陽だまりみたいに暖かい場所



※『見守ってた』より。BORUTOです。完全にBORUTOのネタバレになります。シカマルが結婚する所から始まり、見守ります。誕生したシカマルの息子シカダイの叔父さんやってます。


悲しい顔、辛い顔、嬉しい顔、怒った顔。何度も見てきた。苛々していたお前に辛辣な言葉とか色々言われたけど、嫌いになんてならなかった。俺の大事な弟。俺の存在を肯定してくれた。そんな大事で、大事過ぎて怖くなるほど。俺にとってシカマルは大きな存在でした。

「シモク、着丈おかしくないかしら」
「ちょっと待って。…母さん痩せたね。でも詰めれば大丈夫。」

皺が増えた母の顔。くしゃりと笑う、その笑顔は父さんが死んでからいつ振りだろう。父さんが、惚れた笑顔。第四次忍界大戦で、父は死んだ。父さんだけじゃない。いのの父、いのいちさんも亡くなった。新の最愛の従弟、ネジも。ネジの事で精神を病んだ新はもう随分と長い間、実家療養している。たまにフラッといなくなればネジの墓にいる。それでも、ナルトとヒナタの子ども達のお陰か、少しづつだが元気を取り戻しつつある。

「あんたも急いで準備して」
「わかってる、だけど今は母さんだよ。…俺よりちゃんとしないと。」

母の余所行きの着物。それは冠婚用で、奈良一族の家紋が背中に小さく染め抜かれていた俺の黒い正装も、背中に縦の真一文字。あとは白いシンプルなタイをつければ完成だ。

「…大きくなったもんよ。アンタ達。母ちゃん吃驚しちゃった。ついこの間産まれたと思ったら」
「それはすごい。俺なんかもう30年は余裕で生きてるってのに。」
「シカク、どっかで見てるわ。きっと」
「…うん、きっとね」

母さんの気持ちは、痛いほど伝わる。きっとこの日、父も参加したかったろうに。だから、父さん。俺がしっかり父さんの代わりを務めるよ。

「来賓はもう来てるの?」
「庭に集まってるみたいよ」
「わかった。母さんは先に行ってて。酒の追加も買ってくるよ。すぐになくなると思うし」

忙しくて、まともに主役と話す時間も取れない。なのに、泣きたい程幸せな時間だった。

「結婚、おめでとうシカマル!」
「さんきゅー、いの」

いのの声が一番大きかった。傍らにはサイもいる。いのとサイはこの間式を挙げたばかりだ。彼女には俺が散々迷惑をかけて振り回した。サイと幸せになってくれて良かったと、心から思うし、選択は間違ってなかったんだと感じれる。いのの笑顔が最大の証拠だ。

「おめでとう、シカマル」
「チョウジ」

チョウジはまだ結婚はしていないが雲隠れの人とお付き合いをしている。これは新生猪鹿蝶が産まれる予感だ。どうか、俺みたいに先に産み落ちたりしないで欲しい。一人は寂しいからな。父の遺影を持って周りに挨拶回りする母に付き添う。嗚呼、小さくなったな母さん。あなたのその活気溢れて、小うるさく感じた覇気のある声はどれだけ俺とシカマル、父さんを叱咤し、励ましてくれたことだろうか。ほんの少しの涙さえ浮かべて息子に祝福を。ふと顔を上げるとカカシ先輩。現六代目火影が相変わらずの猫背で近づいてきた。

「おめでとう。」
「お忙しい中参加してくれて、ありがとうございます、カカシ先輩。」
「うん、大丈夫。…お前はどう?」
「…あっという間、でした。シカマルが俺の手を離れるのは」

縁側、やけに怠そうなやる気のない声。初めての言葉は、"にいちゃん"。俺の聞き間違いでもいい。俺の存在を否定したシカマルは、俺の存在を認めてくれた。小さな手を懸命に此方へ伸ばして。兄ちゃん、と。呼んでくれたね。始めまして、シカマル。最後手を繋いだのは、シカマルが6歳の時かな。その頃から兄ちゃん呼びが兄貴呼びに変わった。俺が暗部に入った時は家族の中に引っ張ってくれた。俺とよく似た顔で笑って。アカデミー卒業の時は一緒にお祝い出来なかったけど、シカマルは帰ってくるだけでいいと言ってくれたね。その頃から、俺は帰還屋になったのかもしれない。中忍試験の時はめんどくせー、なんて言いながらその頭脳が認められて、唯一の中忍に合格した。チョウジ達に散々祝われて照れていた。深緑のベストがとても似合ってた。初めての隊長。サスケ奪還任務を失敗した時。たとえ失敗しても仲間が全員生きて帰還なんて、死ぬ程羨ましかったよ。そして、シカマルが誇らしかった。いいんだよ。生きて帰らせてくれてありがとう、隊長、よく頑張ったな。
俺が拷問部隊に送られる前も。必死に説得しようとして、何度も何度も手を差し伸べてくれたね。シカマルを信じなかったから、真実を話さなかった訳じゃない。もう、解るはずだよ。自分を犠牲にしてでも守りたいものがあったということ。我儘して散々振り回したのに。俺を気遣い、療養に付き合ってくれたこと。そこで俺はお前の成長を感じたんだ。この間中忍になったと思ったら、次は中忍試験、第一次試験の監督官だ。第四次忍界大戦の時も、父さんが死んでからは頭脳を務めて連合を纏めた。悲しかった筈なのに。割り切って。やっぱりお前はすごい。
月が落ちてくるって時も。シカマルはただいつも通りに怠そうに、いってきます。とだけ。それがシカマルらしくて。お前本当に月に行くの?と聞いてしまいそうになったよ。無事に帰ってきたお前は更に逞しくなっていたね。お前の成長を見る度、どうしてだろうな。嬉しい筈なのに。

