♂距離を測り損ねてしまった(青峰)


「青峰!」
「!男主名前!」

無数の照明が天井から差し込む。太陽のギラギラとした暑ささえ感じる。青峰は自分の名を呼ぶ相手チームを見つけて駆け出した。それを赤司達はなにも言わずに見送った。彼は、青峰のライバルだ。最近、異様に強くなりだした青峰の。全力を出せる最後の相手。それが、男主名前だ。

「お互い、決勝まで残ろうな!」
「おい俺を誰だと思ってんだよ!てめぇこそ半端な所で転けんじゃねーぞ!」

帝光中学と言われれば、部員数100を超え、全中三連覇と名高い。その輝かしい歴史の中でも特に最強と呼ばれ、無敵を誇った…10年に一人の天才が5人同時にいた世代は"キセキの世代"。青峰が、まだ笑顔でプレーが出来ていた頃の話。



「おい…男主名前」

なんでだよ。お前まで、…。

「お前まで、っ!諦めんのかよ!」

俯いた男主名前の背中。小さく肩を震わせている。チームメイトも全員そうだ。もうベンチからの声援も聞こえない。オーディエンスの声も、ない。ただ静寂の中、コートの中心で青峰の悲痛な声だけが、一人の背中に掛けられる。

「お前は…ッ!!お前だけは!!俺のライバルだって!!だから俺は決勝で…っ」

お前と、バスケが出来るならって…!

「なんで全力でやってこねーんだよ!」
「…っふざけるな!!全力でやってこないだと…?俺達の誰一人、手ェ抜いてるものか!!!」

バッシュが地面を擦る音と共に振り返ったその瞳には薄い膜が張られてた。俺が、泣かせた…?男主名前を、俺が。

「…なあ、教えてくれ。お前こそ、なんで…俺のライバルでいてくれなくなったんだ…?」

その言葉が、傷口を抉る。点数版が目に入って、唖然とする。
点差 60

「俺が、弱いからか?お前はもう強くなったから、俺はもう眼中にないって…?」
「ち、が…っ」
「…青峰。試合はまだ終わっていない。積もる話は、それが終わってからにしろ」

赤司の制止の発言。まだ、試合は終わってない…?終わったようなもんだろ…?男主名前は、もう、闘う意志を失ってる。俺を、見ようとしない。出会った頃、あんなに輝いていた瞳が。今日で、絶望の真っ黒な色に押し潰されていく。程なくして…決勝試合は終わりを告げた。俺がなにもしなくても、紫原達が。完全勝利で、今年の全中は幕を閉じた。

「青峰、彼と親しかっただろう。時間をやるから、話をつけて来い」

少し気遣いが見え隠れする。でも、そーゆうとこも赤司らしい。相手チームの控え室の外で一人待った。ぞろぞろと出て行く男主名前のチームメイト達は、俺を見やると唇を噛みながら前を過ぎ去っていく。当然の反応。肝心の男主名前が出てこないのに痺れを切らして、控え室の扉を少し開けた。

「…」

ベンチに腰掛けていた。ユニフォームは着たまま。ジャージを羽織ることもしない。

「…男主名前、」
「…お前、帰ったんじゃ…」
「赤司……、キャプテンから時間貰った。話して来いって」
「話すことなんて…ないのに、そのキャプテンも、優しいんだな」

いまにも零れそうな目尻に溜まった涙に、心臓が痛くなる。なんで。俺は、そんな顔させたかったわけじゃねーのに。

「だけど、いいんだ」

嫌な、言葉の綴り。聞きたくない。多分、その先は、その先…は。

「俺、バスケ、やめるからさ」



「大ちゃん?」
「!…さつき」
「大丈夫?」

魘されていたと、さつきが覗き込む。…嗚呼、その顔。心配かけた時の顔だ。

「試合、始まるよ?」

そうだった。これから誠凛…テツと試合だ。…何度やっても同じだってーのに。わかってんだろ、テツ。言ったはずだぞ。影は光に勝てない。お前のバスケじゃ勝てねーってよ。男主名前は、本当にバスケをやめた。今じゃどこでなにしてるのかもわからねぇ。もし、どこかでバスケをしているなら、さつきの情報網にかからない訳が無い。あいつは強かったんだから。俺と渡り合える存在だったんだから。力が漲っていく感覚が恐怖に感じた瞬間。俺達に敵はいなくなっていた。無冠の五将なんて、他よりマシな人達がいなくなってからは、まじで敵なし。楽しいはずない。嬉しいはずない。機械的に勝利を掴んでは当然のように積み重ねていく。男主名前、もし俺があの時のまま、お前のライバルをしていられたら、楽しくバスケ、出来てたのか?勝利をかけて、一心不乱に。なにも難しいことを考えないで、ただ…。

「わーってるよ」

ダチを追い込んで、絶望させて、大好きなもんを奪った。内側から錆びていくようだ。息苦しくて苛々する。あの背中を思い出しては、焦燥感に駆られる。なんでだよ。お前は、お前だけは、と信じていたのに。…俺はただ、バスケをしていただけなのに。


 


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