106.僕の声を聞いてください

「お前…シモクの」
「八ツ橋だ。あいつから文を託されてきた」
「文を?」

綱手の元に駆け寄ったのはシモクの忍犬の八ツ橋だ。元はカカシと契約していたのだが餞別として譲られた。パックンと同じく頭脳も嗅覚にも優れている。

「そうか、すまないな感謝する。」
「シモクは元気にやってる。怪我の方も完治済みだ。」
「わかった」

ぼふん。任務を果たした八つ橋は煙と共に消える。早速届けられた巻物の術を解く。


拝啓 火影殿
テンラクとの修行も明日で終わりを迎えます。その節には必ず帰還致します事を改めて誓います。先刻、暁の一人と接触しました。危害は加えられておりません。二人共無事です。その者の名はうちはイタチ。貴女が仰っていた男です。彼は俺の記憶が上役達に操作された、と言っておりました。何故俺の記憶は消えた、のではなく消された、のか。帰還した際にお答えを頂ければと思います。
奈良シモク


「…さぁ、こい」

修行も今日で最後。テンラクにとっては長かっただろう。でも、お前。

「水遁…水乱波の術!!!」

最初に会った時よりもすごくいい顔してる。ほんとに、出来た弟子を持ったよ、…俺。

「ご苦労だったな」
「ただいま帰還致しました。」
「おかえり!」
「イルカ先生!」

テンラクが頭をぐりぐり撫でられながらはにかんで笑う傍らで、綱手とシモクは目線を突き合わせていた。言いたいことはわかる。先に視線を落としたのはシモクだった。

「奈良さん!!俺もっと頑張るよ。絶対誰にも負けねー!あんたみたいな忍になる!!」

俺みたいな忍にはなるなよ、と笑って懐からあの日いらないと突っぱねった彼の弟からの御守りを取り出す。今度は真摯な顔で、…否、強気な笑顔で受け取った。

「ありがとう!!またな!!…師匠!!」

テンラクとイルカが退出し、空気がじわじわと張り詰め始める。

「うちはイタチと接触したんだな?」
「はい。…彼がなぜ火の国に姿を現したのかは不明です。ですが…これを返されました」
「…面か」
「俺の面の筈なのに、俺は彼に接触した記憶がありません。…口寄せで運ばせた文は読まれましたか。…火影様。なにか知っているなら教えて下さい。」

あの日、綱手がシモクに教えたのはイタチとの関係性ではない。うちはイタチがいた"事実"だけだ。…最も、イタチの件を承認していたのは三代目火影であり綱手ではない。三代目からの直接的な引継ぎが出来なかった為に、綱手はイタチの事件の真相を深く知らない。三代目の亡き後、それを知っているのは木の葉の上層部だけだ。

「…なにか言えない事情でもあるのですか」
「…木の葉はお前を失うことを良しとしない。それはお前が暗部で、類稀なる生命力を持っているからだ」
「…?」
「真実を知れば、お前はイタチを追うだろう。里抜けは認められん。…いくら、お前の行動・思想を保証すると言う奴がいても。確信はない。」

力強くシカマルが言った。あの時は傍受したが、なにかあってからでは遅い。…遅すぎるのだ。こんなに慎重になってしまうのは自分の弟と、恋人の存在が今でもあるからなのだろうか。…当然だ。火影も忍。そして木の葉の大樹だ。一枚とて葉を枯らしたくはない。部下を死なせたくないと思う心は本物だ。だが現実は甘くはない。望まなくとも役を終えた葉は自ら散っていく。若い葉も老いた葉も関係なく。忍の世界だから。

「…可笑しいですね、火影様。」
「…なにがだ」
「つまり、火影様は俺を信用しておられないんですか」

沈黙が横たわった。シモクの顔に怒りも悲しみも浮かんではいない。知っているからだ。お互い忍。大人だ。

「…確かに俺は多少無茶はします。掟に背き、家族の家紋に泥を塗るような男です、…しかし」

一度だって、里を裏切ろうと思ったことはありません。

「なにをされても、なにを聞かされても。俺は里を愛しています。うちはイタチの記憶が戻ったとしても、俺は変わらない。…彼は俺を知っていた。あの感じは友人という間柄だったはずです。なのに俺は彼を忘れていた。…最低野郎じゃないですか」

欠け落とされた面を持ち上げて、シモクは再度眼ざしを向けた。

「うちはイタチについて…教えてください」
「…わかった。だが今は無理だ。あたしは奴に関わったことがない。唯一奴を知っているのはあたしの知る限り…カカシだな」
「…カカシ先輩?」
「お前も知っての通り、暗部に長年従事していた男だ。カカシの部隊に補充要員として抜擢されたのが、暗部最年少のイタチだったと聞いている。」
「…カカシ先輩は今…」
「お前も知っているだろうが、風影の奪還任務を請け負っている。まだ連絡はつかん。」




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -