95.呼吸さえ消して

「…シカマル。あたし考えたんだけど。チョウジも聞いて」
「なんだ?」
「中忍試験で同じ精神系の忍と戦ったんだけど、身転心の術で2人を繋いだ時サクラの思念が紛れ込んできたの」
「あ!サクラのそれ僕も見たよ!」
「それで、シモクさんには見たことや聞いたことは忘れるようにって言われてたんだけど…」

シモクの暗部復帰の演習で、いのは彼の内を垣間見た。

「身転心の術が成功した時、シモクさんの記憶が流れてきたの。誰かを庇ってるのだったり、シカマルの誕生日だったり…飛び飛びだったけど」
「…庇ってんのは、多分イヅルだな」
「イヅル?」
「いや、こっちの話だ。それで…それがなんだ?」
「身転心の術で繋いだサクラの思念。そして見えたシモクさんの記憶。…あたし達3人とシモクさんを繋げば、記憶の中に入れるかもしれない!」

シカマルは怪訝な顔でいのを下から見つめた。兄貴の記憶に…。内側にあると確信して止まない本当の兄貴に会える……可能性があるのか…?…いや、リスクが高い。もし仮に成功できたとしても、…なにができる。それに身転心は術者の負担が大きい。習得したばかりの術の多用は危険だ。特に精神系の術ならば特に。

「それはお前にかなりの負担がかかる筈だろ。」
「シカマルはこのままなにもしないってわけ…!?なにもしないで、シモクさんを見捨てるの!?」
「んなこと言ってねぇだろ」
「…もうこれ以上傷付いて欲しくない。もう十分じゃない。」

十分。でも、兄貴にとってはそうじゃねぇんだよ…。じゃなかったら、こんな苦労はしてない。兄貴がもういいや、と。暗部を引退してくれれば。だけど、兄貴は引けやしない。自分がどうなろうと、一向に引きやがらねぇ。頑固なんだよ、あの人。それはもう、分かってる。

「なら、シカマルは繋がらなくていい。あたしとチョウジでやる」
「僕もいのに賛成だよ。やってみなきゃわからない。だけど無理はしないでよ」
「オッケー!」

いのとチョウジが扉に手をかける前に中にいた医療忍者2人が汗を浮かべたまま出てきた。

「!あぁ面会の方ですね…今は麻酔を打って眠ってます」
「ありがとうございます。兄貴を止めてくれて」

シカマルの温度のない声に苦笑いを浮かべた医療忍者はそそくさとその場を離れた。

「チョウジ、いの。いいのか。本当に。」
「え?」
「いまの話は、兄貴の闇を見るってことだ。」

深淵を覗き込んだら、引きづり込まれる。シモクの闇は、限りなく深い。そこに単身乗り込むことは、無謀で暴挙で。だけど、こうなった以上。もう道はないのだと。自分たちができることは、これしか思いつかない。

「どれだけ深いのか知れたものじゃねぇ。それでもやる気か?」
「…今度はあたしだって証明したいのよ。もうあの頃みたいに弱くないって。助けてあげたいの」
「僕も同じだよ。シモクは僕らの兄でもいてくれたから。…取り返そうよ、シカマル」

シカマル。今度は僕たちも一緒にいくよ。俯きながら苦く笑むと、病室に足を踏み入れた。

「…シモクさん、ごめんなさい。でも、今度はあたし達が助けるから」

いのの手が印を組み始める。シカマルはシモクを見下ろしながら…そっと目を閉じた。

「身転心の術…!」



―ごめんなさい俺のせいで。貴方達は 死んでしまった




×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -