08.あなたの心音を

最悪だ。なにが最悪って状況全てだ。国境での戦闘は免れなかったのは仕方が無いとして。それを除いても最悪は最悪だ。

「…げホッ」

口から吐き出されるのは赤い塊でしかなく。自分の周りに転がってるのは"仲間"であり、"同僚"。友達などでは決してないが、やはり先程まで共に行動していた者が死体に変わっているのは心にも傷にも痛い。

「………生存者が…いるなら…返事をして…ください…」

傷口に手を置いて、立ち上がる。暗闇に夜目を効かせばやはり自分以外は全て事切れているようだ。誰一人ピクリとも動いてくれない。ただやはり面は取れることなくその顔を隠している。2つの、面からぽっかり開いた穴に見つめられると遣る瀬ない感情の波が押し寄せる。今回も、自分は生き残ってしまった。死を望んでるわけでもないが、この光景を見ていると何故生きているのかわからなくなる。死にたい、そんなわけないのだ。暗部も人は人。死を望まない者だっていただろうに。

「…返事を、してください…」

誰でもいい。誰か、立ち上がって欲しかった。自分だけでは、どうしても…どうしても。

「………っ」

今日は、シカマルの、弟の新しい門出を祝おうと思っていたのに。朝、約束したのだ。"今日は早く片付けてシカマルを祝いに帰るからな"約束を一方的にした自分が、約束を破っていいのか…。良いわけがない。なら早く動け足、今すぐ事の状況を説明して応援を呼ぶのだ。すぐに伝令の忍獣を口寄せして、火影へと飛ばす。自分はここで一つでも多くの亡骸を一箇所へ集めなくてはならない。万が一、数が足りない場合も含め、確認しなければならない。忍の体は情報の塊。ひとつたりとも逃してはならない。ましてやその亡骸が暗部の者であったなら尚更。震える手足をぶっ叩く。何年暗部をやっていると思ってるんだ。6年だぞ、6年…いい加減慣れてもらわないと困るぞ自分…。

「……口寄せ」

ボンッ。今はもう暗部を引退してしまったカカシ先輩からの置土産である忍犬。そいつで残りの暗部の遺体捜索をしてもらう。あまりチャクラ量がない方で、無闇に影分身は使えない。鹿の面は返り血で酷く汚れていた。


ガラララッ。そんな音が玄関から聞こえた。シカマルはハッとして時計を見た。まだ早い時間だ。父や母は居間にいる。だとしたら帰ってくるのは一人しかいない。

「お、帰ってきやがったなシモク」
「シカマル!帰ってきたって」

そう言われると中々玄関に行けない、まるで自分が心待ちにしていたようでなんだが恥ずかしかったからだ。やれやれとシカクは息を吐いた。…にしても、先程から玄関を開けた音が聞こえたきり。なにも聞こえない。ましてや気配すらそこで溜まっている。不審に思ったのはシカマルだけではないようで、シカクも立ち上がった。月明かりが差し込む玄関に、それは倒れていた。中途半端に開かれた戸に、廊下との境目で横たわっていたのは面をつけた暗部。その身なりはボロボロで、傷口からは鮮血が滴っていた。腕の防御はひび割れ、鹿の面は血で染まり、鉄爪もかけている。相当な激戦であったことを物語っていた。シカクの怒声にも似た声がした。

「起きろシモク!!反応しろ!」

初めてのことだった。兄がこんなに疲弊し、血だらけで帰ってくるなど。それが、今日に限って。"今日は早く片付けてシカマルを祝いに帰るからな"もしかしたら、自分の事を考えて早くケリをつけた結果なのか?実際、あの言葉通り早く帰ってきた。その代わり血だらけで。

「!!お前たち…」

そのとき、ふと顔をあげればもう見慣れた暗部の様々な面が立っていた。音を立てず、静かに闇夜に立っていた。

「その者は、私たちがお連れします」
「な、なんだよてめぇら」

シカマルの声にもう一人の暗部は振り返る。

「この度の任務で暗部にも甚大な被害を受けた、その報告がまだだ」
「見ろよ!兄貴は怪我してんだぞ!早く病院に…っ」
「医療班ならこちらで用意致します」

淡々とした声に怯む。

「…必ず、手当てをしてやるんだろうな」
「もちろんです。」
「親父!?」

シカクはそれ以上なにも言わずシモクから離れた。その間に暗部達がさっとシモクの腕を肩にかけると、瞬身で姿を消した。

「では」

そう言って最後の暗部も。居間から見ていたヨシノも、口に手を当てて半放心状態だ。

「なんでだよ親父!なんで連れてかせたんだよ!」
「暗部には暗部の掟がある」
「でもあいつら…っ」
「シカマル」

シカクの声が静まった廊下に木霊した。

「お前の兄は、闇に生きる忍…暗部なんだ」

それは、刻みこまれるようだった。暗部、その実態はまだよくわからない。ただ、自分たちが日々過ごしてる日常の裏で血に濡れながら里のために身を粉にしている。その、いち集団の一人が自分の兄貴。

「……親父…暗部ってなんなんだ」

シカマルに睨むように見上げられたシカクは静かに目を伏せた。




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