痛みある真実



※「見守ってた」より。


「難民保護の任務は、本来なら裏方回りの暗部が行うものなんだが木の葉は九尾事件で多くの忍を失った。」

シナガ班が結束してから、時は過ぎ。中忍試験の話題が持ち上がる季節。シナガは最初の頃より成長した3人の生徒を見つめ直した。元々高かった身長が更に伸び、体格が逞しくなったオクラ。日向家の美形をそのまま受け継ぎ、独自の修行方で広い視野を持つことに成功した新。華奢で頼りない印象はすっかり消え、しっかりとシナガを見据えるシモク。成長とは、早いものだと思う。染み染み感じながら、この任務が終わったら話そうとしていることがある。中忍試験参加への意思確認だ。最初、どんな小さな事にもやたら衝突する生徒達に不安になったものだが、やはり男は拳で語り合うのが一番だったらしい。目の前の少年達のチームワークは、中忍試験に出せるほど完璧だった。推奨したアイコンタクトをあの手この手で3人全員習得し、連携技も使えるようになった。演習で嵌められた"囚人作戦"とやらは本当によくできていた。躱してやったが。なにより、個人個人の技術が格段に上がったのだ。オクラは様々な動物と契約を交わし、更に土遁を極めた。そしてどこでどう鍛えたものか、チャクラ量を増やしたらしい。伸び代のある柔軟な吸収力に舌を捲く。新は劣っていると言われた白眼を独自の方法で鍛え日向家きっての視野の広さを得た。それと共に強力防御である回天を取得した。影が上手く使えないシモクはその頭脳を使った戦闘スタイルを確立させ、決して目立つことはないが苦無の扱いが圧倒的上達。更に怪我をしなくなった。それは敵の攻撃を見切っているということだ。任務成功率100%。担当であるシナガも、火影にそう言われた時に二度聞き返した程だ。確かに家柄も立派な3人だ。だが、元々のセンスが良かった…などとは思わない。劣等生と言われ続けたシモクと新がここまで成長したのだ。自分達の努力で得た数字である。決して血筋の問題じゃない。

「お前達なら任せられる任務だと、俺もそう思う。だが驕るなよ。お前達はひよっこ。下忍だ。」
「勿論だ先生」
「まずの目標は中忍」
「3人一緒に上に上がるんだ」

3人一緒に。以前のシモクなら、そんな言葉口にしただろうか。にっと笑む顔はまだ幼さが残る。どうやら、意思確認は不要のようだ。

「わかってんじゃねェの」

俺の方こそ、こんなにへらへら笑えたものか。こいつらと出会ってから、顔の血行良くなり過ぎて困る。諜報部にいた頃の同期にも、会う度に二度見される。

「火の国外での任務は初めてじゃないが、今回は難民保護だ。要保護者は見積もって60。俺たちの他にも木の葉の中忍が先導している筈だ。第4班はそれと合流。サポートだ」

国外の人間の受け入れ。名を失った小さな里は大国の戦火に呑まれ、消滅した。難民となった彼らの身を案じて、お優しい三代目が木の葉の里に保護する事を提案。火の国に一番近いという事もあり、人口を増やす為でもあると、上役達も同意した。反乱分子があれば摘み取ることも忘れちゃいけない。新達も、それは既に言わずともわかっている。保護したあと、木の葉内部で反乱を起こされたら堪ったものではないからだ。そのような危険性があると判断された者については、排除が妥当。

「今、中忍達の居場所は?」
「なにせ今回は他国にも秘密裏の保護だからなァ。奴らと連絡を取りながらは難しい。ゆえに合流する為には感知タイプの新の眼が要だ」
「わかりました。任せてください」
「念のため、オクラ。お前も口寄せで鼻の効く奴を一体頼む。」
「承知した」
「シモク、お前は合流したら俺と共に後衛だ。」
「はい」

成長した分だけ、身につけた術の数だけ何通りの作戦も効く。この3人は各々の技術力も高度だ。土遁、水遁、体術、陰遁。4人合わせても中々のバランスである。

「オクラと新は前衛を頼んだ。行くぞ。散!」



「……オクラ」
「あぁ、可笑しいな」

新も眼を通して気づいたらしい。俺の口寄せした犬も反応している。かなり長く走ってきた。木の葉からはだいぶ遠のいた。

「…血の匂いがしやがるってよ」
「…白眼!」

新が印を結び、白眼の精度を更に引き上げる。後衛のシナガ先生も俺たちの変化に気づいたようで、目で「どうした?」と問うてくる。

「シナガ先生、それが…」
「!先生!この先からだ!木の葉の中忍が…倒れてる!」
「なんだと?」

中忍は既に難民達を保護し、木の葉に向かっている筈だ。日暮れから行ってたにしては、やけに進む距離が遅い。…まさか、殺られた…のか…?

