言の葉の数珠つなぎ



※『見守ってた』より。下忍時代第4班通称シナガ班


「シモクが飛び出さなきゃこんなことになってねぇ!」
「俺が飛び出さなかったら巻物は盗られていただろ!」

…俺たち第4班、通称シナガ班の下忍時代。アカデミー卒業後、始めてスリーマンセルを組んだのがシモクと新だ。男3人の班は他にもいたけど、ここは特に濃かったと俺は思う。だが、嬉しくもあった。俺が2人を繋ぐパイプでいなければいけなかったが、アカデミーの時からなんだかんだ一緒にいる。任務を純粋に遂行しようとする新と、何が何でも。それこそ体を張って任務に赴くシモクは対立することが多く、任務の度にぶつかるのは日常茶飯事。シナガ先生も、宥めることはせず成り行きを横目で見ている。いや、観察している。俺はよく単細胞だとか、ストレートな性格だとか見た目のまま言われているのはわかってるけど正直、この2人より状況判断は早いと思う。それに勘も鋭い方だ。

「巻物が奪われればそれこそ任務失敗だ!巻物を持つ護衛対象も殺されてたかもしれない!」
「だからっ!自分1人でなんでもしようとするな!合図でも送れよ!」
「シモク!新!いい加減にせんか!」
「「うるせぇオクラ!!」」

まだ下忍としてチームの仲は深まってなくて。完璧とは程遠いくらい連携は噛み合わず。…本当に手を焼かされる羽目になった。なにせ、まともといえるのが俺しかいないと思ったから。シモクも新も、年下の弟と従弟がいるのにこの有様…もう少しお互い妥協は出来ないのか。いや、真剣にやってるからこそ対立するのか。それに詳しくは知らないが家庭の事情を抱えるシモクは俺たちの中でも一歩線を引いたような男で、新もその距離感が掴めていないのだと思う。あくまで俺の勘だ。

「うるさいのはお前達だ!任務は成功した!新はお前が心配なだけだ。だから無理するなと言っている。」
「…分かってる…」
「それと、シモクも必死に任務を遂行しようとした結果だ。怪我は負ったが…シモクの機転がなければ本当に巻物は奪われていたかもしれん。だから、もう言い合いはよせ。」
「確かにシモクはもう少し周りを頼る事を覚えろよォ」

黙る2人のそれは肯定の意味と捉えた。お互い任務に関しては意地っ張りで柔軟性がなくなるのはよく理解している。でも、だからこそチームとして。お互いライバルとして良い存在だ。

「じゃあ俺は火影に報告してくっから。お前ら帰れェー」

シナガ先生がやる気なさそうに片手を振った。今日の任務は終わりらしい。

「念のため、診てもらってくるか?」
「いらないよ。大した怪我じゃないし」
「動かなくなってた癖によく言うな」
「なんだと新」
「だからやめろって」

こんなんで、本当に中忍試験受けさせて貰えるのか?まだまだ先の事だが、ずっとこの状態ならもしかして、もあり得る。本当に、心配だった。



「…こいつらに、Bランクを…ですか?」
「お前の言いたい事はわかっておる。シナガ。じゃが先の戦争で手が足らん。下忍には早いかもしれんが、外の任務にあたってもらう他ないのじゃ」

第三次忍界大戦の爪痕は、深い。シナガは頭ではわかっていても、潔く返事を返す事が出来なかった。ただでさえ、小さな事から大きな事までいちいち衝突する生徒達だ。しかもタチの悪いことに、お互いが真剣そのもので任務の成功率を上げようとした結果だと言うのだから。シナガは尖った口を更に尖らせた。

「先生!俺たちBランク?やった!ランクアップだ!」
「ほらオクラ、火影様はちゃんと俺たちの頑張り見てくれてるんだよ」

お前達が心配だわ、本当…。猫の手も借りたい今の時代がもう少し遅かったら、まだまだ半人前のこの子供たちはDランクのままだったろう。

「…わかり、ました。」
「残党が潜んでるやもしれん、心して当たれ。新、オクラ、シモク」
「はい!」
「任務の内容は木の葉の忍の遺体を回収することじゃ。」

危険度が跳ね上がるじゃないか。シナガは軽く舌打ちした。遺体回収任務は、残党が残っているという前提で行うものだ。医療忍者の自分がいたとしても、下忍3人を抱えて真っ当に戦闘ができるだろうか。…いや、やるしかないのだ。

