07.届きはしない星なのに
あれから6年。新は20歳になった。シモクの事も聞いた、暗部になっていたこと。あのときの男は、はたけカカシは暗部の先輩忍者であったこと。そして…
「シカマルゥゥゥゥゥアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
「朝っぱらからうるせーんだよ!!!シモク!!!」
晴れ晴れとした今日は、シカマルのアカデミー卒業の日だった。父兄として参加したシモクは人目もはばからず号泣。なにに号泣したのかは謎だが、シカマルがそろそろ本気で可哀相になってきたので隣りの馬鹿をひたすら黙らせていた。いくつ歳を経ても性格までは改善されなかったのは痛い。
「ネジの卒業が懐かしい」
日向の白眼はレアだ。探知系の忍はこと任務に置いて重宝される存在。彼の昇格も、先のことではないだろう。なによりネジはこの6年、ひたすら技を磨き、鍛え、驚くほど強くなっていた。新こそ中忍から上忍に昇格し、多忙を極めていたためにネジを見かけることは少なくなっていたのだが…。
「てかシモク、お前任務入らなかったのか?」
暗部に休み少ない。ましてやこんな朝から堂々と人混みに紛れて泣きじゃくるとは…。顔から察するに休みではなかったらしい。確かに、上を見ると伝令を告げる鷹が空をクルクルと旋回していた。恐らく、あの鳥は暗部の者だけがわかる伝令なのだろう。
「新、一生のお願いだ、このカメラとビデオカメラを託す、これでシカマルの
勇姿を収めてもらいたい」
キリッと効果音のつくような。顔はいいくせにこういう…変態チックなこと言いやがる。お前はなんだストーカーか。……兄弟だったな。
「ついでに誰が担当上忍なのかもレクチャーしつつ、同じ班になる子達も探ってください
お願いしますじゃあ俺行ってくるから」
長ったらしい前置きを置いてシモクは印を組むと瞬身で姿を消した。
「…うん、お疲れ」
何が悲しくてシモクのお願いなんぞ聞かなくてはならないのだ。持たされたビデオカメラはそこらへんに丁度良く立っていたアスマさんに渡した。
「なんだこれ」
「ビデオカメラ。それでシカマル撮っといて」
「あぁ、シモクか?」
「また面倒なもの一気に押し付けやがって」
もう任務に馳せているであろうシモクの姿が脳裏に浮かんだからボコボコにしてやった。…この卒業を喜ぶ温かい場所から、いつ死ぬともわからない場所に行くのはさすがに辛いものがある。最初から任務にでなければならないシモクもそれをわかって卒業式に参加したのなら本当にシカマルが大好きらしい。身体だけでかくなり、暗部と平行して生きてるその心はかなりズタボロだろうに。
「おうネジ!」
変わらずクールな顔してるネジ。発言もクール、態度もクール。いつかドライアイスになると思う。いや、もうドライに染まりきっている。
「で、どうだ?班には慣れた?」
「……………煩わしく、暑苦しい奴と一緒だが、まぁそこそこ。」
「?」
暑苦しい奴、とは…ロック・リーという少年とマイト・ガイという担当上忍だという。嗚呼。うん。新もガイさんには色々焚きつけられることがあるが…確かにあの人は暑苦しかった。その弟子だというリーという少年も、さぞかし暑苦しいことだろう。クールドライなネジには少し、いやかなり苦手なタイプだ。そしてテンテンという少女合わせて第三班。周りより一期上のメンバーだし、ガイもネジもリーという子もテンテンという少女も前に資料で見た時には全員が体術に秀でた接近型のチーム編成だ。なるほど、それでガイさんというわけか。体術でならガイさんは忍の中でもツートップである。
「仲良くなー、この先中忍試験もこのメンバーで挑むんだからな」
「わかっている」
昨年、ガイさんはネジ達を中忍試験に出さなかったらしい。なにかを思ってのことなんだと思う。一匹狼タイプのネジ。"日向家始まって以来の天才"そう呼ばれている。昔。新にとっては親戚、ネジにとっては父であるヒザンさんが嫡子のヒナタ様が誘拐された際に宗家のヒアシさんの身代わりに殺されたことから宗家をことごとく恨んでいる。才がありながらも分家に生まれたという運命。自分より遥かに劣るヒナタにも露骨に態度を豹変させるのだ。"人生は変えようもない運命に支配されている"そう言いたげな顔で。
「ネジ、俺もお前も変われると思うよ」
「?」
「俺は…そうだな、白眼は確かに受け継がれた。ただネジよりも力はないし、柔拳さえもお前に劣る。それは俺が宗家よりも分家崩れだからだ」
従弟関係である天才、ネジに劣るなら、まぁ仕方ないといわれるのだが、自分はそうは思わない。新もある意味この生きてきた中で確かに運命は変えようもないのだとそう思っていた。
「宗家を見つめてたネジだけど、俺なんて分家を見つめてたんだぜ?わかるか?分家の誰よりも劣ってたんだよ俺は。」
天賦の才を受け継いだネジを恨んでるわけではない。ただ、嫉妬していないといえば嘘になる。
「でもさ、こんなこと思ってた俺でも変われたんだよ」
もう一人の、落ちこぼれによって。
「奈良シモク。あいつすんげぇ落ちこぼれでさ、頭は…たぶん悪くはなかったけど
要領の悪さといったらなかったな」
ネジは朝、新の隣でひたすら号泣して叫んでいた背の高い青年を思い出した。たぶんあの人だろう。
「俺よりも落ちこぼれなのに、笑顔でさ、なんか…考えるのも馬鹿らしくなったんだ」
あいつの馬鹿さに、毒気を抜かれた。
「俺が変われたように、ネジ。お前もきっと自分自身の呪縛から解放される日がきっと
来ると思うんだ」
「……オレは…」
ネジはそう言うと固く口を閉ざした。初めて聞いたのだ。新の本心が染みた言葉を。分家の誰よりも劣っていた。そんなこと思ってもみなかった。いつも自分の斜め前を行くその後ろ姿を自分は追いかけているつもりだった。なのに、目の前の新はそんな疎外感をずっと抱えていたというのだ。なにを、言えばいいのだろう。
「……よし、飯食いに家帰っぞネジ!!今夜は俺も作ってやるよ! なーに作ろうかーなー」
言いながら帰路を進む。その背中を見つめてネジもまた一歩一歩進み出す。そんな小さな気配を背中に感じて。