「ここだ!」
「おいしっかりしろ!」
「返事して下さい!」

フォーマンセルで行動していたらしい中忍達に声を掛けても、全て事切れていた。一体、なにが…。

「死体を回収するぞ直ぐにだ。此処は合流ポイントよりだいぶ奥地だが、難民と行動を共にしていたことに間違いはない。探すぞ」

死体を巻物に回収したシナガ先生に新が遠慮がちに口を開いた。初めて死体を見た頃はゲェゲェ吐いていたものだが、欠損のある死体を目にしても吐かなくなったのは成長である。

「…先生、こうも考えられないですか?…その、…難民達が…」
「奇遇だなァ新。俺も同じこと考えてた」

…あれ。俺は新と先生を前にして、違和感を感じた。

「…先生」
「どうしたオクラ」
「お前、顔怖いぞ」
「シモクは、どこだ………?」



「っうわああーっ!!」

ドテッ!所変わって、シモクは穴に落ちていた。実は中忍の死体場所に辿り着く前に落ちていたのだが、誰にも気付かれなかったという悲しい尾びれつきである。長い長い穴の滑り台を転げ落ち、やっと地面に落ちてきたのがついさっき。

「っ最悪だ…」

派手に落ちたが、幸い擦り傷程度。腕を摩りながら薄目で辺りを見渡した。穴の中だろうが、人工的に作られたようにも感じる。

「…なんだ、ここ」

チャクラを纏えば壁を伝って穴を出れるだろうが、この空間の奥から光が漏れているのが気になった。もしかして、なにかあって難民達が上忍達と共に避難しているのではないか?ごくりと唾を飲み込んで、気配と足音を消して忍ばせた。松明の光が、ゆらゆらと揺らめいた。扉はなかった為、中にいる人物であろう男の声がはっきりと伝わってくる。部屋の前に身を潜めた。

「にしても木の葉は馬鹿だ。」
「難民だろ、俺たち。嘘は言っちゃいねぇよ」
「はは!確かに!座の里に拾われなきゃ」
「俺たちは無法者の集団だったな」
「にしても弱かったな。あれで中忍かよ笑っちまう!」
「聞いたろ、増援が来るらしい。そいつらはどうする?」
「殺しちまえそんなもん。」
「馬鹿。俺たちが単独で木の葉に向かえば怪しまれる。1人くらい残せよ」

こいつの、目的はなんだ?話を聞くところ、こいつらは難民じゃない上に助けを必要としていない。それに、先導していた筈の中忍を殺した、ということになる。じゃあ、俺たちはこいつらに騙されていたのか…!?…?チロリ。首筋に冷たい物が当たった。というか舐められた。適度な重さでしっとりしてて…。

「う……」

手にとってみて、初めて気づいた。

「うひあああああああああ!!!」
「誰だ!!?」

蛇だった。

「なんだお前!?」
「あっ、白蛇だ!」
「うわああああ!!!!!!!!」
「暴れんな!」

べちん、と床に悪魔を落とした。口を開いて威嚇される。天井に潜んでいたらしい。ああああおぞましい!気持ち悪かったと粟立った腕を摩り上げた所で………はた、と目があった。

「こいつっ!木の葉の額当てだ!!」
「追え!逃すな!!」
「っは、っは!」

まずい、やばい、まずい、やばい。これが新やオクラだったなら兎も角、俺は強力な防御を誇る回天も、口寄せも出来ない。接近戦での戦闘を得手とする俺にとって、中忍を倒すくらいの力を持つ敵数人と戦える程強くない。走っている途中で、白蛇が多く生息している事に気づいた。見ないようにしてひたすら走る。ここはアジトとして使われているらしい。排気口やパイプが剥き出しだ。このままじゃ殺される…頭を回せ!こんな時に回らなくてどうする!ちっぽけな頭でも考えろ!打破する糸口を掴め!

「………ヤケクソだ」

行き止まりまで来て、その壁を殴りながら、ようやく覚悟を決めた。なにもやらないで死ぬより、なにかやってから死んだほうがいい。バタバタ聞こえる足音を聞いて、あまり使って来なかった印を結んだ。できる。俺なら。集中してチャクラを研ぎ澄ませる。

「…影真似の、術!!!」

俺だって、奈良一族だ!

