♂心に銀色を刻みつける(ラビ)


※♂×♂表現注意

「絶対謝んねーさ!」
「俺も知らねえ!Jr!」
「またですか。二人とも本当に喧嘩が好きですね」

アレンが呆れたような小馬鹿にしたような顔で隣を過ぎていく。今しがた、まじでどうでもいい事でラビと喧嘩した。本気でどうでもいいことで。確か一緒に読んでた本が行方不明になってどっちが持ってんのかでお互いがお互いの部屋をひっくり返したというやつ。ラビも俺も気に入ってたやつだからヒートアップした。

「男主名前がなくしたに決まってるさ!俺は置いた場所くらいきちんと覚えてるし!」
「へーえ!あんなに部屋ごっちゃごちゃな癖にな」
「おめーが取っ散らかしたんだろー!」
「はいはい、お前ら仲いいのはわかってっから。男主名前。室長が呼んでたぜ。任務だな」

リーバーさんが疲れ顔で呼びに来た。ラビや他のエクソシストが呼ばれないってことは俺1人の単独任務か。返事を返して未だにぶすくれてプイっと顔を逸らしたラビに一言。

「てわけで。喧嘩の続きは帰ってから。覚えてろや」
「上等さ!」
「いってきます」

余程、俺に怒ってたんだろうな。俺もあいつも好き好んで喧嘩なんてしたくないんだけど一種のコミュニケーションになっちまった上に、今回の喧嘩は稀に見る長期戦だ。気に入ってたんだろーな。あの本。ブックマンのラビが物を忘れるわけない。じゃあ俺じゃねーか。なんて汽車に揺られながら頭が冷えたけど、今はもう任務中で。帰ってからでいいか。なんて考えながらファインダーと共に教団から離れた。どんな喧嘩したっていってらっしゃいは言うやつだったけど。今回は俺が悪かったからかな。いってきますの後が返らなかったのは。

「……ファインダー。少しだけ寄り道させてもらっていい?」
「はい。今回は調査ですから」
「恩に着る」

コムイ室長に言われたとおり、今回は調査のみだ。アクマ出没の危険性は低い。だからエクソシストは俺だけなんだろう。鉱山が見える街の一角、古本屋を覗いた。タイトルは覚えてる。だけど生憎俺は置いた場所を覚えてないから返す事はできない。ならば弁償してしまえ。それでラビも少しは機嫌直すだろ。

「ファインダー、お待たせ。じゃあ行くか」



男主名前が任務に出てから持て余した機嫌を寝ることで調節した。……なんで俺あんなムキになったんかな。沢山あるジジイの書物のひとつだった。なんてことない夢物語。最後は幸せに暮らしましたで終わる話。喧嘩の理由にしては幼稚。男主名前と喧嘩してると心地よかった。普段から纒わり付くブックマンの役目を忘れられた気がして。気負うことが……なくなった気がして。いや、カチンときたのは俺のことをJrって呼んだから。名前に固執なんかしてねーけど今の俺はラビで。……拗ねて返さなかった「いってらっしゃい」を「おかえり」で返済する為、部屋を出た。喧嘩した数時間後にはケロッとしてる奴だ。もしかしたら帰ってきてるのかもしれない。

「……遺体は回収できたのか?」
「…破損が酷すぎてな…なんとかコートのボタンで確認がとれた。面影ねぇから見ない方がいい。一緒にいたファインダーは報告出来るほど落ち着いてないってよ」
「生きてるだけ立派だよ…」

……誰か死んだのか?エクソシストで。

「ラビ」
「アレン。何の騒ぎだ?誰か……」
「……男主名前さん。」
「?」
「任務で死んだのは……男主名前さんです」

ブックマンの役目は歴史の表舞台から除外された史実、裏歴史を記録すること。今までと変わらない。教団に入ったのも、兵士としてこちら側から記録を行う為。それだけの為。

「ラビ……」
「……ノアが、出たらしいの。鉱山の近くで」

アレンとリナリーに連れられて棺の前に立った。黒く塗られた木製の木箱にヴァチカン。開けようと手を伸ばしたら止められた。

「……ラビは見ない方がいいわ。体の殆どが欠損してて、…頭が、潰れちゃってるから…」

これも、記録だ。歴史の中の小さな小さな兵士の記録。二人の静止を振り切り、蓋をずらして開けた。欠けた箇所は包帯で包み込まれ、……下半身はなかった。随分ちっさくなったさ。ジジイ並だ。左顔も包帯で巻かれて隠されてはいるが、そこも欠けてしまっているんだろう。

「……なぁ。悪い。ちと1人にさせてくんね?」
「…わかりました。リナリー。行きましょう」

仲間を大切に思うリナリーは、俺の前で我慢してたらしい決壊した涙を零しながら歩いていった。仲良かったもんな。そりゃそうだよな。俺も、ああいう風に泣ければ……。

「喧嘩の続き、お預け食らったさ」

俺はブックマン。記録のためにここにいる。そっと耳をその胸につけてみた。命の鼓動は聞こえない。ひんやりとした冷たさがコートの下から伝わった。

「……なんか、お前といたのが夢みたいで。呆気なさ過ぎ。どうしてくれんさ。」

どうして、喧嘩なんてしたんだろ。どうしていってらっしゃいの一言を、今日に限って言わなかったんだろ。どうでもいい喧嘩をなんで笑い話に変えてやらなかったんだろ。

「ここが気持ち悪ぃんさ…モヤモヤして。」

これ、後悔だろ。わかってる。情けねえブックマンの俺が。寝てるように閉じてる瞼に。怒鳴りあった口に。

「見てこれ。涙出てきたっての……」

ほら。未熟者の証。ふと気配を感じて背後を振り返ったらジジィがいて。小脇に抱えたものを俺に差し出した。

「紛失したと騒いでいた物だ。お前のベットの下に落ちておったわ」
「…は。なんだ。俺がなくしたんだな。なんさ…そのオチ。聞いたかよ、男主名前」

俺が悪かったさ。全部、俺が。思わず笑いかけちまった。心無しか馬鹿にしたような笑い声が聴こえたけどこれは俺の妄想。

「……それ、なんさジジイ」
「男主名前の遺品と聞いた。この紙質、お前なら覚えがあるんじゃないか」

紙袋を俺に渡したジジイは静かに部屋を後にした。俺ならわかる、男主名前の遺品?

「……弁償……したの?」

覚えのある紙質。血で染まっているが紛れもない、さっき渡された本だ。ページを捲ろうとするとパリパリと音がして破れた。

「バカさぁー…俺がなくした可能性だって、全然あったじゃねーか。なに早々に仲直り対策してんさ、バカヤロ……」

俺はブックマンJr。教団側にいるのもイノセンスが適合しているから都合が良かっただけ。兵士に身を窶し、その立場から記録を行う。世界を記録し歩く者。ブックマンに心はいらない。あっちゃだめなんだ。

だけど頼む。いまだけ。ほんの少しだけ泣かして。ほんの少しだけ、こいつとの記録を巻き戻させて。部屋を出たらこの戦争に命を落とした兵士の名前を。顔を。すべて記録し終えたブックマンに戻るから。


 


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