「わかりました、三代目」

俺がこの子達を守ればいいだけの話だ。



「お前人の死体見たことあるの?」
「いや、ない」
「オクラは?」
「あー…2回くらいかな」

土中家は戦闘一族だ。普段から兄貴肌を見せるがこの中で実践経験が一番にあると言っていい。酷い死体だって、本当は見慣れているのだろう。

「私語はここまでだ。任務の目的地は話したよなァ。ありゃ岩隠れと草隠れの狭間だ。前から言ってるが岩と草は雑食。敵対されればすぐ襲ってくる。そして一番潜んでいる可能性が高い。」

あの場所で木の葉の忍がやられたんだ。潜んでることは、可能性じゃなくても明白だ。

「俺たちは、なるべく戦闘を避けたい。Bランク任務だからといって、お立つな。死ぬ可能性もあることを頭に叩き込めよォ」

オクラは慣れているのか、真顔で返事を返す。シモクと新は実感が持てないのか、ただ曖昧に頷いた。

「そして、最後に。俺が撤退を言い渡したら速やかに木の葉に逃げ帰れ。俺が残ろうと、だ。木の葉への道は覚えていると思うが念のため地図を持っていけ」

広げていた地図を丸めてオクラに差し出した。シナガが欠けた場合。ここでのリーダーはオクラである。

「…シナガ先生、残るの?」
「バァカ。そうなった場合だよ。その時は決断しろ忍として。下忍のお前達3人でも他里の忍を殺れまい」

最悪、俺一人の犠牲で済むなら里にとっての未来であるこの子達の命は守れる。まァ、死ぬ気はさらさらないが。

「特に、シモク。頼むから厄介ごと増やすんじゃねェぞ?」
「……はい」

不安気なシモクは口を真一文字に結んだ。

「この巻物に遺体を回収する。一人一体入れてこい。」
「でも俺たち空間忍術を会得していません」
「その巻物は特別製だ。口寄せの容量で回収してこい。微量なチャクラでも反応してくれる」

死体の数は六体。一人一体回収するならば俺は三体を引き受けよう。何故なら、こいつらは遺体を見慣れていない。忍にとって現実を見て、実感してもらうことは大切だが…。俺には到底耐えられそうにない。担当上忍になった時からの、最初の教え子だ。可愛くない筈がない。

「じゃあ打ち合わせた通りに。まずは目的地まで…………」
「先生?」

…この気配。上手く消しているつもりだろうが、僅かに感じた。他里の忍か。予想の範疇だが、お決まりのように現れるとは。

「二時の方向、敵だ。無駄な闘いはするな。このまま突っ切るぞ。」

それだけ伝えて、走り出した。この時代の下忍は下忍といえども環境故にレベルが高いため、気配の消し方から足音の消し方まで取得済みだ。うまく巻けたか。額当てまでは確認出来なかったが、装束から言って、草隠れだろうか。苦無を数本投げつけられた程度だった。向こうも人出が少なかったらしい。深追いはしてこなかった。

「どんな死体でも、忍の体は情報の塊だ。腕欠けてても首とれてても五体満足で回収してこいよォ」
「え」
「げっそりすんな新。任務だ」

顔色を悪くした新は無言で口に手を当てた。シモクは想像がついてないのか、ぼんやりしている。

「敵に遭遇した場合はすぐに煙弾を上げろ。じゃあ打ち合わせた通りに。散!」



「っおうえ…、」

吐きながらの作業。これが自分と同じ人間だというのか。表現は悪いが、肉の塊にしか見えない。臭いも酷いもので、腐敗臭が鼻腔に充満した。なんだかよくわからない体の一部も掻き集めた。Bランク任務って…こんなんなのかよ。手袋に滲み出てきそうな液体。その臭いに涙を流しながら、やっとノルマを達成した。シナガ先生はこれを三体も回収するのだ。遺体を回収し終えた巻物を小脇に抱えた。シモクやオクラは終わったのだろうか。キンッ!苦無がぶつかる音がした。近い、それに煙弾が上がった!あの色の煙弾を持つのは…。チームメイトの二つの声を聞いて確信する。

