幸福の肖像



※「見守ってた」より。第四次忍界大戦終息後、生き残ったシカクと奈良主人公のほのぼの親子話。


「父さん」
「お?」
「そこいい?」

いつもの縁側。いつもの父の背中は将棋の盤に向かって丸まっていた。第四次忍界大戦終息。史上初。忍五大国が力を合わせて挑み、ナルトとサスケらが最大の敵である大筒木カグヤを退けた。カブトによって穢土転生されたかつての友や好敵手は封印し、…二度の悲しみを味わった。悲しみと、仲間との絆が、二足歩行した大戦。夥しい犠牲を払い終息したのだ。

「将棋、上手くなったな」
「シカマルには負けるよ」
「お前は実践がものを言う打ち方しやがる」
「なにも、言わないよ」
「そうか?」

大戦では、父であるシカクが全部隊を束ねる脳の役割を果たした。忍連合の拠点は一度、十尾の攻撃を受けたものの、飛雷神で飛んだ四代目火影、波風ミナトによって全く別の方向へ運ばれた為に無事で済んだのだ。拠点に四代目の苦無を打ち込んだ大蛇丸の機転が功をなした結果だった。皮肉なことに、かつて里に牙を剥き、木の葉崩しを行って忍そのものを改革しようと目論んだ大蛇丸が。結果的に、忍連合の中枢を守ったのである。

「…父さん」
「なんだ」
「また父さんと将棋を指せるなんて思ってもみなかった。次こそ本当に死ぬと。そう、思ってたんだ」

ぱちり。

「穢土転生者の中に、俺が帰還屋になった由縁の人がいた。俺の恩師だ。」

シカクは盤を見たまま口を閉ざした。シモクに暗部としての矜持を教えた男だ。そして、暗部への可能性を示唆した男でもある。

「俺はずっと忘れなかった。彼らの隣に最後まで立てず、一人生き残ってしまったことが。その事実が…でも、言ってくれたんだ。」

ー 俺たちの背中は、もう追うな。お前は立派になった。自分の道を、進んでいい。誇りを持って、生き抜いてみせろ。見守っていてやる

「…もう、人の理を外れない。俺は俺で、奈良で、シカマルの兄貴で、火の意志を継いだ火影の直轄暗部部隊の、奈良シモクだ」

顔を上げたシカクは、思わず口角を上げた。曇ってなどいない。真っ直ぐな目だ。何者にも侵されることのない、そんな真摯な顔に浮かんだ笑みは穏やかなもので。幾多の死を受け入れ、幾多の棘を通り抜けた。その先を生き抜いた人間にしか出来ないような、そんな笑顔。…そんな、視線向けられてみろよ。嬉しくて嬉しくて、…目の前が滲む。

「暗部を続けるのかって、話したのを覚えてる?」
「あぁ」
「俺はやめないよ。」

どれだけ汚職と言われても。どれだけ畏怖されても。どれだけ血を被ろうと。

「だって俺の生きた証だから」

あの場所で…色んなものを見て。学んだ。何人もの人間を看取り、集め、墓前に参り。右も左も分からなかった、暗部という存在を思い知った。木の葉の影を担う、表には決して出ることのない存在。そんな場所で、俺は確かに生きていたから。辛いことも、苦しいことも、言葉にならない痛さも知った。あの場所で。

「身体が限界を迎えるまで。俺は暗部に従事する。その先は、その時考えるよ」

カラッと笑い声を上げたシモクに口角を上げながら最後の一手を盤に打った。

「もう迷うわけにはいかないから。」

イタチのことも、ナグラのことも。全てを受け入れ抱える。

「父さんにも母さんにもシカマルにも、ちゃんと堂々胸を張らなきゃ」

捻くれて、擦れて、妬んだ。反抗という反抗はしなかったけど、心の底で恨んでた。なんで俺が…って。思わざる得なかったんだ。

「父さん。生きてくれてありがとう」
「…そりゃこっちの台詞よ。」

父の顔を真っ直ぐ見れる。嗚呼、やっとやっと、伝えられた。

「シモクー、シカク、ご飯ー!」
「おー!続きは飯食ってからな」
「今度は勝つからね」
「一丁前になに言ってやがんだ」
「そういえばシカマルは?」
「砂の嬢ちゃんの所だとよ」
「…複雑…」
「まぁまぁ、飲めや」

…背高くなったな。昔はあんなにちっこくて細っこかったのに。いつからか声も低くなって、忍としての矜持を覚えて。今じゃ他里にも顔が効く木の葉の帰還屋だ。俺はお前を暗部に推薦したことを後悔した。うちはイタチ、ダンゾウ。その他にも色んなことがあって何度も壊れかけたな。だが、その度ちゃあんとその足で帰ってきた。そういうところが、母ちゃん似だ。俺にもシカマルにもない、シモクだけが持つ強さ。それをずっと見てきた。そうしたら、暗部で咲きやがったんだ。お前は弱くなんかなかった。こーんなちっこい頃から、強かったんだな。今更になって再確認した。

「…なに、ニヤけてるの」
「いやぁ、俺の遺伝子からこんな奴が出てくるなんてな、と。」
「なんだそれ」

遅くないよな。今からでも。親子の会話をしよう。


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