「兄貴」
「…」
「兄貴、あんたと話したかった。」
「はは。そうなの?」

カカシ先輩が俺の肩をとんと叩いて踵を返した。

「テマリさんは?」
「我愛羅達のとこ。兄貴に伝えたい事があったんだ。」
「そうか」

お互い、大人になったからだろうな。なんていうのかな。この感じ。シカマルは俺の前に回り、姿勢を正して前を向いた。父さん似の顔。背は結局俺を抜かすことはなかった。骨張った手が握られて拳に変わる。唇を噛んでいた。

「今まで…、っ!」

嗚呼、もう。なに目頭赤くしてんだよシカマル。

「今まで、本当、ッ、我が儘ばっか言って…、兄貴困らせて、兄貴の優しさとか、俺わかんなかったから…!」

嗚咽が混じる頃には周りの来賓も、シカマルのお嫁さんである砂のテマリさんも静かに俺たち兄弟を見守っていた。母さんもだ。

「ぜってぇ、傷付け、たり、っ、したけど!…あんたはいつも笑顔で、俺のこと、ッ…」

とうとう決壊してしまったシカマルはぼろぼろと涙を零れさせながら尚俺に向かって言葉を紡ぐ。鼻水垂れてるよ、顔面ぐしゃぐしゃだよ。

「俺のこと!…見守って、くれて…、あり、ありがとう…ござ、ッいました!!!」

腰を折って、シカマルは告げた。まるで父に言うみたいじゃないか。俺…お前になにかしてやれたのか?なにか、お前に兄貴として残してやれた?片手で顔を覆って鼻をずびずび鳴らす。俺もつられてしまう。顔面ぐしゃぐしゃは、お互い様、だね。

「馬鹿野郎、お前は、命より大切、ッな。俺の、俺の弟なんだから…当然だろ…!」

肩を組んで、2人してぎゃんぎゃん泣いた。お互い、話したいことは山ほどあるけど。それは言葉にならなくて。涙となって、相手に届く。お前の兄貴で良かった。シカマル。俺はお前が弟で本当に良かった。

「結婚…おめでとう、シカマル!」

大好きな、弟。手間が掛からなくなって、嬉しい筈なのに。そう母も言っていた。でもね、込み上げるものがあるんだよ。お前は俺の弟だ。おめでとう、シカマル。



「兄貴!!今日テマリも俺もいねーから、ダイ頼むわ!!」
「わかった。…おい、昨日大事な木の葉の開拓計画会議があるとか言ってただろ。寝坊か」
「昨日はナルトと徹夜でそのことについて議論だよ。寝れる暇がねぇ!兄貴、頼んだ!」
「気をつけろよー…ったく、結婚式のあの感動的なあれはなんだったんだよ」

普通に実家暮らしてるだろ。俺は弟夫婦を気遣い、この年で自立し、一人暮らしを始めた。身体が追いつかなくなるまでは暗部の仕事を続けて行く。ナグラさんに渡されたバトンを途切れさせるわけにはいかないからだ。俺が引退する時は、俺の全てを知り、託す若い後輩イヅルがいる。どっちみち安泰だ。

「ダーイ、おはよー」
「おじちゃん!」

シカマルの息子、シカダイ。愛称はダイ。ぱっちりした深緑の目以外は完璧に父親の遺伝子を濃く継いだ。受け継いだのは容姿だけじゃない。

「おじちゃん見てて!かげまねの術!」

シカダイの足元からちょびっとだけ伸びた影は俺の影にくっつくことなく引っ込んだ。引っ込んだ、だが問題はそこじゃない…!