「新!いまのは!」
「オクラ!新!」
「ってことはシナガ先生だ!」

ここから近いこともあり、俺たちは一斉に煙弾が立ち上る場所に走った。

「シナガ先生ー!」
「っ、よォ、回収できたかよ」

岩隠れの忍だ!ザザッと地面を擦って弾き飛ばされてきたシナガ先生は俺たちににっこりと笑ってみせた。

「言ったこと忘れてねーな?」

シナガ先生が笑う時は、やばい時だ。

「撤退しろ!」
「先生はっ」
「俺は医療忍者だ。心配すんな」

小声だけど、力強く発せられた言葉に肩が跳ねた。しっしっと手のひらを振られ、後ろ髪を引く思いでシナガ先生から離れる。先生が言ったんだ。撤退しろと言ったら、なにがなんでも、例え先生を置いても逃げ帰れって。下忍な俺たちは先生の足手まといにしかならない。なら早く木の葉に帰って増援を…!

「いくぞ新!シモク!木の葉へ戻る!」
「いいのか!大事な師を見殺しにして!」
「っ!」
「耳貸すなシモク!行け!」

言葉を遮ったシナガは再び岩隠れの忍に突っ込んでいく。オクラはシモクの腕を引き、その場を離脱した。



「…やっぱり戻るよ!」
「なにいってるんだ!今俺たちが行った所でなにもできない!」
「先生の足を引っ張るのがオチだ!」
「だからって置いていけるのか!?俺一人でもシナガ先生の所へ戻る!」
「馬鹿野郎!先生が体を張った意味を考えろ!」

前を駆ける2人に向かって口を開いた。どうせお前らだって助けに行きたいんだろ!?

「増援呼ぶのに3人もいらない!俺はシナガ先生の所に行く!」
「先生も言っただろ!今が、忍として決断する時だ!」

その決断が正しいって言うのかよ!俺はそう思わない!新の胸倉を掴んで引き止めた。

「仲間を見捨てるのが忍?シナガ先生を、見殺すのか?…冗談じゃない。なら俺は忍なんてやめてやる!忍なんて糞食らえだ!」
「!っこの…!待てシモク!!」

新の手を振り切って駆け出した。シナガ先生の方へ。先生は俺にこうも言った。周りを頼ることを覚えろって。だけど、周りが諦めそうになったら、どうすればいい?迷ったら、誰を信じればいい?…自分しかいないよ。だから、俺は先生を助けに行くんだ!増援なんて時間のかかるものより、今手の届く場所で先生は戦ってる。俺たちの認識が甘かったから。だから先生に必要以上の負担をかけたんだ。俺たちが子ども過ぎて!

「っ、先生ー!!!」



「っち、…やっと死んだか」

口に残った水を吐き捨てて地面に座り込んだ。覚悟はしていたがやはり…相性が悪いな。俺は水遁で、敵は根っからの土遁。通常より時間がかかり、その上向こうも結構な手練れだった。あと少し。最後の術を見切っていなかったら、俺の方が死んでたかもしれない。傷口に手を当てて医療忍術を施した。あいつらは無事木の葉へ帰れただろうか…。兎に角、シモクが敵の挑発に乗らなかったことは、褒めてあげ…

「シナガ先生ー!!!!!」
「っあぁ"!?」

嘘だろ…!?

