囁いて微笑



※『見守ってた』より。本編から、奈良主人公がもしイノの告白を受け入れていたら…??こんな日常があったのではないでしょうか。(本編とは関係ありません。)


「シモクさんが好きなの…!!!」

やっと。やっと。伝えたその言葉が、まるで木の葉中に響いたみたいだった。緊張で動悸と、顔中に熱が集中していく。子どもがなに言ってるの、とか思われたかな…。でも、でもね…っ?あたしは…!

「いの…」

ゆっくり、ゆっくり顔を上げた。家族の愛情と同じだとあしらわれるか。ごめん、と突き放されるか。どちらかだと思ってた。伝えるだけでも良かった。小さい時から、遊んでくれる猪鹿蝶のお兄さん。誕生日の日はかならず、甘い甘いケーキを焼いてくれて、今日の主役を沢山甘やかしてくれる。兄がいないあたしとチョウジはシカマルが羨ましかった。シカマルよりも色素の薄い跳ねた髪が好き。長い指や耳の形も好き。鋭いのに甘やかす目が好き。自分よりも他人を助けちゃうのは困っちゃうけど、そんなところも好き。なにより、暖かい笑顔が、大好きなの。

「俺ね…いの。女の子に告白されたことない…か、ら。どうしていいのか、…。」

少し屈んでくれたシモクさんのサンダル爪先を見つめた。あれ…あれ?

「あ、あたしは、シモクさんが、その。好きだけど、シモクさんは…どう、なの?あたしのこと…ちゃんと女の子として…好き?」

沈黙が流れて、耐えきれなくなった。もし顔を上げた先で、困った顔したシモクさんがいたらと思うと。逃げちゃえ。もう、ここにいるのは恥ずかし過ぎる。

「…教えて」

逃げようと足に力を入れた瞬間、シモクさんの声が降ってきた。

「俺、7つ歳上だし、いのが20歳になる頃にはもうオジサンで…それに、なにより…暗部の俺を…なんで、なんで好きになってくれたの…?」

今にも。泣き出しそうな声を鼓膜に捉えて、顔を上げた。形のいい眉を八の字に曲げて、切れ長の瞳は若干潤んでいるようにも見える。嗚呼、どこかで見たことある。幼い頃。シカマル達と遊んでいた。女の子はあたしだけだったからシモクさんがやけに心配してシカマル達に言いつけていたのを覚えている。いつもはあたし達が少し遠くに行く時は必ず付いてきてくれるけど、新さん達との約束があったみたいで、あたし達は3人で出かけた。お父さんもお母さんも知らない、秘密の場所だ。シカマルもチョウジも、兄妹みたいなものだ。小ちゃいけど賢くて大人ぶったシカマルと、スナック菓子の袋に手を突っ込み、手を油まみれにさせる、子ども相応なチョウジ。日が暮れる前に帰ろうとしていたけど、急な夕立ちが酷くて帰ろうにも帰れなくて。最初に泣き出したのはチョウジだった。怖いとかそういうんじゃなくて、お腹減ったとかそういうのだったけど。幼いあたし達は、その涙に感化されて。シカマルでさえ真一文字に結んだ口元と懸命に堪える目から雨じゃない雫が落ちていた。結局、大泣きしたあたし達3人の声を聞きつけて物凄い速さで駆けつけてくれたシモクさんに保護された。新さん達との約束を中断して探し回ってくれていたんだって。お父さんから聞いた。あたし達を見つけた時のシモクさんは、あたし達と同じように涙を浮かべて抱き締めてくれた。シカマルが一番泣きじゃくってた。

「…あたしは、シモクさんが大好きだから。シカマルやチョウジと同んなじじゃなくて、シモクさんの特別な女の子になりたい。」

優しいお兄さんは、いつも男の子が独占しちゃう。戦いごっこも岩登りも好きだけど、でもあたしは男の子じゃない。そんなあたしに気を利かせて、シカマル達が岩登りをしているのを見守りながら、花冠を作ってくれた。母親から教えてもらったって。なんで?って聞いたら

