幸せになろうよ



※『見守ってた』より。お馴染みの奈良主人公が♀になってます。一人称、言葉遣いは変わりません。シカマルのキャラ崩壊があります。イタチ生存の完璧なるif世界。


「イタチ!!イタチ!」
「なんだ?」

木の葉舞う里を一人、漆黒の少年を追いかけた。くるりと振り向いた少年は穏やかに笑みさえ浮かべている。

「シカマルがな!シカマルがっ、」
「落ち着け。」

余程嬉しいことがあったのだろう。焦茶色の髪が乱れている。指先で整えてやった。何時もの事だが、そんなイタチに更に気を良くしたのか太陽のように輝く笑顔を見せた。

「シカマルが、中忍に昇格したんだ!!」
「おめでとう。」

イタチは木の葉の上忍であり、うちはの警備部隊だ。当然シカマルの昇格も聞き及んでいる。イタチに飛びつきながら全身で喜びを表現していた。今回の中忍試験で飛び抜けたのはシカマルだけだったのだ。

「すっげー嬉しい!」
「シカマルにも言っておいてくれ。これからよろしくと。」
「自分で言いなよ。それくらい」
「いや、俺とシカマルは…」

曖昧に黙ったイタチは察せと言わんばかりだ。"彼女"…シモクは小首を盛大に傾げるのみ。

「あ!イタチ、これから餡蜜食べに行こうとしてたんだけど付き合ってくれない?」
「またか。太…」
「ダイエットは明日から。行こう!」

腕を引っ張られる。なにを言ってもどうせ連れて行かれるのだ。彼女の背中を見れば忍服には縦一門。奈良家の家紋が刺繍されている。奈良家は影を操る一族で、木の葉の里を守る重鎮でもある。猪鹿蝶のスリーマンセルで行う戦闘は実に鮮やかだ。だがシモクにはうまく一族の能力が受け継がれなかった為、奈良家では落ちこぼれだ。7歳年下のシカマルに頭脳も影真似さえ劣る。自分が平凡以上の才を持っていることは周囲の期待と言動で幼い頃からわかっていた。だからこそ、その反動というのか。努力を重ね続ける姿に魅せられた。3つ程歳は離れているが、シモクはお高く留まらない。だからこそ平等な態度で接せられる。居心地が良かった。

「餡蜜一つ!あと、みたらし団子!」

店員の女性に告げると、今尚ニコニコ。シカマルの昇格が本当に嬉しいのだろう。シモクの白く、艶のある頬が団子に見えてくる。この前それを本人に言うとぶっ叩かれた。

「シカマルはやる気ないし、アカデミーでも面倒臭いからって下位の成績で。本当心配だったんだ。」
「俺たちの心配など無用に、どんどん手を離れるからな。」
「サスケ君のことだね」

イタチはほっこりとした柔和な笑みを浮かべる。サスケはイタチの弟でクールビューティーな男の子だ。イタチと同じく才能を持ち、昔少々拗れたらしいが今ではシカマルと同じく木の葉の中忍だ。

「サスケ君…かぁ」

察して欲しい。そういう目で見ても、天然なのか、はたまた変なところで鈍感なのか。小首を傾げたのはイタチだ。

「…あのさ、イタチ」
「ん?」
「サスケ君って、俺のこと嫌い?」
「そんなことないとは思うが。あと女の子なんだから一人称を改めろ」
「いや、なんか。この前イタチと一緒にうちは地区に行ったでしょ?」
「あぁ。」
「その時すっごい睨まれた。」

イタチはそう?と視線を投げかけては思い出したように口を開く。

「そうだ、俺も聞きたいことがある。」
「なに?」
「シカマルは…俺のことをよく思っていないのか?」
「え?そんなことないとないと思うけど」

そう、お互い察して欲しいのは…自分の弟達のことである。シカマルと、サスケ。シカマルは同期生組によるとかなりのシスコンであり、本人無自覚な所がかなりタチが悪いらしい。イタチが感じているのはその無自覚シカマルの念視だ。ふと、視線を感じて顔を上げれば恐ろしい程の無表情でこちらを見ているシカマルがいたりする。…もう一度言うが、本人無自覚である。そして、サスケに至っては父母より幼い頃から一緒にいて、尊敬する。大好きな兄を取られる気がしているらしく、なにかと出会えば親の仇のような目で見られてしまう。あの、可愛らしい顔に怒気色が混じるのは良心的に痛い。イタチの父と母であるフガクとミコトは友好的に接してくれているが、サスケだけはシモクを拒絶する。こちらは完全なる拒絶。

「うーん、どうしてだろう?」

イタチはなんとなく察しはついていた。大方、シカマルは俺がシモクに近づくこと事態を良しとしていないのだろう。姉を俺に取られると思って。ぼうっと空を眺めている目が、視界の端に少しでもシモクが入ったらすぐに気付いて見つける程だ。確シカマルが産まれてからそれなりに色々あったらしいが、妬ける程彼女はシカマルが好きだ。

「お待たせしました。餡蜜とみたらし団子でございます…あれ、シモク。」
「新!なにしてるの?お手伝い?」
「うん、ここのおばちゃん一昨日から腰悪くしててさ。お節介で俺が手伝ってんの」

日向新はシモクの戦友で下忍からのチームメイトだ。日向の美形は受け継ぎ、シャープな印象。新はイタチに気付くとニッと笑う。

「こいつ鈍臭いだろ?手焼いてない?」
「…またそういうこと言う」
「ははっ!イタチみたいな奴がこいつ貰ってくれたら俺もオクラも安心するのにな」
「ぶはっ!」
「おわっ!なに!水いる?」