「おおおおお!さすがダイ!この歳でもう影を操れるのか!天才だー!!」

持ち上げて頬擦りすれば「きゃー」なんて言ってきゃっきゃ笑う。昔のシカマルはこんな無邪気じゃなかったから、なんかこう、新鮮。

「今日な、父ちゃんと母ちゃんがいないからおじちゃんと留守番なー」

ダイはさすが男の子というか、この活発な根っこの部分はテマリさんに似ている。俺と体術じみた遊びが好きでばりばり体を動かす遊びが大好きだ。

「じゃあさー、朝はおじちゃんと遊んで、その後チョウチョウといのじん呼んでいい?」
「了解。」

ダイはまだ5つだ。アカデミーまではあと少し時間がある。シカマルに似て。面倒臭がりにならなきゃいいんだけどな。なんて、思ってみる。

「あちしもやりたい!」
「…シモクおじさん、いける?」

数年で、木の葉の里は飛躍的な成長を遂げた。チャクラを媒介とした道具が創り出され、少し前はあり得なかった…そう。新時代へ歩み出していた。火影の顔岩は七代目まで増えていた。木の葉の英雄、忍の英雄、うずまきナルトだ。小さく、少し湿った手が肩をぎゅっと掴んだ。シカマルそっくりな髪が頬に当たる。この間より少し重くなったかな。

「どれ。おいでチョウチョウ」
「ダイ、まだ抱っこ!」
「シカダイはいつもされてんじゃん!あちし会えてないし」
「会えてんじゃん!」

仕方ないな。こういう時、どうすればいいのか俺は知ってる。年取って腕力も微妙に落ちたから、若い頃みたいに立ち上がってできなくなったけど。

「チョウチョウ、いのじん。おいで」

俺が若い頃、昼寝に使っていた芝生はこの子達の遊び場になった。

「おおー、よしよし。また大きくなったんじゃないか?」
「違う、多分それこのデブのせいだ」
「デブですけどなにか?」

このチョウチョウの反応。メンタル弱かったチョウジとは大違いだな。チョウチョウはチョウジと雲隠れのカルイさんとの間に出来た娘だ。秋道家は代々頼もしい体を使った戦闘が得意だ。昔チョウジが体型のことで遠慮しないように、シカマルと同じくらい抱っこにおんぶに色々した記憶がある。チョウジも俺にとっては可愛い弟同然だ。新生猪鹿蝶3人を両腕に抱えながら思う。俺は第四次忍界大戦を生き抜いて良かった。俺の帰還屋は無駄じゃなかった。色々悩んだりもしたが、無駄じゃなかったんだ。

「3人とも、両親によく似てる」
「えー、そおー…?」
「自分じゃよくわからないよ」
「似てるよ、いのじんは特に。お母さんの方に」

素肌の色以外は、いのをそのままちっちゃい男の子にした感じかな。さすがサイといのの子ども。美形家系を築いてる。ダイが肩口をぐいぐい引っ張る。大きな目がものすっごく近くにあって少しびっくり。なに?と聞くとハキハキとした物言い。

「シモクおじちゃん、今日はどんな話聞かせてくれる?前の続きは??」
「えー、続きー?」
「あちしも気になる!そのイケメンとはどーなったの?」
「イケメンって…」

膝の上に乗る3人を抱え直して空を仰いだ。昔一人で見た景色。猪鹿蝶になれなくて。影の力弱くて、周りに蔑まれた。笑うのに疲れたら。決まってここで昼寝した。深緑の草の匂いが俺を落ち着かせてくれたから。でも、今は。

「イケメンの名前教えてあげる。俺の仕事仲間で、誰よりも優しかった忍。どんな時でも、里を裏切ることはなかった、俺の親友。」

頭の上を横切る大きな気球を眺めた。シカマル、乗ってるのかな。手振ってみるか。

「名前は、うちはイタチ。サラダちゃん家のお父さんのお兄さん」
「サラダのパパってあちし見たことないんだよね」
「旅してる人でしょ?」
「火影のために、忍の世界のために奔走するかっこいいパパなんだよ、サスケ君て」
「じゃあ、あの人は?ナグラサンって人。」
「…ナグラさんの事を話すには、少し長くなるかなぁ。」
「イケメン?」
「チョウチョウそればっかり…」
「…あぁ、かっこいい人だったよ」

時代は移り行き、新世代に受け継がれる。確かに俺たちの時代とはもう違うかもしれない。でも、忍は変わらないんだと。どんなに時が経っても、どんなに便利な道具が生まれようと。本質は変わらないんだ。この子達はちょっとマセてるけど。

「あちしさぁ、思うんだよね」
「ん?」
「シモクおじちゃんもそこそこイケメンだよね」
「ええー、イケてない派だと思う」
「シカダイ見る目なさ過ぎ」

嗚呼、本当。俺生きていて良かった。この子達に逢えて、良かった。


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