『いのは女の子だからね』

…恋に落ちないわけ、ないじゃない。歳上の男の子は紳士的で優しい。それはシモクさんが大人だったからだと思う。

「暗部とか、いいの。それを抜きにして欲しいの。周りの環境じゃなくて、あたし自身を見てほしい…!」

シモクさんは、きっと周りが気になる人。優しい人だから、あたしの為になることを考えている。

「何度だって、言うから!あたしは…っ!シモクさんが…大好きです!!」
「…泣かなくたって、ちゃんと届いてる。」

ぽん、軽く乗っただけなのに、どうしようもなく暖かい。

「俺は暗部で、シカマルの兄で、7つ年の差ある。…それに俺は曖昧な性格だからきっと不安にさせたり、苦労させたりする。そんな俺でも好き?」
「…大好き、大好きだってばー!」

試すような言葉にむっとして、大声で返せば面食らった顔から、破顔した。暖かい笑み。

「……、俺の彼女さんになってくれますか?」

嬉し過ぎて、言葉すらでてこなくて。シモクさんが差し出した綺麗な掌を両手でぎゅうぎゅう握って首をひたすら縦に動かした。



「あだまいだい。」
「げ。二日酔い?また?」
「うんー…昨日はカカシ先輩とサクラさんに捕まった…サクラさんて、いのの親友でしょう?…なんとかして…」

手入れの行き届いた金糸がソファに寝転がったシモクの頬を撫でる。今年で30になったシモクは日々の訓練の賜物か、衰え知らずの体躯。元々童顔なのも合間って四捨五入すれば三十路だと誰も気が付かない程に若々しかった。

「サクラって酒豪よねぇ。」
「そうだね」
「でもサクラと飲むなら連絡頂戴。変な勘繰りしちゃうんだから」

いのは頬をぷくりと膨らませた。サクラからはイノブタと揶揄される顔だ。顔を覗き込むように屈む、いのの膨れた頬を両手の人差し指で突ついてやれば鮮やかな紅の乗った唇から空気が漏れた。

「ちょっとー。あたし結構いじけてるんだけど」
「ごめんごめん。」
「マムシ酒買ってきてやる」
「ごめんなさい」

カッと目を見開いたシモクは心なしか指先がカタカタ震えている。蛇が苦手なのはもう知っている。

「店番できそう?」
「うん、任せて。」

むくりと起き上がったシモクはいのに笑むと紺色の着流しに男性用のエプロンを慣れたように頭から被った。店内の花桶を見つめたあと、驚いたように声を上げた。

「いの!いの!花枯れてる!どうすればいいんだっけ!?切るんだっけ!?」
「慌て過ぎだから!」
「…前に言ったでしょ?命には、敏感なんだって。」

シモクは暗部を退いている。教えること全てを後の若い暗部達に。またイヅルに授け、山中家に婿入りした。突然の寿退社にイヅルは目を白黒させていたが、最後にはほんの少し笑みを浮かべ、祝福の言葉を述べたのだった。暗部を退いたばかりの頃は平和とのギャップに慣れず、ヒステリーだって起こした。急に泣き出した事もある。かなりのかなり苦労したが、いのは勿論、弟のシカマルやチョウジ、サクラに新のお陰でやっと慣れ始めた。この平和な日常に。人の死を散々見てきたシモクにとって、花も命である。

「俺といのが、一生懸命育てた花だしね」
「…ちょっとだけ恥ずかしくない?」
「恥ずかしいから、流してほしかった…」

一緒に屈みながら、他の花にも異常がないかチェックした。横から伸びてきた骨張った手が花桶から一本花を抜き取った。商品なんだけど。と言ってもどこ吹く風。長い指先が器用に動き、茎がしなやかに曲がる。

「あの日いのが告白してくれなかったら、今もきっと俺は迷子だった。」

黄色のヒヤシンスの花はいのの左手薬指。シルバーの指輪に重なるように添えられた。

「俺を見つけてくれてありがとう。俺、とっても幸せだ!」


黄色いヒヤシンスの花言葉は「あなたとなら幸せ」


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