104.見えない愛をどう感じろと

俺は木の葉の忍だけど、太陽の下の存在じゃない。暗部。汚い仕事を一手に受けて、火影の信頼の元活動する組織。その中の、一人が俺。テンラクはアカデミーの生徒で。何も知らない。俺の手が、どれだけ染まっているか。それを知ったら…テンラクはどう思うんだろう。敵といっても、人を殺しまくってる俺から…教わりたくないだろうか。臆病で小心者は健在で、できた繋がりが切れてしまうのを怖がっている。

…、朝か…変な時間に目覚ましちゃったな…まだ辺りが薄暗い。寝袋から起き上がって伸びをする。

「…?、テンラク?」

ふと、隣の寝袋が萎んでいるのに気づいた。

「…湖だな」

感覚を研ぎ澄まし、気配を探ると湖の方に感じた。朝から修行に精を出しているのだろうか。明後日までに必ず…と言っていた。テンラクに教えられるのは、あと1日。俺にとっても療養するには十分な時間だった。…!!…なんだ…?気配が増えた…。テンラク以外の気配を感じて立ち上がり、湖に向かった。敵か?それとも身内か?日向家のようにチャクラを感知できない俺には、気配を探ることしかできない。ここに居ることはシカマルと五代目しか知らない筈だ。ならば…敵か。


「な…なんだよ…」

テンラクはシモクお手製の蓮の葉を握り締めた。目の前の男に、完全に怖じ気づいた。…いや、これが普通の反応である。男から滲み出る闘気や貫禄は並みのものではない。思わず膝が笑った。今日と明日しかない修行。確実にやってみせて、シモクに認めさせてやるんだと。早朝から湖に向かっていた。だが湖には…先客がいたのだ。真っ黒な外套に紅い雲の模様。一つに結わえた長い黒髪はサラサラ揺れて。こちらを向いた黒眼は…氷のように冷たい。

「木の葉の忍か」

何も言えずに固まる。…この人、やばい。無意識に腰を抜かしたテンラクはガタガタと震えた。

「テンラク!」
「!…っ師匠!」

駆けつけたシモクに勢い良く顔を上げた。苦無を逆手に構える。その顔は"仕事の顔"。足音も気配も一切立てずにだ。

「ここは火の国圏内だ。貴様…一見にして木の葉の忍ではないな」
「あ、お、俺!し、修行してて…!そしたらこの人が、」

腰を抜かしながら足と手を動かして四つん這いでシモクに逃げ寄った。

「こいつを届けに来た」
「俺の面…なぜお前が持っている」

男は怪訝な顔をした。眉間に皺を寄せている。まるでシモクがなぜそんな事を聞いてくるのかが分からないような。

「…木の葉で会った時、お前の面を割っただろう。その破片だ」
「…?」
「……シモク?」

怪訝な顔が、更に曇る。

「お前は…何者だ。何故俺の名を知っている」

男の目が、驚きで見開かれた。


可笑しい。…この目。俺が誰か、分からないと言った顔だ。敵に向ける殺気と瞳。…なにがあった。否、違う。なにを、された。

「なぜ俺の名を知っている」

警戒に溢れた目は俺に決して向けられる事がなかった。俺が木の葉とうちはの二重スパイだと知っても、これまでの事を話しても。木の葉を抜けると言っても。…一度だって、俺を敵視しなかった。むしろ酷く情けない顔でこちらを見るのだ。お人好しなお前の事だから。きっと、なにもしてやれなかった。そう思っているんだろう。違う。俺は。

「お前は敵か」
「…そうだな」

お前の存在そのものに。救われていたんだ。だから。墓まで持っていく筈だった。誰にも話すつもりは毛頭なかったのに。俺の全てを話したんだ。お前だから。お前だったから。お前を、信頼していたから。

「組織の名は暁」

これは、俺への罰なのかもしれない。

「お前達木の葉の、」

お前を望んで、求めて、余計な重荷を背負わせた。子どものようになにもかもを吐き出した。

「敵だ」

忘れたのか。俺を。いや…"忘れさせられた"んだな。優しいお前はきっと、なにかに巻き込まれた。元来、物事に頭を突っ込む巻き込まれ屋な性格だ。

「暁…!お前が!」

嗚呼、すまない。元から…こうなっていれば。俺の甘えを押し付けた所為で。お前は…余計に苦しんだのだろう。上役達は頭が硬い連中ばかりなのは知っている。更に、ダンゾウはまだ存命。暗部に未だ従事するお前は…きっと、周りには知られぬ鎖に繋がれているんだろう。その先に繋がる、重い重い無数の命と犠牲と共に。…シモク。俺はお前と出会えて良かった。お前が何度も何度も、しつこく俺の元に来てくれたこと。甘味屋へ行ったこと。初めて共闘したこと。あの日、西の防衛塔で見た月を。俺は忘れない。お前が忘れてしまってもいい。俺は、俺だけは。お前を覚えていよう。思い出を、絶対に手放しはしない。

「テンラク、下がれ。俺がやる」

今じゃお前も弟子を持つ師。昔のままではいられない。俺も、お前も。

「…俺は、火影直轄暗部の奈良シモクだ」


―うおおおおお!?な、なんっ!
―く、ふははっ…!
―ひ、ひど…酷いだろ!蛇仕掛けてくるなんて!
―いつもの訳の分からない悪戯のお返しだ
―爬虫類近づけんなって言ってるだろー!

―イタチ!俺は奈良シモク!性格は真面目!ちょっとしつこい!お節介焼き!好きな食べ物は海苔せんべい!7歳下に弟が一人いて、4人家族だ!得意な事は料理!鹿の角の薬精製!
―よろしくな、イタチ。俺はお前と仲良くしたいんだ。


最初から…こうなるべきだった。俺の我が儘に。俺という鎖に。縛り付けてしまった。

「俺は…うちはイタチだ」

すまなかった。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -