91.なぜ生きているのかという疑問

「他人の血を浴びる程気持ち悪いものはないだろうのぉ」
「今更です。慣れてますから」

何故か。昨日今日と出会ってしまった、この暗部青年。奈良一族の長兄。それにしては随分と荒んでいる。確か奈良、秋道、山中は結束して里を守る特別な一族で代々伝統であるピアスに誓いを立て、子に譲り渡す習わしがある。その耳に、受け継がれる筈のピアスはない。確かナルトの同期に奈良の末っ子がいたな。…そういうことか、残酷な。

「暗部に属して何年だ?」
「10年になります」

…思ったより長い。なるほど、こうなるわけだ。

「綱手が信頼するのも頷ける」
「自来也様、俺は五代目に捨てられたんです。再編成されましたが。」
「何言っとるんだ。」
「ダンゾウ様が仰っていました」

ダンゾウ?また随分奥の方から手が出てきたものだ。綱手経由で、奈良シモクの特異性は耳に挟んでいる。絶対的帰還率。これの右に出る者はいない。忍の任務ではチームのバランスは勿論、医療忍者、戦闘忍者、探知忍者の三本柱がベスト。更に任務の常套手段である"帰還率"が高い忍が隊に必ず一人導入されることが多い。なにがあっても。たとえ医療忍者が倒れても。立ち続けられる忍。だが、そんな忍が育つのは稀だ。はたけカカシやうちはイタチのような天才か、或いは奈良シモクのように死神に嫌われてさえいなければまず適応しない役職。奈良シモクの帰還率と対等に並ぶ忍は現在いない。だからこそ多くの任務に駆り出されるのだ。その度に、相討ちした敵の情報を抜き取り、仲間の死体を持ち帰る為に戦闘場を歩き回り、火影に応援要請を送る。たった一人で。その為の忍。所謂…事後処理。それがとてつもなく重要であり、一番に精神負担がかかる役職である。確かに。それで心を乱されたなら任務に支障をきたすかもしれない。だが目の前の男は二十そこそこの青年だ。感情を揺さぶられるのも、過敏になるのも。当たり前である。10年という月日の中で、自身の理念すら捻じ曲げられているのか?この青年と話せば話すほど、太陽のように活気溢れるナルトと過ごしていた修行の日々にギャップを感じる。ナルトが太陽なら、シモクはその太陽から生まれる影だ。誰にも見向きされないが確かにそこにいて。その影の中で太陽を守っているのだ。誰も気づかない。そんなこと。暗部はつまり影である。里の汚い仕事を無言で引き受け、遂行する。太陽を浴びて、青く茂る木の葉の下で。

「昨日の忍達は病院に運んでおいた」
「何故お助けになったのですか」

シモクの目が細められる。病院にいるという忍を思ってのことだろうか、軽く馬鹿にしたような薄ら笑みだ。

「死んでもよかったのに…死んだところで代わりは効きます」
「…口が過ぎるのぉ奈良シモク。木の葉に必要のない人間なんておらん。そうだろう?」
「枯れ果てた葉はどう有効利用できますか?」
「はーっはっは!できるできる!ほれ、秋にはサツマイモが焼ける!あれは枯れ葉でないとどうにも味が違うからのぉ」
「…サツマイモ?」
「枯れた葉こそ味がでるものよ。」
「あの者達は弱い立場の人間を貶めないと気が済まない連中です。忍と名乗るのすらおこがましい。」
「…お前さんは、その連中とそっくりそのままやって見せたろう」
「…え?」

自来也が軽く笑う。不思議そうな顔をする彼に向かって、人差し指を向けた。

「"弱い立場の人間"を散々痛めつけたろう?」

暗部と中忍。立場は一目瞭然。喧嘩を売られて買った。それは、同じこと…?

「違います。」

シモクはきっぱり言い捨てる。

「奴等と俺が違うこと。それは痛みを知っているか、知らないかです。自分自身の中傷など気にしませんが、あまりにも発言が幼稚且つ浅はかだったもので」

シモクはまた薄ら笑って軽く会釈するとふらふらと歩き出した。

「…痛み、か」

「兄貴!!!」

向かいから駆けて来るのは…あれは…そうだ、奈良の末っ子だ。あの耳に輝くピアスは本物。やはり長男を差し置き、16代目を継いだか。

「昨日といい、今日といい。いい加減にしろよ。」
「何処へ行こうが、勝手じゃないのか」
「へーへー。わかったわかった。戻るぞ、まだ本調子じゃねーんだから」

どっちが兄なのか。呆れた顔でシモクの手を引くシカマルは、それでも浮かない顔である。自来也は以前のシモクと話したことはないが、綱手といいシカマルといい。本当に優しい青年だったのだろう。暗部にとって感情は邪魔なものでしかない。木の葉には、根のカリキュラム同様の措置をとってきた過去がある。拭いきれない。人の道徳を無視した事も、一つや二つじゃない。ましてや自分はその時代で育った。忍とは、耐え忍ぶ者。…長門と同じだ。弟子の一人である長門も、優しい忍だった。雨隠れの同じ戦争孤児であった小南と弥彦を大切に思い、守りたいと言っていた。

「優しい忍というものは、他者の何倍も傷つき易いからのぉ…」

皮肉な事に。傷つけられれば、憎しみを覚える。逆に人を傷つければ恨まれるし罪悪感にも苛まれる。その痛みを知ってるからこそ、人にやさしく出来ることもある。それが…人というやつだ。

「だが、奴は別格じゃのぉ」

話を聞く限り、中途半端な形で終了したカリキュラムは彼が持つ強靭な精神力を侵し尽くすことができなかったのだろう。だから、半端に奪われたも同然な、善悪の区別が曖昧なのだ。善悪のつかない忍は危険である。味方をも手にかけたのならば、火影に報告する義務がある。奴が、火影直轄暗部の重鎮ならば特に。

「…不憫な事よ」

里の為に人格をも変えられたのに、更にそれは危険だと恐れられ、脅威とされる。綱手に限ってそれはないだろうがお払い箱となった場合を考えたら、まさに里の犠牲としか言いようがない。散々人に強制的に介入された人生とは、果たしてどのようなものなのだろう。果たしてそれは、生きているということになるのだろうか。なにもかもの判断権利を奪われ、意思を失ったその人は。生きていることに、なるのだろうか…。


「おいおい…サクラちゃんまじなの?まじなのあれサクラちゃん」

毒を体内から抜くことは、かなり高等な医療技術だ。あの程度の診察でここまで鮮明に毒を分析できるなど…さすが三忍の弟子、綱手様の弟子だ。感服する。鳥肌が立つくらいだ。技術で言ったら、シナガ先生と互角かも…。

「さすがだなぁ…」

砂の老人2人と、カカシさん、ナルトと椅子で座り待っていた。

「なぁ、カカシ先生、さっきこの婆ちゃんが言ってた、白い牙って、どんな人?」

先程、この隣の婆さんがカカシさんを白い牙と言って襲い掛かったのだ。多分この人の息子は第二次忍界大戦のとき亡くなったのだろう。木の葉と同盟を結ぶ前の話だ。

「どんなと言われても…そうだなぁ一言で言うと……俺の父親だ」
「!!」
「お…お主、白い牙の息子か…!」
「あ、はは…」
「通りで…良く似とるわけじゃ…」
「はは、は…」

ナルトは多分察することができていないだろうが、つまり、あれなのだ。仇の息子が目の前にいるっていう状況なんだ。人違いでもなく。血縁関係があれば、こう…ほら。あれだよ。末代まで呪って…、とかあるじゃないか。俺だったら気分悪いねぇ…仇の子どもが目の前に、だもんな。




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