「なんだおい!体が動かねえ!」

敵の持つ松明の明かりだけで、どうにかギリギリ影をつくることができた。これで…いつまで持たせられる。チャクラが限界にきたら、それこそそれで終わりだ。端っこにいる蛇に目を向けた。敵に回している影から、もう一本影を作り出して蛇を縛り上げた。

「っ、ぐぐぐっ、」

ぶちりと影を分断し、未だ影が絡みついたままの蛇は驚いたのか、人工的に作られたパイプの中に引っ込んでいく。この蛇は空気孔を伝って外へ出る筈だ。上に先生達が居れば、上手くいけば気づいてくれる。望みを掛けた。

「耐えろお前ら。このガキそう長くは持たねぇよ」
「っ…お前たちは、どこの里だ!保護難民と聞いていた!」
「俺たちは里無しだ。座の里に雇われたんだよ。」
「!…目的は!」
「木の葉の内部からの破壊だ。お前らんとこの火影も馬鹿だろ。あんな情報のフェイクに嵌るなんてよ!甘ったるいっつーか、なんつーか」
「火影を馬鹿にすんな!お前らなんかに語る資格はない!」
「!おいアニキ。影が」
「あぁ、もう持つまい」
「さぁて、お子ちゃまはお寝んねの時間だぜ」

…くそ、チャクラが…!殺られる…!!!!

「土遁!地割れの術!!」
「水遁!大濁流!!」

本気で、もう終わりだと思ったその時。天井に大きな亀裂が入った。その直後、大量の水が流れ込む。ガラガラと崩れる岩。

「回天!!!」

チャクラの塊が俺の上を回転して岩を弾いた。

「やはりここにいたかシモク!無事か!?」
「蛇の信号、見事」
「後でこってり絞ってやっから、今はこいつら捕縛すっぞ」
「!先生!オクラ、新!」

新達だった。信じてはいたけど、こんなに早く見つけてくれるとは思わなかった。俺の上を守ってくれた新は、すたんと着地した。水が流れ込んできた穴からシナガ先生とオクラも降りてくる。この水は先生の水遁だったみたいだ。

「でも、悪ィな」

降りてきた穴を見上げる。

「向こうの敵も連れてきちまったわ」
「木の葉の忍だ!」
「やっちまえ!」

このアジトにいた里無しの忍。確か、おおよその数は60と聞いた。

「おい。里に戻ったら総出で火影に文句つけるぞ。どんな貧乏クジだァ?これ」
「要は、倒しちまえばいいってわけだな!」
「先生もいるから、心強い」
「シモク。影を貸せよ」
「…はい!」

先生の合図で俺以外の3人が上と下の敵に向かって走る。さっきも出来たんだ。次も、きっと出来るはず。神経を研ぎ澄まし、ありったけのチャクラを影に混ぜ込んだ。俺の足元から一斉に広がった影は薄くて、拘束力があるようには見えなかったけど、一瞬でも隙ができるのなら。

「影縛りの術!」

攻撃力が3人に劣る分、周りをよく見渡せ!

「シモク!」

サンダルに仕込んでいた刃で敵の喉を蹴り上げた。素早く距離を離し、上に行った先生の戦闘が激化した音がする。

「…さぁ、どうするよ」

オクラが拳を掌に叩きつけながら真っ白い歯を剥いた。新の眼に神経が寄る。2人の間に立ちながら、俺はすうっと息を吸い込んだ。

「フォーメーションRだ!」

粗方の敵をなぎ倒したシナガは下で繰り広げられる戦闘を暫く観察していた。一人たりとも、孤独で戦うことをしない。させない。それがこの第4班の生徒達である。チームワークが物を言う、これからの忍世界で。

「こいつらなら…大丈夫だな」

同じ速度で同じ道を進んでいる。3人前を見据えながら戦い進む背中は大きくて。どんな忍になる?オクラは兄貴肌だから、意外とアカデミーの講師が似合うかもしれない。土中家の頭として、口寄せの手練れになるかもしれない。それか、頭が切れるから諜報部もいい。新はあの眼がある。木の葉でもっとも重宝される代物。それを今以上に磨き上げるか。他を寄せ付けない視野の広さで探知部隊も。また、世話焼きな性格だから担当上忍でも上手くいくかもしれない。そしてシモクは、そのまま突き進んでくれればいい。その優しさは、冷えた忍の心を照らす筈だ。中忍、上忍を経て、そして父親みたいに火影の相談役の座に上り詰めればいい。一瞬、シナガの目に、深緑のベストを纏った3人が見えた。立派な背中だ。これから先も、一緒に歩いてくれるのだろう。中忍試験を過ぎれば、俺はもうお前らの担当から外れちまうけど。 師として、上手く教育できたかわかんねェけど。

