♂明日、君の記憶に僕がいるなら(神田)


※注意!最新のネタバレを含みます。
♂×♂表現注意

セカンドエクソシスト。俺達がそれだ。人工的なものでもって、驚異的な回復力を有する。俺は外界の騒音で目を覚ました。お湯のような液体の中から這い出たら、ペタペタと勢い良く足音が近づいた。長い髪を掻き分けられて顔を両手で掴まれた。太い眉毛にキラキラした目はにんまりと破顔した。彼の名はアルマ。後ろはユウ。仲間だ友達だとひとしきり喜ばれた。すぐに駆けつけた研究者に色んな薬を投薬された。アルマは何が楽しいのか、よくユウを無理矢理引っ張ってきては俺の隣に居たがった。その理由がよく分からなくて不思議でたまらなくて。沈黙してたら泣かれた。ユウは慣れたようだった。

時が経って……ユウはアルマを破壊した。俺にはその時の事柄がごっそり抜け落ちていた。加えて使徒として作られたにも関わらず俺のシンクロ率は20%以下を切ってしまった。元々シンクロできない常人の器だ。純エクソシストの臓器が使用されているとはいえ、圧倒的治癒力で持たせている過ぎないこの身はどうやら朽ちるらしい。室長とヘブラスカにイノセンスを取り上げられてからは特に。異様に身体が怠い。

「生きてんのか」
「まだね……」
「一思いに俺が逝かせてやろうか?」
「出来ない癖に……」

ユウだ。長い髪を束ねた同胞。アルマがいなくなってからこの世に唯一無二の存在。ユウは幻覚症状が出ていると、研究者が騒いでいたのを覚えている。どすんと俺が横たわるベッドの側に腰掛け組まれる脚。

「……らしくなく、弱ってんじゃねぇよ…」
「…セカンドの中でも惰弱だったからね…俺は」
「喧嘩で勝てたこと一度だってねーしな」
「2人は……特別だった。」

イノセンスの適合実験では俺よりも長く長く閉じ込められてて。2人が解放されるのが待ち遠しかった。何も要らない。なんだってするから。だから2人と居させて…それが俺の望みだった。実験後の2人の手がぼとりと落ちた時は流石に悲鳴をあげたけど。彼らはなんともない、大丈夫だとむしろ笑っていた。その痛みも感覚も共有できるのはユウとアルマだけ。俺にはできなかった。

「……逝くなよ勝手に」
「だめかい?」
「叩っ斬る」
「嫌だよ」

ユウの目がゆらゆら揺れる。その目を見つめ返していたら舌打ちされた。眠気と共に訪れたそれは急速に俺の最後の一欠片に手を伸ばした。

「…ユウ…先に謝るよ…色々ありがとう」
「!ふざけたこと抜かしてんじゃねえ…!コムイのとこ行くぞ!イノセンスさえありゃ…!」
「イノセンスはもう俺に応えない…シンクロ率が20%を切った…後は朽ちるだけだ」

アルマ…寂しがり屋で友達想いな、大切な俺達の……

「やっと……アルマに……」
「ふざけんな……てめぇ、俺を置いてくってのか。この世界に」
「……この世界は、確かに俺達人造には…残酷だったかもしれない。でも、そればかりじゃなかった」

人間はお母さんという人から生まれ、愛情も持って育てられる。そればかりは俺達セカンドエクソシストには分からないけど、人を大切に思い愛を持つ事を知ってる。

「守るべきことを知れた俺達は。この世にまた息を吹き返せた俺達は、酷く幸せだね」
「……お前は俺の世界だ。いなくなったらどうなると思う。」
「いずれ思い出となってまた造られる。ユウはそれができる」
「簡単に言ってくれるじゃねぇか……」
「信じてるんだよ……」

ユウの俺より少し大きい手が頬に覆いかぶさる。温かい。温かいな。俯かないで。最期まで、顔を見せてほしい。この世に唯一の、俺達の同胞。

「長い間……本当にありがとう。」

アルマ……ようやく……会えるね。



男主名前が死んだ。セカンドエクソシストとしての寿命を迎えた。北米支部の研究所にいた時から何かとアルマと俺はお互い大怪我するまで殴りあったものだが男主名前はそれを嫌い、強靭な回復力も俺達程持たなかった。身体が未熟なまま目覚めてしまったらしい。イノセンスと適合できたのも奇跡中の奇跡で。男主名前はこの黒の教団で今までエクソシストとして生きてきた。のんびりしてて、短気な俺とは真反対。

「ふざけんな」

……今の俺にはお前が世界の全てだったのに。朽ちていく身体を見つめながら久しぶりに咽び泣いた。糞喰らえ、こんな世界。絶望感が腹の底から顔を覗かせた。男主名前はやはりそんな俺とは対照的に、今度はアルマに会えると笑みを浮かべていた。


 


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