シモクが盛大に噎せた。

「大丈夫か?」
「…っいい加減なこと……い、言うな!馬鹿!」

トイレ!と勢い良く立ち上がり、肩を怒らせて店内の角に消えてしまった。

「っ…く、ふふっ!イタチ見たかよあの顔。真っ赤っか!」

腹を抱えて笑い転げる新。そんなにおかしかったのか、涙まで浮かべている始末だ。

「あっはは…いや、本当。あのシモクが乙女な顔になるの見ると面白くてさ」
「乙女…ですか?」
「うん、長いことチームメイトやってるから分かるんだけど。シモクって今まで弟命で突っ走る男女みたいな感じだったんだ。だけど」

新は笑うのをやめて、少し体を屈めた。その顔に浮かぶ笑みがからかっているのではないと、すぐに分かった。

「シモク、お前と出会って変わったんだ。…これからも。あいつをよろしく頼むな」

真摯な顔に、思わず首を縦に振る。新は満足したように笑みを深めた。



「あーもう。折角の餡蜜だったのに。新のやつ…」

帰り道で零れた言葉は新への小言だ。

「あ。猫。…いやん可愛い」
「いやんはやめろ」

滅多に動物に懐かれないシモクは嬉しそうにしゃがみ込み、三毛猫の頭から背中を撫でた。顔に似合った可愛いらしい鳴き声。新に言われた言葉を思い出す。俺と出会えて変わった?そんなことない。シモクは今でも元気いっぱいでシカマルをなによりも大切に…。"…いや、本当。あのシモクが乙女な顔になるの見ると面白くてさ"…乙女な、顔?自分はあの時、左を向くシモクの顔を隠れた髪で見ることはできなかった。新はばっちり見ていたのに。

「あ、逃げられた」

なにをしたのか、猫に逃げられたらしい。

「シモク」
「ん?………え、なに。」

イタチはしゃがみ込むシモクに右手を差し出した。なんてことない。イタチのこちらをじっと見やる漆の目に引き寄せられるようにその手を取った。

「あの…なに。ちょっと、…な、なんか言えよ」

立ち上がったはいいものの、イタチが手を離さない。かといって言葉も発さない。

「イタチ」
「……なるほど、な。」
「は?」
「顔。赤いって、本当だな。と」

ぼっ。一気に火照る顔に夕焼けの陽が重なる。木の葉にはいつも綺麗な夕焼け色が里を染める。シモクの隠れていない片目が恥ずかしさに耐えるようにぎゅっと固くとじられる。…なるほど。確かに、真っ赤っか。

「一つ言わせてくれないか」
「…なんだよ」
「俺は…」

初めて見た"乙女の顔"は融けそうな程、甘やかだった。



「…は?」
「だから、お前に言っておいた方がいいと思って。」

ふっと笑ったイタチはポンと肩に手を置いた。瞳孔ガン開きのシカマルはその手を振り払う以前にその頭脳のキャパシティを超えたらしい。新品の木の葉のベストが眩しい。

「シカマル。お前の姉さん、貰うぞ」
「………は?」

イタチはじゃあ、と片手を上げてうちは地区へ歩き出した。実家にシモクを置いてきたままだ。本当ならば2人揃って来るべきだが。男には男の清算がある。

「いの!!姉貴がどこにいるのか感知しろ!」
「はあ!?急になによ。ちょっとシカマル!」
「シモクがどうしたの?」
「姉貴ぃぃい!!」
「なに!?なんなのシカマル!?落ち着きなさいよ!アスマ先生ー!!!」

背中で騒ぐ猪鹿蝶の声を聞きながら。



「お友達から始めました!」
「うるさい!」
「みたらし作れるようになります!」
「しつこい!」
「結婚を前提としてます!!!」
「あんたが義姉さんとか、もっと嫌だ!!」

うちは家では腰を低くしたシモクと、全力拒否するサスケが縁側にいた。それを遠巻きに新聞を広げながら時々見守るフガクと、微笑ましいと言わんばかりに優し気な笑みを浮かべるミコトの姿があった。

「サスケ君に好きになって貰える努力をします」
「あんたの存在自体がアウト」
「クールな所も魅力的。」
「黙れ」
「変声期可愛い」
「ぶっ潰す!」
「いやー痛い痛い!」
「可愛らしい子じゃない。イタチ。」

ミコトの柔らかい笑みがイタチを更に穏やかにさせた。家族も、認めている。

「じゃあ火遁やってみせろよ!うちはの人間は火遁が使えなきゃ駄目なんだぜ!」
「できるわけねーだろ!俺は奈良一族だ!影オンリー!」
「シモク、言葉遣い。一人称」
「!イタチおかえり。用事終わったの?」
「兄さん!修行付けてくれる約束だよね!?」

2人してずいっとイタチに近寄るも、サスケとシモクの小競り合いが再び勃発した。

「だめだよ。こらからイタチは俺と甘味処だ」
「うっせ、ブス」
「それショック!」

なんだか、くすぐったい。心の奥がむず痒い。暖かい感情ばかりがこみ上げてくる。そうか、これが、幸せってことなのか。大切な両親と、弟。それから愛おしい彼女と。これからも、ずっとこのまま。願わくば、彼女の隣にずっと居れるようにと。



「シモクが好きだ。仲間としてではなく、生涯を添い遂げたいと思う方の、好きだ」

イタチはそう言ってコツンと額を合わせた。なにそれずるくないか。俺の気持ち知ってて言ってるのか?夕焼けが漆塗りの瞳に反射して吸い込まれそう。そんな目で、こっち見んな。…嗚呼、もう。恥ずかしくて弾けそうだ。

「俺だって…俺だってイタチが大好きだ」


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