「!良かった!先生大丈夫…」
「っじゃねーよォ!!!なにやってンの!?お前なにやってンの!?」

吃驚のあまり声が裏返った。いや、そんなのいまはいい。取り敢えずこの馬鹿に一発入れなきゃ気が済まん。

「なんで戻ってきた!?」
「っ、だって!先生を置いてくなんて出来るわけがない!」
「任務につくまえに話したはずだ!撤退を言い渡したら速やかに帰還!俺が残っても!」
「先生は!俺に周りを頼れって言った!でも周りが諦めていたら!その時は、俺は俺の忍道を行く!それに…頼らないのは先生だって同じだ!」
「立場が違うだろ!俺は大人!お前は子ども!」

シモクは口を結んだ。そして、普段は出さない大声で叫んだ。

「俺だって先生と同じ忍だ!!!」

…シモクが、言わんとしていることは伝わる。捨てられなかったんだろ、俺を。それは忍として、間違った選択だ。…本当にそうか?シモクは任務よりも仲間の命を優先した。それは、シモクの忍道なのか?間違ってたのは…

「シモク!シナガ先生!」
「オクラ!新!こっちだ!」
「…もう驚かん…」

間違ってたのは、俺だったか?



「報告は以上です」
「ご苦労じゃった。怪我の方はもういいのか?」
「ええ。単なるチャクラ切れです。あの子たちが運んでくれたお陰で回復できましたし。」
「それにしては沈痛な仕置きじゃのぉ」

火影は窓の外で大きな漬物石を正座した膝の上に置かれて悶絶している3人を見て煙管を吹かした。罪状は上司の命令無視した罪。生意気罪。

「…火影、俺が間違ってたんでしょうか。シモクは仲間を見限らなかった。それは、叱ることなのか、と」

シモクの優しさは、時に忍の根本を揺さぶる。

「白い牙の事。俺はあの子達に同じようになって欲しくありませんよ」
「忍の道も数多じゃよ、シナガ。」

ゆっくり、時間をかけて見てやりなさい。一人一人を見極めていけば、その子達が自力で答えを見出すのじゃ。あの子達に、自由を与えてやりなさい。

「…はい」

素直に頷くと、火影は満足そうに笑った。



「ったく、俺らは先生の命令に従ったのに」
「…悪かったって言ってるじゃないか」
「それよりこの漬物石なんか異様に重くないか??」
「オクラ、空気読んで」

3人は正座しながら漬物石を膝に乗せている。術がかかってるのか、やけに重い。

「はぁ、…でも、お前ちょっとかっこよかったよ」
「うむ!羨ましい程にな!」
「……本当に、ごめん、なさい」

しょげる小さな体はやけに小さく見えた。シモクは同い年だが2人より華奢だ。新、オクラ、シモクの順で並んでいる為か、オクラの隣にいたら更にちんまりとしている。

「…俺たちこそ、悪かった。でも、間違ったことはしてないからな」
「個性があるのだ。相違して当然!」
「でも俺、忍としては…」
「お前みたいな忍いても面白いだろ」
「そこが、お前の長所だろ?シモク」

シモクは目を瞬かせて恥ずかしそうに漬物石に顔をくっつけた。

「…ありが、とうございます」
「なんで敬語?」
「お前ら漬物石の調子はどうだ?」

シナガがいつもの覇気のない顔で3人の目の前にしゃがんだ。

「痺れて血管切れそうだよ!!!」
「ほォ、そんなに気に入ったか新。」
「先生、怪我大丈夫?」
「俺は医療忍者だから大丈夫」
「この岩はどこで手に入るのだ!?」
「それは俺が研いで作ったから非売品」

…ゆっくり、時間をかけて見てやりなさい。一人一人を見極めていけば、その子達が自力で答えを見出すのじゃ。あの子達に、自由を与えてやりなさい。

三者三様なこいつらに。俺が出来ることは、ただ一つ。見守ってやることだけ。お前らになにを残してやれるかな。可笑しいな、こんなキャラじゃなかったのに。能面のシナガの名が廃れたな。こいつらといると、どんどん溢れちまう。嬉しい、とか。楽しい、とか。
俺と手を繋いでいる間は、俺が先導してやる。そんなことを思ってたある日の任務。


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リクエストありがとうございました!


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