「捕縛完了ー!!!」
「俺らの勝利だああー!」

穴の中で、幼い笑顔が陽に照らされる。チャクラ切れを起こしてるシモクの肩を身長差がある2人が持ち上げて、シモクの足は若干地面から離れているが、その顔に浮かぶのは嬉しそうな、噛み締めたような笑顔だ。

「……なあ、お前ら」

俺にとってお前達という存在は。

「中忍試験、受ける気ないか?」

弟のようで、子どものようで。眼が離せなくて大切で。

「「「受ける!!!!!!!」」」

一生をかけてでも、見守っていきたい存在なんだ。



「…火影様…どうい、う…」

雨だ。そうだ、今日は雨が降っていた。

「なんで……試験は、4日後なんですよ…」

肌寒くて、指先が冷たい。

「本人は……あいつは、なんて……?」
「…里の為ならばと、笑顔で頷いた。中忍試験の事も話した上でじゃ」
「…違う、あいつは笑ってなんかいない!なんでだ火影様ァ!!あいつは、シモクは暗部なんて似合わねェんですよ!!!」

苦い顔をした火影。窓に打ち付ける雨。室内も曇天色。

「人一倍優しくて、とても暗部に向いていない!あんたは、俺の生徒を殺す気か!?」
「シナガよ」

静かな声色。すうっと、俺の頭に染み込んでくる。

「お前達に与えた難民保護の任務を覚えておるか?」
「、…はい。散々な、任務でしたから」
「お主も知っての通り、難民に扮した奴等は座の里に雇われた里無しの忍じゃった。木の葉に潜り込み、内部から崩壊させるつもりだったらしいがの。」
「………まさか、…っ、」

シナガの中で、すべてが繋がった。そう、可笑しすぎたんだ。火影が、木の葉が。火の国が。弱小である里の偽情報なんぞに嵌るわけがない。だが本当に難民かもしれない、断定はできない。そんな狭間にいたのかも知れないが、疑いも持っていたに違いないのに、まだ下忍のシモク達、第4班を出動させた。本当に救助が必要な難民か、そうでないかを確かめさせるために。戦闘になるかもしれないのに。

「…俺たちを向かわせたのは、暗部でシモクがチームとして動けるかどうか。そして生死のかかった任務で最後まで立ち続けられるかどうかを、見ていたんですね…」

火影はなにも言わなかった。無言の、肯定だった。

「班全体を評価したからこその任務ではなく、あくまでシモクが暗部で使えるかどうか、それを見る為の任務だった訳ですか…!」
「…すまぬ、シナガ」

絶望感がせり上がる。片手で顔を覆い、シナガは歯を食いしばった。あいつらならやれると、この任務は認められたからこそ与えられたものだと思っていた。3人の誇らしそうな顔が歪む。わざわざ敵の罠に嵌ってやった、なんの意味のない任務。シモクの暗部入隊を決定付けた事柄にしか、ならなかった。難民保護という名目は、シモクの査定のおまけにしか過ぎなかったのだ。

「3人一緒に、と言ったんです。あのシモクがチームワークを覚えようとしていたんです。…なのに、何故シモクなんですか!」

「奈良シモクの暗部入隊の話は、1年前から持ち上がっていたんじゃ。して、シカクも悩んでおったが…ついに答えを出したのじゃ」
「っシカクさんは父親でしょう!息子を暗部になど…っ、正気じゃない!取り下げを!火影様…!」

どうか。

「奈良シモクを暗部にやらないでください…!」

その日の内に受けたダメージは、思ったより大きくて。シモクが、俺と火影が話している今、この瞬間も暗部のAランク以上の任務に当たっていると聞かされた時には、もう目の前が滲んでなにも見えなかった。今でも思い出すのは。あの、最悪な最後の任務。俺が事前に調べ上げておけば。シモクが暗部にふさわしくないという事を、木の葉に突きつけてやれたかもしれない。あの任務で、もし3人の連携が上手く出来ていなかったらなんて、そんなことすら考えた。中忍試験前日に告げたシモクの不在。正直俺もその時状況を飲み込めていなかったから、2人にも、曖昧な事しか言えなかった。2人に挑ませた中忍試験は、火影の意向でチームワークを見るテストは筆記で行い、実技試験は個人戦での査定となった。…新はともかく、きっとオクラは悟っていたに違いない。九尾事件から忍が不足していること、戦闘一族の土中家ならば知っていて当然だ。

3人一緒に。それは夢となって、果たされる事もなく。脳裏で並ぶ3つの深緑のベストは、ひとつが欠けたまま。これから先も、埋まることはない。

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リクエストありがとうございます!


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