103.誰よりも強くありたいから

まっすぐにそびえ立つ荒い岩肌を見上げたシモクは頂からの声に耳を澄ませた。当初の予定より半日早い。テンラクは二日半で登り切った。

「どうした?すごいじゃないか!まさか半日残すとは思わなかった」
「お、俺だってやればできるし。そうすりゃあんたも早く…」
「なんか言ったか?」
「…なんでもねーし!」
「なら次は精神エネルギーを鍛える修行だね。この二日半見ていたけど君は短気で落ち着きがない。」
「うっ…」
「修行は水の上で行う。水遁を扱う者ならまず水の性質を知れ。」
「水の上って…どうやって?」
「これ、なにかわかる?」
「…でかい、蓮の葉っぱ…まさか…」
「これにお前を乗せて水に投げる」
「ぞんざいじゃない!!!?」
「この蓮の葉は俺が徹夜して幾重にも重ねて強度をあげているから心配いらないよ」
「そういう問題じゃ…!!!」

「いい感じ」
「怖いよ!!!落ちそうだよ!!」

蓮の葉に乗り、池に放りだされたテンラクは池の濁りに恐怖を覚えた。グラグラしていて落ちそうだ。岸で片手を振るあの笑顔が憎たらしい。

「座禅を組んで、落ち着いて座ってごらん」
「無理!!こわい!」
「アカデミーを卒業したら、そんなところよりもっと怖い場所に行くんだよ。…それは突然かもしれない」
「どどどどうやって座れって!?」
「胡坐かいて座りな。精神を研ぎ澄ませて。そうしたら安定するようになる。この精神修行は同じく三日で行う。」
「うわああああっ」

ばっしゃーん…盛大な水しぶきがあがった。

「大丈夫?」
「んなわけあるかっっっ」



「うおおおおおああああっ!!!!」

ばっしゃああん!

「…見事な落ちっぷりで正直驚いてるよ」
「見てるなら助けてくれよ!!」

ざばっと岸に這い上がったテンラクは水に濡れるのは慣れたようだ。苔を頭にくっつけてじとりと視線を向ける。

「助けてばかりじゃ駄目に決まってるじゃないか」
「それでも俺の師匠かよ!」
「え」
「あ、…なんでもないっ!!!」

どたどたと走り去った小さい背中を見送りながら。

「…"師匠"…俺が…?」

自分には恩師がたくさんいる。カカシ先輩。ナグラさんにシナガ先生。でも、自分がそういう立場に立つなんて、思ってもみなかった。それにテンラクが、自分を"師"として見ているなんて思わなかったのだ。こそばゆい。ぽつんと取り残された蓮の葉を岸にあげてやった。師になる。新しい世代を育てる。それは暗部でもやってきたことがあるけど、あの時は複数人の"教官"で。忍一人だけを相手にするのは初めてだった。

「…年取ったかなぁ俺」

ほんの少しおかしくて、笑った。



「また魚?」
「狩ってくるかい?山の中駆けまわって。」
「…やめとく」
「今日で5日目になるけど、最初より確実に変わってるよ。チャクラを練るのが楽しみだね」

…奈良シモク。俺の師匠さん。明後日で一週間が終わる。俺とこの人の旅も終わるんだ。今まで、先生にも親にも言えなかったこととか。自分がこんなに頑張れるんだってこととか、初めて知った。振り向けば少し離れた場所に高い岩がそびえ立ってる。あれを、俺は登ったんだ。なんだか、誇らしかった。魚の身をほじくり返すこの人は、木の葉の忍なのかな。火影に物を言えるくらいだから偉い人なのかな。素朴な、本当にふと思っただけ。

「…ねぇ」
「なに?」
「あんたは木の葉の上忍?」

…不思議な間だった。質問の意味を理解したのか、視線を外したこの人は少し考えるように黙ってしまった。なにを考えてるのか、なんで考えてるのか。俺もその沈黙の中で串に刺さった魚を置いた。ぱちりと火の粉が飛んで、火のせいなのか、この人の目はゆらゆら揺れているみたいだった。

「…俺は…」

言いにくそうに。俺にそれを伝えるのを、躊躇っているように見えて。いつも笑顔ばっかで飄々としてるのに。俺が変なことを聞いたから。顔、辛そうで。

「やっぱいい!」
「え?」
「奈良さんは奈良さんだし、俺の師匠だし、そんだけでいい!」

俺は、この人に認められたい。努力すれば、報われるって。この人が教えてくれた。俺になかったものをくれた人だ。…何者でもいいじゃないか。

「明後日までに、必ずできるようになる!!」

師匠。全部の修行が終わってさ。そん時に、俺が強くなってたら。

「…本当に楽しみにしてる、テンラク」

俺を認めてほしいんだ。




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