惨死の夜



※「見守ってた」より。グロい表現が入りますよ!注意して下さい。ほんのり♂×♂表現注意


「…わかったな。カカシ」
「ええ。承知しました」
「時に火影様。増援が俺一人でいいんですか?…暗部の任務にしては、足りなさ過ぎやしないでしょうか」

任務の説明に頷いたカカシは、ふと顔を上げて机に両手を組む綱手を見つめた。今回、任務に呼ばれたのはカカシのみで。それも暗部の任務の増援だ。普通、増援といえばフォーマンセルが基本形だ。なのにカカシ一人ともなると。

「心配はいらん。既に敵は片付けてある。先程も言ったが…お前の任務は生き残ったその暗部と連携し、死体を回収することだ。」

他の暗部や忍に任せなかったのには、理由がある。

「…お前が行けば、奴も少しは安心するだろう。」
「…生き残った忍とは…まさか」

ぽつ、ぽつ。雲行きが怪しいと気付いた時には、もうぱらぱらと疎らに雨が降り始めていた。



雨の音が静かな山中響いた。動物も、忍達の攻防の音に避難したのだろう。生き物の気配を感じなかった。山が白い霧で覆われる。細かい雨が全身を隙間なく濡らしていく。苦無を握る手には最後の敵を刺し殺した時に付着した血がどろりと、こびりついていた。そしてその苦無を敵の喉から引き抜けば、ぴゅっと、血が返った。…迂闊、だったのだ。若い暗部と共にフォーマンセル。まだ任務経験も浅い彼等と共に里の南の防衛塔へ視察に向かっていたのだが待ち構えていたのか百はくだらない数の他里の忍が湧いて出て来たのだ。若い暗部は、即座に斬りつけられ倒れ伏し、残った一人も疲労の末、一瞬の隙をつかれて離脱した…つまり、死んだのだ。孤立無援の中で。影の力と己の限界を突破したシモクは、鬼神だった。化け物染みた速さでリーチの短い苦無を使い、敵の喉元を掻っ捌いたのだ。速さに長けるシモクは暗闇の中、百の敵を一人で相手する事態に立たされたにも関わらず。…穏やかだった。里も家族も弟も。なにもかも手放せる勢いの程。この劣勢で勝てるはずない。嗚呼、死ねる。心の底から強烈な嬉しさを感じたのだ。何度仲間を見送り、自分は生きながらえてきただろう。心臓が抉り出されるように苦しい思いを何度しただろう。死にたい、死にたい、死にたい。なんど自分の生を呪ったことか。シモクの目は貪欲に、死に飢えた化け物で。さあ、殺せと言わんばかりだ。なのに、何度斬りつけられても、何度術を当てられようとも。シモクは、決して倒れなかった。思いとは裏腹に、身体は生きよう、生きようと抗うのだ。
…………気付いた時には。百といた敵が大量に重なり合って死んでいた。まるで水揚げされた魚のようだと、他人事のようにぼんやり思った。疲労困憊な身体で指を噛み、ぷっくりと膨らんだ血をべちゃべちゃに弛んだ地面に押し付けた。口寄せした忍鳥に応援を要請し、概要を手短に記て飛ばした。毎回行う、事務的なもの。今回はイレギュラーな事態だった。無情にも雨に打たれるがままの事切れた忍の額当てを確認した。…草隠れか。
足元がふらついて尻餅をついた。四方八方。死体の山だ。喉を掻っ捌いたので地面に滲む血の量は夥しく、自分によくこんな凄惨な殺し方が出来たと思う。それほど鬼気迫っていたのか。地獄絵図とは、こういうことを言うのかも。雨を通して大量の血が周りに集まってくる。死してなお、呪うかのように。

「ふ、ぐ、っ…う"ぇ、えっ!…ごほっ」

噎せ返る程の血の匂いが鼻腔に充満した。気持ち悪くて、気持ち悪くて嘔吐した。涙が出そうだ。雨はだんだんと雨脚を強くし、跳ね返る程だ。聴覚も奪われるくらいに雨は強く強く降り注いだ。一人分の息遣いも、これなら消されるだろう。やっと落ち着いたところで、また違う苦悩が襲ってきた。また生き残ったまた生き残ったまた生き残ったまた生き残ったまた生き残ったまた生き残った…また生き残った。手にしていた苦無をなんとなく見詰めた。…この苦無で、首を掻っ捌いたら…奴等と同じように、死ねるだろう。霧が立ち込めるここはまるで死へと誘う予兆のようで。ふわふわ覚束ない手で苦無を構えた。雨とは違う鋭利な冷たさを感じた所で…思い出すのだ。この命を繋げてくれたのは?ここまで生にしがみつく理由は?なんの為に、ここまで走ってきた?自分の行動に、今更心臓がばくばくと嫌な音を立ててダイレクトに伝わってくる。生きている音だ。煩わしくなって、苦無を高く上げた。…この音を掻き切れ、今すぐに!!!



「パックン、いけそう?」
「任せろカカシ」

綱手に任務を言い渡されたカカシは向かい雨の中、口寄せしたパックンの案内に従い疾走していた。この雨では急がなければ匂いが消えてしまうと思っていた。だが、目的の場所に近くなるに連れカカシでも分かる程の血の匂いが鼻についた。

「相当殺ってるな」

パックンの言葉に、カカシはなにも言い返さなかった。暫く走り、少し開けた場所で…戦慄した。こんな夥しい数の死体を見るのは久し振りだった。パックンが、無言で煙と共に消える。

「こ…れは」

地獄絵図だ。戦闘痕があちこちに見受けられる。激戦だったのは明らかだ。生臭いような鉄臭さは血の匂いだ。死んだ魚の群れのよう。その真ん中に、人影を見つけた。すぐさま走り寄り、その人物を確定する。

「シモク!無事か!」

面は割れたのか、どこにも見当たらなかった。だが顔にもべったりと血が付着しており、素顔が分からない程だ。苦無を握り込む腕は冷え切っていて、カカシは眉を寄せて腕を擦り上げた。

「…また、…生き残って…しまいました」

ぎゅう、と握り込まれる苦無になんとなく嫌な感じがして取り上げた。後ろに放るとぼてっ、と敵の背中に当たって落ちた。

「俺、死ねもしない…!!」

両手で顔を抑え、冷え切った身体のシモクをカカシはそっと壊れ物を扱うように抱き寄せた。

「違うでしょ。"生き残ってしまった"んじゃない。"生き残れた"んだよ。シカマルや里の為に。よく…頑張った」

薄っぺらい胸板が、嗚咽で引き攣っている。

「…生きててくれて、ありがとね」
「っあ、あああ…!!」

背中に縋り付く腕を感じて思う。俺のすべての熱を与えてもいい。今だけは、人の温もりが少しでもシモクに届けば、伝わればいい。俺が来たよ。お前を迎えに来たよ。ひたすらに藁にも縋るようにカカシにしがみ付くシモクは全身で叫んでいる。その叫びを受け止めるように。カカシも震える背中をぽんぽんと優しく叩いてやった。雨は暫く止みそうにない。シモクの泣き声も当分、止みそうにない。


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