92.未知なるものは見知らぬもの

「直接毒抜きをしました。もう命の心配はないでしょう」
「すげぇ!さすがサクラちゃん」
「あっぱれだな」

カンクロウ君…良かった。お前には随分と中忍試験で世話になったから。死ぬ事はないと信じていたが、…良かった。

「ですが、まだ安心はできません。これから体内に残留している毒に対する解毒薬を調合します」
「わかった、必要なものがあれば遠慮なく言ってくれ」
「、まだ安心できないのか?…カンクロウ君、頑張れよ」

荒い息のままのカンクロウ君の肩を叩いた。

「新、ちょっと」
「はい。カカシさん。綱手様からですか?」
「ばあちゃん、なんだって?」

木の葉からの返書らしい。バキさんが巻物を渡してくれた。

「ガイの班をこちらに送ったそうだ……新。犬みたいに喜ばない。尻尾振らない」
「ネ、ネジだろ?ガイさんの生徒はネジだよな?ネジだネジうわあ!俺たちってやっぱり切れぬ糸で繋がってるんだよ以心伝心ってやつかよ照れる」

だって俺ネジに書置きもなにもしてないし、なのに任務終わって早々俺と同じ任務とかもうこれ運命レベルだと思うんだ。砂隠れの里って何気に俺たちの縁を結んでくれるパワースポットだな。

「全くもう…」
「はは、みんな強くなってんだろうな。ネジなんてもう上忍だっていうし…よーし。俺たちものんびりしてらんねぇ!すぐにでも暁を追うってばよ!」
「その後、暁の追跡はどうなってるんです?」
「まず最初に、カンクロウが単独で出て行ってああなった。その後追跡部隊を出したが、まだ連絡はない…状況から考えて、恐らく…」
「…もうかなり日数が経っているんで俺の白眼の範囲じゃ足りませんね」
「無理だな」
「他に、里の上役が一名行方不明になっている。簡単にやられることはないと思いたいのだが。」

…完全に行方掴めず…か。

「バキ様!カンクロウが目を覚ましました!」
「!!」
「カンクロウ君!俺だ!俺!…忘れちまったか?木の葉のっ」
「うるせーんだよ…その馬鹿でけぇ声は、覚えてるっての…」
「…安心したぜ」
「…彼が戦ったところまで案内してください。こう見えても私、追跡のプロなんで。白眼の新は探知範囲が桁違いなので、それも役に立つかと」
「その必要はないぜ…」
「おいカンクロウ君、」
「悪い、手貸せ」

なにか知っているのか。

「俺の…傀儡は、回収してあるよな………敵は2人…一人は我愛羅を連れてる。我愛羅の匂いを追えばいい…もし二手に分かれたとしてももう一人は、そいつに匂いがついてる…」

…無残に壊された傀儡だ。カンクロウ君は砂でもかなりの手練れの筈なのに。傀儡のからくりを読まれたとでもいうのか。

「…傀儡の手か?」
「…鴉の手に、服の一部を握らせといた…」
「転んでもただでは起きない。さすがは、砂の忍」

カカシさんの賞賛を受けてカンクロウ君は軽く笑った。

「ではカカシさん。」
「そーね」

八忍犬を口寄せしたカカシさん。犬達に匂いを嗅がせて探し出す戦法だ。

「そいつがどこに向かったか、突き止めるんだ。行け」
「わかったらすぐ連絡する」
「よし!パックンたちが戻ってきたら、すぐ出発だってばよ!」


「…兄貴が、人を殴った…?」
「確かな情報筋だ。」

シカマルは有り得ないと顔に言葉を乗せた。綱手は先程、自来也から奈良シモクの徘徊と"喧嘩"についての報告を受けた。重傷者二名を出したが本人は"喧嘩"と一刀両断したらしい。果てには命を軽んずる発言が出されたそうだ。

「ありえねぇ……」
「あたしもそう思いたいが事実だ。このようなことがもう一度でも起これば、奈良シモクについての処遇も再検討せざる得ない」
「検討って…」
「…味方を手にかけるやもしれん。そんなことは未然に防ぎたい」
「五代目様、兄貴はあんたらの勝手でああなったんすよ…まさか割り切るつもりじゃないですよね」

元はといえば…そう考えるとキリが無いが阻止する手立ては、機会は…たくさんあった筈だった。それは綱手にもシカマルにも当てはまる。

「ああなった兄貴はいらねーってことですか!」
「うるさい!誰もそんなことは言っておらん!」
「じゃあ再検討って」

綱手は再度黙り込んだ。誤算中の誤算だったのだ。彼女にとっても。自来也からの情報は確かだ。現に木の葉病院にシズネが向かい、事態を収拾した。因縁つけてきたのは自分達からで。挑発されて乗ったところ、容赦なくやられた訳だ。それも無表情で時々浮かぶ笑みが狂気染みており、二度と関わりたくないと怪我を負った内の一人がそう話したらしい。

「今は判断がつかん。今後このようなことが起きぬようシカマル。奴から目を離すな」
「……っす」

また、一歩一歩を踏み外している。確実に。どうする。どうすれば兄貴は元に戻る。どうすればいい。なにを話せば、なにをすれば。

「…どうすりゃいいんだってんだよ…クソ兄貴…」

綱手の足音が完全に消え去ってから、じわじわ熱いものがまた目頭から滲んでくる。壁伝いにずるずるとしゃがみ込んだ。…畜生。だから砂のテマリにも泣き虫と言われるのだ。だが、この気持ちをぶつけるにはどうしたらいい。憤慨できはしない。だって相手は、里全てだ。

「…っくしょう……、っ!」

その中で、生きている自分。そんな甘ったれた自分の無力さ。この火影邸の廊下で泣くのは、あのサスケ奪還任務以来だ。チョウジもネジも危険に晒しちまった、俺の中忍任務初陣。失敗した後、確か。俺の傍に来てくれたのは…

「なにやっているんだ」
「…兄貴」

見上げれば、ぴくりとも動かない表情の死んだ顔が兄をかたどってそこにいた。じっとシカマルを見下ろす目に、あの日のような温かみは、ない。そうか…自分は気づくことができなかったのか。あの日も、笑ってくれていたことに。甘えていた。失うなんて、思ってもみなかった。

―「…おかえり、頑張ったな」
―「お前は、十分、よくやったよ。立派な隊長だ」
―「大丈夫だ、シカマル」
―「お前が自分を責めることはない」
―「…シカマルは、俺の自慢の弟だよ」

兄貴。あんたの中に、俺はまだいるのか?少しでも、俺のことをまだ心配してくれているか?こんな俺を、まだ自慢の弟だと、言ってくれるか…?

「何故泣いている」
「…なんでもねーよ、なんでもねーから。」

俺は、思ってた。兄貴さえ、帰ってきてくれれば。また、もう一度。一緒に大口あけて笑いたいのだ。

「戻るぞ兄貴。ったく、徘徊すんなよ」

指の節々に残る傷跡が、誰かを傷つけた証だと、突きつけられたとしても。




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