♂あなたの言葉、信じるよ。(黄瀬)


※♂×♂表現注意

モデルの黄瀬涼太も、バスケの黄瀬涼太も、学生の黄瀬涼太も、俺の恋人の黄瀬涼太も。どんなお前も 俺は 大好きでした。

あの日俺は無我夢中だった。夢中で家から二駅も離れた病院に全力疾走で駆け込んで。その間も頭真っ白だった。息の仕方、どうするんだっけ?ってバカみたいなこと考えたり。

「黄瀬…?」
「男主名前っち……スか…?ごめんね…よく、わからな…」

麻酔のせいで、意識も混濁していた。黄瀬の健康的な顔色が、酷く悪かった。その、ムカつく目元も、らしくなく弱々しくて。

「なん…だよお前…か、笠松は…過労だって…言って…」

目の前の黄瀬は酸素マスクに繋がれた。まるで……病人じゃないか。

「か…まつ……笠松!!!!!」

病室の外で鉢合わせた笠松の胸倉を掴んだ。お前、過労って言ってたよな!!?

「なんだよこれ、話が違う!!!黙ってないでなんとか言えよ!!!」
「ふざけんな!!!俺だって信じらんねーよ!!!!」

逆に壁に叩きつけられた。身長の低い笠松が、苦しくて仕方が無い。そう言わんばかりの目で俺を睨み上げる。俺の服を掴む手が、小刻みに震えた。

「黄瀬が…黄瀬が、お前には、お前にだけは、知られたくないって」
「は…?」
「だから、…俺は、黄瀬の希望を、聞いた…!」

ふ、……ふざけんな、…

「お前こそふざけんなよ!!!女じゃあるめえし!!俺が、この俺が!隠し事されて黙ってるわけねぇことぐらい!わかってんだろ笠松!!!」
「黄瀬の言葉を聞け…!」

笠松の、押し出すような声。

「女も男も関係あるか!…黄瀬の気持ちを、考えろ…!!!」
「なんの…気持ちだよ…!」
「…黄瀬は、」

笠松の口から紡ぎだされた病名は、馬鹿な俺にはどうにも理解できない。いや、頭での理解は出来たのかもしれないが、心は理解できなかったんだ。頭と心は別っていうだろ?

「黄瀬」
「男主名前っち」

ただでさえ細いのに、ここにきて更に食は細くなった。白ばかりの部屋にいたら、黄瀬まで白くなっていく気がして、少し怖い。見舞いの品が積まれている机に、窓辺もびっしり見舞い品だ。

「お前、本当に愛されてんな」
「へへ、まあね」
「黄瀬、俺今日、なに持ってきたと思う?」

パイプ椅子を引っ張ってきてその上で脚を組んだ状態で頬杖。

「んー…前は梨だったッスよね?じゃあ、今日は…桃!」
「ブッブー。正解は、梨」
「連続っスか!」

恒例の、見舞い品クイズ。

「大学の授業はどうっスか?」
「変わんねーよ。さっぱり理解できねえ」
「っはは!男主名前っち、まじ変わんねえ!」
「バカか。この短期間でむしろどう変わるんだよ」
「……そうやって」
「あ?」
「そうやって、ずっとそのままでいてくださいっス」

黄瀬の顔は、いつも聡明だ。綺麗なものしか観たことがないっていう、そういう顔。それは今思うと死期を悟った顔だったって思える。

「…」

黄瀬のカサついた唇に自分のを重ねて、小さくなった肩を抱き寄せた。

「変わらねーよ。俺もお前も」

肩が震える。

「…、っ、そう、っスか、ぁ?」
「おう」
「俺、俺も、…バスケとか、できなっ、スよ……?」
「うん」
「男主名前っちと……歩く、ことすらっ、で、できなっ……ッ、」
「いーんだよ黄瀬。こうしてんのは変わんねーだろ」

黄瀬は、何度も頷いたけど、気休めにもならないその言葉。お前がどう思ってたかなんて、今じゃもう聞けない。俺は、黄瀬になにができただろう。それから、一年と二ヶ月。黄瀬は俺の前から消えた。

「…あ」

黄色の花を見ると、どうしても黄瀬を思い出す。胸ポケットを探って取り出す。黄瀬が、俺宛にと書いた封筒の中に一つ、入っていたものだ。黄瀬の形見といってもいい。それを片耳につけていると、黄瀬が俺を通して同じものを観てる気にさせてくれる。

「黄瀬、俺、今日なに持ってきたと思う?」

どうせ、墓前だからって果物ー、とか答えてるんだろ?

「そんじゃあ、まあ、お前驚くと思うけど、照れるし、俺なんも言わねーよ」

コトリと置いた手のひらに収まる箱。黄瀬の墓石をポンと撫でて墓園を後にした。

「そういや男主名前結婚したんだな。その指輪、結婚指輪だろ?」
「まじで!?おめでとう!なんで教えてくれないんだよ!」
「あ?まあ、照れるし」
「んだよ!なあ!相手は!?相手どんな子?」
「……聡明で、ばかで、人懐こくて人一倍、負けず嫌いだった。大好きだ。今も」

今も変わらず、大好きだよ。黄瀬。


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