♀君は頑張りすぎなの(山崎烝)


「山崎さん、遊んでください」
「断る。」
「何故ですか?」
「見てわからないか?」
「分からないから聞いたんです。回りくどいですね、素直に忙しいと言ったらどうですか」
「そこまで察したなら冒頭の台詞はどうかと思うぞ」
「遊んでください」
「だが断る」

見てわかるのなら声をかけるな。同じ齢のくせになぜこうも雪村君と違うものか。沖田さんと局長が甘やかしたせいだ絶対。そんなことを本人に意見する事はないけれども。

「山崎さん」
「引っ張るな引っ張るな」
「このまま袂をちぎられたいですか」
「物騒な事を言うな」

……これも、沖田さんに似てきた。断固この姿勢を崩すつもりはないらしい。だが俺は忙しい。

「なにを書いているんですか?」
「君には関係のない調査の報告書だ。」
「それは、今日必要なものですか?」
「早い方がいいだろう」
「つまり今日でなくともいいと。わかりました」
「……なにがわかりました、だ。返しなさい」
「ならわたしと遊んでください。終わればお返しします」

この糞ガキが。曲がりにも女人であるが論外だ。幼子のような顔で今さっき書き付けた書類を摘み上げ、人質とばかりに懐に入れてしまった。……曲がりにも女人、手荒な事はできない。悪知恵だけは本当に舌を巻く。

「……で。何の遊びをするんだ?」
「ありがとうございます。室内でも出来る遊びを考えたんです。死んだふりです」
「よくわからなかった」
「死んだふりなので動いたら負けです」
「それで、君は楽しいのか?」
「はい、心底」

得体の知れない遊び……その名も死んだふりとやらを二人揃ってやることになってしまった 。…………この無駄な時間を隊務に当てられるというのに。隣で同じく寝そべっている女主名前君はピクリとも動かない。……嗚呼、しかし。こんなになにもせず、ただぼうっとしているのも久しぶりだ。この数日働き詰めだったからか、自然と瞼が落ちてきた。朧気な視界でむくりと起き上がった影が笑ったような、そんな気がした。



「ふくちょう。お邪魔していいですか?」
「なんだ、女主名前か。珍しいじゃねーか。改まって何の用だ。」
「山崎さんが可哀想なのでお暇を与えて欲しいんです」
「あー、それなんだがな…今も山崎の手が必要なんだ。悪いが…」
「ちょっとでいいんです。お昼寝させてくれるだけでも。」
「……だが、」
「雑務なら同じ観察方のわたしがやります。お願いします」

……と、珍しく部屋に寄り付いたと思ったら、そんな話を持ちかけてきた。そりゃ身を粉にして文句も言わずに働いてくれている山崎に休息をあげたくないわけじゃない。だが、どうにもその時間を割けないのだ。結局、山崎の力を借りっぱなしなのだが。自分のわがままで山崎をあの手この手で言いくるめた女主名前の、自分の上司に対する囁かな計らい。

「ふくちょう、山崎さんが書き付けた報告書だそうです。お先に上げておきます」
「おう。こんなに早く書き上げるとはな」
「早い方がいいと言ってました」
「で?山崎にお前の"わがまま"は通じたか?」

童のように見上げた、その表情に土方は「そうか」とだけ笑い返した。



「山崎君がさっき慌てて女主名前のこと探してたんだけど」
「なに、また女主名前ちゃんの我が儘が過ぎたんだろ」
「山崎を怒らせるのだけはいっちょ前だからなー」
「今度はなにしでかしたんだか」

怒り肩の山崎がちょろちょろ走り回る女主名前を追いかける。藤堂は声を上げて笑った。まるで親子のようだと。それに釣られて原田と永倉もその光景を見てから酒を煽った。

「待て!女主名前君!先に遊びを仕掛けておいて本人が途中で飽きるとはどういう事だ!」
「素直に言います、すっごくつまんなかったからですー」
「今日という今日は許さんからな!」
「今日ももう少しで終わりますよー」

自分の後ろを走って追いかけてくる山崎の顔色は先程よりずっといい。それを横目で見詰めてから、

「ごめんなさいってばー」

お決まりのようにその台詞を口に出した。


 


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