたま…そして、助けられただけだ。ナグラさん達に生かされただけだ。

「うちは煎餅って…美味しかったよな…ぁ」

ここを懐かしいと、思ってしまうのは、やっぱり俺はお前と任務外でも関わっていた証で。なんで涙が落ちてくるのか。俺は知ってるはずなのに、わからないんだ。色んな苦しいことを体験してきた。この苦しさはなんだ?なんでこんなに胸が痛い。なんで、なんで

"…ありがとう、シモク"

「…礼を言うな」

今の俺はお前を知らない。そんな男に、よく言えたものだ。空を仰いだ。誰にもわかってもらえないだろう。この、知ってることを思い出せない、そんな気持ちも。思い出したいのに、思い出せないでいる。お前は、なにを思ったんだ?…イタチ。



「諜報部ならなんか知っていると思って。忙しいのにごめん」
「いや、構わねぇけど…待ってろ、うちはの話だよな?」

ありゃ。どういうこった?珍しく諜報部に来た。そういえばあれ以来顔見てなかったんだが…まぁ元気でやっててよかった。アカデミーの生徒の教育たぁ熱心なことだ。新にも早く会わせてやりたいな。風影を奪還して、そんでもって帰ってきたらシナガ先生入れて四人で飲むんだ。

「土中家も古いだろ?奈良家とうちはは関わり合いがないからなにも出てこなくて」
「こっちは千手派閥といえど遠いからな。期待に沿えなかったら悪い」
「なんでもいいんだ。情報は多いに越したことはないし」
「それこそお前、暗部で聞いてきた方が手っ取り早くないか?」
「俺はいまだ謹慎療養の身だ。近づくこともできないよ」
「それもそうか」

書類の掃き溜めになっていたソファに促す。うちは一族か…

「俺はうちはイタチ単品のことは知らんがその弟のことなら知ってるぞ。試験官だからな。」
「…弟?」
「ん?あぁ、それも覚えてないのか。うちは一族唯一の生き残りで、イタチの弟。」
「……仲って良かった…?」
「昔は仲良しだったらしいが、あの事件が起こってからの弟の野望は兄を殺すこと…だったそうだ。今は里抜けして所在は不明とされているが、大蛇丸が絡んでいるとみて間違いはない。」
「…」
「どっちにしても里抜けは大罪。兄弟揃ってビンゴブックだよ」
「…イタチは…なにを考えていたんだろうな」
「俺にはわからん。そもそもの発想から違い過ぎるからな。…一族を皆殺しなんざ…人ができる所業じゃない」

妹を見殺した俺もそうなのに。一族殺しの真実を背負う奴の精神はどうなっているのか聞いてみたいぜ。全く。それにしても、なぜ暗部でツーマンセルを組んでいただけでそこまで介入する?イタチだけの記憶を失ったのは、思い出したくなかったからじゃないのか?犯罪者だぞ…それもS級。カカシさんからの情報によれば暁に属しているというじゃないか。不用意に接触したという話は既に火影から回っている。俺も下手にシモクの記憶を刺激するなとお達しがきているうちの一人だ。

「俺が知ってることは少ない…協力できなくて悪い」
「お前、なにか後ろ暗いことがあるとこっちが笑うくらい真顔になるよね」
「俺もお前も、もう大人だろ?俺だって変わるんだ」
「変わらないさ。今更なに言ってんだ」

昔から。シモクはそういう事に敏感だった。人の顔色を見るのが得意で、それは家庭環境とかいろいろあった影響だと思うが、悪いな。

「まじでなんもねーって!俺うちはと関わったことねーもん!」
「その笑顔が胡散臭い」
「地顔になんてことを言うんだ。」

情報を漏洩するのは、諜報部にいる者としてどうかと思わねぇ?話せる範囲は話した。お前がイタチを本気で思い出したいってんなら、自力でやるしかねーだろ。少なくとも…俺もイタチの情報はかき集めている最中だ。

「悪かった仕事中に。そろそろ行く」
「またな!新が帰ってきたらシナガ先生入れて四人で飲もうぜ!」
「じゃあな」
「シモク!…俺、またお前と話せて嬉しいよ」
「俺もだよ」

返事の代わりに手をひらりと振って瞬身で去ったあいつにさすがだなーなんて思う。イタチはなにを考えてる…か。さぁ…それが分かれば、誰も苦労なんざしないだろうよ。




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